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「………嫌な予感しかしない」
那由多は足下に転がる人物の頭部を踏みつけ、赤い空を見上げた。
「先ほど、一瞬だけハロの気配がしたな」
赤い燕尾服に黒いシャツ。赤い蝶ネクタイに赤いシルクハットを身につけたベリアルは、那由多の足下に転がる人物を見て、短い嘆息を漏らした。
何もない、広陵とした大地には似つかわしくないシルクハットの下の顔は、白い肌の涼しい顔をした好青年だった。青い瞳には知性の強い輝きが見て取れ、引き締まった顔は彼が切れ者であることが伺える。
「まだまだだな、龍樹」
那由多は足を退けると、つま先を胸の下にいれ裏返した。ボロボロになた人物、神(こう)月(づき)龍樹は鼻血を手の甲で拭うと、なんとか体を起こした。元はいい顔なのだが、今は青タンだらけで顔中が腫れてパンパンに膨らんでいる。
「くっそ……、これだけ訓練を積んでも、まだ那由多に勝てないのか」
「それもそうだ。マスターは、こちらで千と数百年修行をした。お前はまだ数百年しか修行していないだろう。当然だ」
「なかなか上達したよ。赤い月が昇るまで、まだ数ヶ月あるんだろう? 頑張れよ」
「生き返るまで、魂が無事なら良いけどな」
「此処は地獄だけど、悪魔達だって良い奴らばかりだろう? ま、下の方に行ったら、亡者共には気をつけろよ。模範囚なら良いけど、ガラの悪い奴らも沢山いるから」
「ああ、そうする。那由多も大変だな、色々と巻き込まれて」
「使いたくはない言葉だけど、宿命って奴だな」
「龍樹、風呂に入って今日は休め。明日からまた地下へ潜ってもらう。お前が蘇る赤い月の日まで、残り時間は少ない」
「分かったよ、師匠。じゃあな、那由多。今度は、現実世界で会おうぜ」
「ああ、楽しみにしてる。紹介したい友人達もいるしな。今、狐の嫁入りで大忙しなんだよ。いずれ、手伝ってもらう事になるだろうからな」
「ああ、あっちに戻れたら、何でも手伝うよ」
「訓練だけじゃなくて、勉強も怠るなよ。下に行けば、現実世界と時間軸が違うんだ。いくら馬鹿でも、数百年勉強すれば、かなり頭が良くなるはずだ」
「マスターは、今でもテスト前はこちらに来て籠もるけどな」
「余計なことは言うな。俺は自由に行き来できるけど、龍樹は片道切符だろう。一度生き返ったら、二度と来られないさ」
「ああ、ちゃんと勉強しておく。悪かったな、忙しいのに訓練に付き合ってもらって。参考書もありがとう」
「構わない。俺も目的の悪魔が来るまで時間を持て余すしかなかったから」
「助かる。じゃあ、現世で」
ふらつく足取りで、龍樹は小さな小屋に入っていった。
自分と同じく、数奇な運命に翻弄される龍樹を見送った那由多は、もう一度赤い空を見上げた。