テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
48
340
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
雨の匂いが残る夜だった
ネオンの瞬く高層街、その最下層
腐った配線と汚水の流れる地下区画を、三つの影が歩いていた。
「……今回の依頼、妙なんだよな」
先頭を歩く男――モトキが、小さく呟く
黒い戦闘服の裾を揺らしながら、彼は片手で拳銃を回した
紫に染まる毛先が、赤い非常灯を受けて鈍く光る
「国直々の依頼でしょ? 報酬もデカいし、いいじゃん」
後ろから明るい声が返る
ヒロトだった。
彼は短剣を振り回し、いつもの軽い笑みを浮かべている
こんな死臭の漂う場所でも、空気を暗くしない男だった
「ボクは、なんか嫌な感じするなぁ」
最後尾
巨大なハンマーを片手で引きずるリョーカが、ぼんやりと言った
ガガ……と床が削れる。
普通の人間なら持ち上げることすら不可能な鉄塊
それを彼は木の枝みたいに扱う
「リョーカがそう言う時、大体当たるんだよな」
モトキは苦笑した
その時だった
――ピチョン
天井から黒い液体が落ちた
ヒロトの頬に一滴、付着する
「……ッ」
瞬間
天井が、割れた
■■■■■■■■■■■■
“それ”は、人型だった
だが、人間ではない
全身が黒い肉で構成され、
顔には目も鼻もなく、
裂けた口だけが異様に広がっていた。
バグ
その変異種だった
「伏せろッ!!」
モトキの銃声が地下通路に轟く
パンッ!!
パンッ!!
パンッ!!
三連射
弾丸は正確に頭部を撃ち抜いた
だが
「再生してる!?」
ヒロトが叫ぶ
撃ち抜かれた肉が、粘土のように戻っていく
変異種
通常個体とは比較にならない
それが
こちらを見た
いや
違う
見ていたのは――リョーカだけだった。
「……やっぱり」
リョーカが呟く
その声は、どこか寂しそうだった。
変異種は絶叫した
耳ではなく、脳を直接掻き回すような叫び
ヒロトが顔をしかめる
「っ、クソ……!」
その瞬間
変異種が消えた
否
速すぎて見えなかった。
「リョーカ!!」
モトキが叫ぶ
次の瞬間には、
変異種の腕がリョーカの胸を貫いていた。
金属が砕ける音
火花
飛び散る機械部品
だが
リョーカは笑っていた。
「つかまえた」
変異種の腕を、
リョーカが掴んでいた
ギギギギギ……!!
サイボーグの握力で骨ごと圧壊される
変異種が暴れる
その瞬間を、
モトキは見逃さなかった
「ヒロト!!」
「了解!!」
ヒロトが走る
床を蹴り、
壁を蹴り、
変異種の背後へ
短剣が閃く
ズバンッ!!
首が飛ぶ
直後
モトキの銃弾が、
切断面に撃ち込まれた。
炸裂弾
内側から肉を焼き尽くす
変異種は、断末魔もなく崩れ落ちた。
静寂
地下に、荒い呼吸だけが残る
「……終わった、か」
モトキが銃を下ろす
その時
リョーカの胸の穴が、
ゆっくり閉じていくのを見て、
ヒロトはいつもの調子で笑った。
「相変わらずバケモンだな、お前」
「ヒロトくんに言われたくないなぁ」
「ははっ、違いねぇ」
二人が笑う
だが
モトキだけは笑っていなかった。
変異種
あれは明らかに、
リョーカだけを狙っていた。
まるで
“知っていた”みたいに。
■■■■■■■■■■■■
青リンゴ商会本部
薄暗い事務所で、
モトキは一人、資料を見ていた。
机には大量の写真
破壊された街
食い散らかされた死体
そして
リョーカ。
監視対象コード: RX-00
「……なんだよ、それ」
モトキの目が細まる
その時
背後から声がした
「見ちゃったんだ」
振り返る
リョーカだった
珍しく、
笑っていない
「……お前、何者なんだ」
沈黙
数秒の合間をもって
やがてリョーカは、
静かに言った。
「ボクね」
その瞳が、
どこか遠くを見る
「昔、“ヴェルトラウム”にいたんだ」
空気が凍った
ヴェルトラウム
世界を壊した元凶
バグを生み出した存在
その名を、
こんな近くで聞くとは思わなかった。
「……冗談、だよな」
モトキの声が掠れる
だが
リョーカは笑わない
「ボクが最初の成功体なんだって」
ぞわり、と
背筋が粟立つ
「……成功体?」
「うん。人間でもなく、機械でもなく、バグでもない」
リョーカは、
自分の胸に手を当てた。
「だから変異種は、ボクを食べたがる」
モトキは何も言えなかった。
今まで共に戦ってきた仲間
笑い合ってきた仲間
その正体が、
世界を壊した側だったなんて
「……でも」
リョーカが小さく笑う
「モトキくん達といる時間、好きだよ」
その笑顔が、
あまりにも普通で
だからこそ、
モトキは苦しくなった。
■■■■■■■■■■■■
その夜
青リンゴ商会は襲撃された。
警報
爆発
悲鳴
窓の外を埋め尽くす、
無数のバグ
そして
空から降りてきた“それ”
白い外套
人間の形をした、
何か
『回収対象RX-00を確認』
機械のような声
『排除を開始します』
瞬間
事務所が吹き飛んだ
モトキは瓦礫に叩きつけられる
肺から空気が抜けた
視界が揺れる
「モトキ!!」
ヒロトが駆け寄る
腕が半分吹き飛んでいるのに、
再生しながら笑っていた。
「ったく……派手すぎんだろ……!」
その時
白い影が降りる
速い
ヒロトですら反応が遅れる
だが
ガァンッ!!!!!!
巨大なハンマーが、
白い影を吹き飛ばした。
リョーカ
彼だけが、
静かに前を見ていた。
「……来ると思ってた」
その声は、
どこか諦めているようだった。
白い影が起き上がる
仮面の奥から、
無数の赤い光が漏れる。
『RX-00』
『帰還命令を執行します』
リョーカは答えない
代わりに、
ハンマーを構えた。
「ボク、帰りたくないんだ」
モトキが息を呑む
リョーカは、
初めて“感情”を露わにしていた。
「だって」
彼は小さく笑う
「やっと、“友達”ができたから」
次の瞬間
戦争みたいな戦闘が始まった。