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「わっ、律!みて、カピパラ!!」
「うん、”カピバラ”な。
この間抜け面さぁ……ちょっと美紅に似てない?」
「はぁ??それを言うなら……
ほら。あっちの岩山に、いっぱい律いるよ。
わー、上手に縄渡れてエライねぇ」
「誰がおサルや。
ほなもっと、美紅に相応しいのおるで」
「えっ、どれどれ?
ウサギとかリス?ヒツジでもいいけど」
「そんなキュルキュル代表動物の名前、出すワケないやろ?
ほら、あっこにおるやん。
でっかい口開けて……まるで土日の美紅そっくり」
「あれって…………
かっ…………カバ!?そっくり!!?
どストレート悪口じゃん!!」
「ははっ、よう見たら可愛い顔してんで」
「くっ……なんだその嘲笑……むかつく。
一生恨んでやる……っ」
「おー。
俺の一言が一生残るんなら、それはそれでアリやなぁ」
「エッ……な、なんかコワ。
えーっと…………あ、タクマくんは?
タクマくんのイメージに合う子も探そうよ」
「俺、もう見つけてる」
「ほんと?
実は私も、思いついてる子いるんだよね。
じゃあ…………せーのっ」
「「フクロウ!」」
「はは、ハモった」
「あはっ、考えてること一緒だったね。
あー。いーなぁ、タクマくん。
かっこいいし、知的イメージなフクロウで。
……私はカバ、なのにねぇ???」
「やべ。本気で根に持ってるな、これ。
…………もちろん冗談やったのに」
「あ……パンダ!!!
律、ついにパンダだよ!!!」
「え、”ついに”?」
「うわぁ……ぽってぽてで可愛いねぇ〜〜。
ねっ、律?」
「う、うん。そやな。
あの半笑いの顔といい、寝方といい……
若干あざとさも感じるけどな」
「えー……。
ねぇ、律。もしかして……機嫌悪い?」
「え?いや、むしろ…………いや、なんで?」
「だって、反応薄いし。
せっかく律のお目当てのパンダなのに」
「え、いつの間にパンダ目当てになったん?俺」
「それにさぁ……
やっぱり今日の律、なんか怖いもん」
「え」
「いきなり私のカバン取ろうとしてきたり、
チケットも勝手に買って押し付けてきたり、
歩く位置を指定してきたりさぁ……
いつもの律じゃない」
「……うーん。
『裏目に出てんなー』とは感じてたけど……そんな野蛮に映ってたんや。
“失敗しないエスコート3選”、全然役に立たんな」
「なんて?サンセン?」
「いや、独り言。気にせんといて」
「んもー。なによ、その変な態度。
律とこういうとこ来るの、久しぶりなのにさぁ……
結構楽しいって思っちゃってるの、私だけ?」
「え………………楽しい?」
「そー。残念ながら今回は、律と意見が合わなかったみたいだね」
「い、いや……そんなん、俺だって…………っ」
「…………俺だって?」
「俺だって……………………それなりに」
「それなりかいっ。
勢いよかったから『楽しくて幸せで酸素薄い』くらい言うのかと思っちゃった」
「そっ……そんな事言え……言うワケないやろ」
「はっ、そうだ。”楽しい”で思い出した。
律に聞いて欲しい話あったの」
「え……何?」
「いやー、実はさぁ……。
この前、生まれて初めて……告白されたんだよね」
「は?」
「『私が居ると楽しくて好き』って言ってくれたの。
あ、自慢したいとかじゃなくってね。
そうやって、想いを伝えられるって……凄くない?
私には出来なかった事だからさ……。
なんだか他人事みたいだけど……とにかく尊敬しちゃったんだー」
「え……ちょっ……ちょ、ちょっと待って?
え?全っ然頭に入ってこんねんけど。
告白って………………だ、誰から??」
「え、誰って……律の知らない人だよ?職場の先輩」
「と……年上………また……………」
「そう。青木さんっていってね、同じ部署で色々教えてもらってるの。
まぁ、その……悪い人ではないと思うんだけどね……」
「え……で?なんて返事したん?」
「いやー……プライベートな部分とか、ほとんど知らないし。
申し訳ないけど『そんな風に考えた事なかった』って伝えたよ」
「………………それで、相手は?」
「うーん……それがねぇ…………」
「……………………」
「『まずは自分を知って欲しい』って。
それで、『とりあえず食事でも』だって」
「…………それ、行くん?」
「うん。明日」
「あ、した…………………」
「うん。
今まで圭くんの追っかけしかしてこなかったから、
恋の始め方とか、よく分かんないし。
行ってみれば、何か掴めるかもって思って」
「……………………」
「これってさぁ……
一応、”デート”ってことになるのかな?
ちょっと心配なんだよね。
相手は慣れてそうなんだけど、私は初めてだから……」
「………………初めてじゃないやん」
「へ?」
「俺……今日のはデートやと思ってるけど」
「え…………今日って………………今日?」
「そう。今日っていうか……今」
「今って…………イマ?」
「そう……って何回言わすん」
「だって……え、どういうイミ……?」
「っ……だから。
俺は今日、デートのつもりで誘ったの!
……あーもう。『楽しい』なんて言われて、さっきまで浮かれてたのに。
…………突然、地に叩きつけられた気分やわ」
「……何よ、そのジト目。
私のせいって言いたいの?」
「………………はぁ。
『意見合わん』とか、コッチのセリフやで。
俺なんか……昨日の夜、寝れんかったのに。
そんで、柄にもなくエスコートの仕方とか調べてみたりしてさぁ……」
「ちょっ……ちょっと待ってよ。
さっきから聞いてたらさぁ……
それじゃあまるで……律が私のこと………っ」
「……………………うん。俺——」
「なーんちゃってね」
「え」
「大丈夫、わかってるって。
律の魂胆も、常識レベルで把握してるんだから」
「…………はい?」
「いつもとはまるで違う行動や発言の数々……
でも、どこか無理をしているような……そう、ぎこちない感じ。
それはきっと、相手が私だから——」
「えーと……つまり?」
「——つまり。
律も近々、誰かとデートの予定なんでしょ。
私を練習台にして、色々試してるってトコだね」
「は?いや、ちがっ……」
「そもそも、いきなり動物園なんておかしいと思ってたんだ。
まぁ、さっきのデート発言は中々良かったけど……
ホンモノの時は、もうちょっと丁寧に伝えた方がいいと思うよ」
「え、あの……グサりすぎて言葉出ん」
「仕方ないなぁ。
律のデート、素人の私なりに採点してあげる」
「ちょっ……聞いてよ、美紅。ちゃうんやって」
「よしっ、次のゾーン行くよ。
モタモタしてるなら置いてくからねー!」
「えっ、待ってよ。
歩くん早いって!なぁ、美紅!」
「はー……………焦った。
なにあの真剣な顔…………もう。律のバカ」
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