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「記憶」
僕はいつも通り学校に向かった。
学校の校門付近では沢山の人達が通路に沿って並び、何やらチラシ配っていた。
「お願いします。」
「お願いします。」
チラシを配っている生徒達の声が響き渡っている。
そっか来月には生徒会長選挙があるんだ。
生徒会長選挙は毎年10月に行われるらしい。
今年僕達が入学して来て半年が経とうとしている。
早いもんだ。
僕は荷物が増えるのが嫌なので、チラシを渡されないように足早に歩いた。
玄関に入って、自分の下駄箱を目指す。
それから僕は下駄箱を開ける。
下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。
「またか。」
少しだけ面倒に思った。
そして、僕は周囲に誰も居ない事を確認した後、その場で手紙を開く。
『晴斗君へ 今日の放課後生徒玄関に来てください。お願いします。』
「ん?何で生徒玄関?目立つじゃん。」
まぁ僕は良いけど。
僕はそれから中央の階段を上がって、教室に向かった。
「おはよう。」
僕が教室に入ると山内と岩田と他のクラスメイトの男子に突如囲まれた。
おそらく、彼らは僕に聞きたいことがあるのだろう。
大体、見当がつくけど。
すると、山内が代表して尋ねてきた。
「晴斗。お前、昨日佐藤さんと一緒にいただろ?!何人もお前と佐藤さんが一緒に歩いているのを見たってやつがいるんだよ。」
皆の目線が僕に集中している。
「昨日、たまたま会ったから一緒に帰っただけだよ。」
「マジかよ!!」
「良いなぁ!!」
彼らは事実を知り、僕を羨ましがった。
佐藤さんはこの学校の生徒がほとんど知っているいわゆる高嶺の花だ。
勉強もそこそこでき、容姿にも恵まれているその上性格が良いと来たら、男共が黙っている訳がない。
「何だかんだ、お前モテるからなぁ。」
と岩田が言った。
「まぁ、彼女をそんな目で見たこと無いけどな。」と岩田に続いて言うと、僕は虎の尾を踏んでしまったのか、彼らに授業が始まるギリギリまで拘束された上、説教までされた。
やっぱり面倒くさい。
終礼を終えて人が少なくなったのを確認した後、生徒玄関に向かった。
階段を降りると、玄関にショートヘアの子が立っているのが見えた。
僕は下駄箱を開けて靴を履いた。
手紙の主と思われる彼女がこちらに気づく。
「あっ、晴斗くん!!」
ん?なんか聞いたことある声だ。
僕はふと彼女の顔に目線を運ぶ。
「また、佐藤さんか。」
「またって何よ!!失礼じゃない?」
「ごめん、佐藤さん。今は君に構ってる暇は無いんだ。他を当たってくれ。」
「どうしたの?」
「いや、手紙で…….。」
「あっ、それ私。」
「はい?」
彼女の話によると、彼女は僕と待ち合わせをするために手紙を置いていたらしい。
告白だと勘違いしていた僕が馬鹿みたいだ。
「で、佐藤さん。何の用?」
「晴斗くんと行きたい所があってさ。」
全然、思いつかない。
「そこって何処なの?」
「君も知っている所だよ。まだ入ったこと無くて~、って全部言っちゃたら楽しみなくなっちゃうね。」
それから彼女は僕に着いてくるように言った。
今日はどうせ暇だったので、彼女に付き合ってあげようと思う。
一体何処に連れて行かれるのかを考えていると彼女はぼーっとしていた僕の腕をつかみ、引っ張ってズンズンと歩いて行く。最初こそは抵抗しようとは思ったけれど彼女の強引さに負け、諦めた。
僕達は坂を下った後、左の細道を歩いた。
ん?なんかこの道順知ってるぞ。
僕達はそれから小さな道路に出て、嘉村堂の前で立ち止まった。
「やっぱりここか。」
「そう、駄菓子屋さん。『嘉村堂』って書いてある。」
「何でここなの?」
彼女はその質問を待っていたのか嬉しそうに答えた。
「前からこのお店気になってたんだ。ほら、この前晴斗くんとこの近くで会ったじゃん。その時も気になって来てたんだけど、駄菓子屋さんに一人で来てる所、見られたら恥ずかしいから行けなかったんだよね。」
「そうなんだ。」
「とにかく入ってみよう。」
彼女は嘉村堂の戸を開ける。
店内には誰も居らず、静まり返っている。
「誰も居ないのかなぁ?」
「う~ん。」
僕は会計台の方に向かって歩き出し、座敷に上がった。
「ちょっと待ってて。」
「うん、わかっ…..ってええ!!駄目だよ。勝手に上がったりしたら。」
彼女は勿論、菊さんと僕の関係を知らないので当然の反応だ。
「大丈夫だよ。」
彼女は口をポカーンと開けて立ちすくんでいた。
座敷には菊さんの姿が無かったので、裏庭に回る。
裏庭では菊さんが庭の手入れをしていた。
「菊さん、久しぶり。」
僕が声を掛けると菊さんが僕に気づいた。
「あ~ほんとだね。もう2学期でしょ?」
「うん。あっ、菊さん。お客さんだよ。」
すると、菊さんは作業の手を止めて僕に「ありがとね。」とひと言、礼を言って店内に向かった。
僕と菊さんが一緒に奥から出てきたのを見て驚いたのか、「晴斗くん、どういうこと?」と大きな目をもっと大きく目開いて、聞いてきた。
僕は軽く説明した。
僕がこの店の常連客だと言うこと、菊さんは僕が小さい頃から知っている人だと言うことなどなど簡単に。
そして僕と彼女はアイスを一本ずつ買った。
僕達がアイスを食べていると、男の子とその両親と思われる3人組の家族が入ってきた。
「今日はお父さんとお母さんが一緒だね。」
菊さんは少年に話しかける。
「うん、そうだよ。良いでしょ!!」
少年は嬉しそうに話した。
「良いねぇ。」
少年は両親と共にお菓子コーナーでお菓子を探した。
「あっ、お父さん、お母さん。僕このお菓子好きなんだ。」
「そうか、じゃあ買うか?」
「うん。」
とても賑やかな声が背後から聞こえてくる。
「良い店だね。晴斗くん。」
「うん、そうだね。」
すると、突如後ろから少年の大きな声が聞こえてきた。
「嫌だよ、これも買う。」
その子の声に続いて少年のお母さんの声が聞こえる。
「駄目だよ、遠足に持って行って良いお菓子の量は決まってるんだから。」
「でも、このお菓子も食べたい。」
少年は今にも泣きそうな顔になっている。
「う~ん。」
少年のお母さんは困った様子で黙り込んでしまった。
すると、父親が何か思いついたように声を上げ、少年に次のように告げた。
「じゃあ、そのお菓子は遠足に持って行かないで家でおやつの時間に食べれば良いんじゃない?」
少年は少しだけ不満そうだったが「うん。」と小さく答えた。
少年のお父さんは少しだけ悲しそうな顔をして「ごめんな。」と少年に謝った。
「ごめんな」
この言葉は何処かで聞いたことがある。
自分の記憶の中で一番濃くて、浅い記憶。
その男は悲しそうな顔で自分を見ていている。
「本当にごめんな。」
その男は今にも泣きそうで小刻みに震えた声で僕にそう言った。
僕の中で最も悲しい記憶、思い出したくない記憶、そして僕の大切なかけがえのない記憶。
気づいたら僕の目頭がとても熱くなっていて、目からは涙が流れていた。
「ちょっと、晴斗くん!!大丈夫?!」
佐藤さんの声が隣から聞こえてくる。
「大丈夫?!」
佐藤さんは僕のことをとても心配そうに見ていた。
「大丈夫だよ。」
「本当に大丈夫なんだよね?」
「うん。大丈夫だよ。」
それから僕達はアイスを食べ終えると菊さんに挨拶をして、嘉村堂を出た。
それから僕と彼女は電車に乗り、彼女は僕の駅の2駅前で降りて行った。
それから僕は車内で一人になった。
「何で思いだしたのかな。あんな思い出。」
電車はゆっくりと音を立てながら、進んで行く。
窓の外を見るとオレンジ色に染められた空が広がっていた。
夕陽がまるで街を飲み込んでしまうみたいに。