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 俺はふと目の前に立つバスに目を留めた。今日もまた、あのいつもの藍色の和装に身を包んでいる。


「ねぇ、バリトン。なんでバスって和装が多いんだろう?あんな姿、普通じゃないよな?」


 バリトンは俺の質問に少し驚きつつも、冷静に答えた。


「それはな、アソビ。バスは東の国由来の貴族の士族で、末裔にあたるんだよ。東の国の貴族の礼装がああいうものなんだ。だから、和装が似合うのはその名残さ。」


 俺はその言葉を噛みしめるように聞いてから、軽く頷いた。


「へぇ〜、そういうことか。じゃあ、あの着物みたいなやつ、ただのファッションじゃなくて、家柄に関係してるんだな。」

「そうだな。実際、あの服はとても格式が高いもので、貴族の礼装としてはあれが普通なんだよ。」

「なるほどねぇ…バスのあの無骨な雰囲気が、あの和装の中でさらに引き立ってる気がするな。ちょっと違う一面が見えるっていうか。」

「ふふ、そうだな。見た目はあんなにガラの悪いヤツだけど、実は歴史のある家系だってことだ。」


 少し考え込み、再びバスを眺めた。


「じゃあ、バスが和装にこだわるのもわかる気がするな。」


 バリトンは微笑んだ。


「うん、少し面倒くさいヤツだけど、やっぱり根が誇り高いからな。」


 俺は笑顔で頷き返すと、再びバスへと向き直った。そして、ふと何か違和感を感じた。それは小さな違和感だったけれど、はっきりとした疑問だった。


「バスってさ、寝る時も和装なの?」

「まぁ、甚平とか作業したり勉強するときは作務衣や着流しが多いかな。でも銃使ったり、歌とかするときは羽織袴のほうが楽。」

「な……なるほど……」

「お前和装にはあまり詳しくないのか?」

「う〜ん、いや少しはわかるけど、普通は着付けとかできる人いないと出来ないし、俺が一番まともに知ってるのは浴衣だよ。」


 俺はバスの顔を見上げながら答えた。するとバリトンは拍子抜けしたように返してきた。


「浴衣?あの夏場に着るやつのことか?」

「そうそれ!俺のところだとお祭りの時によく来ていたな。」


 俺は懐かしそうに浴衣を思い浮かべた。


「綺麗な柄のもあるし、夏にぴったりだよね。それに涼しいし。」

「だな。それに、洗いやすくてお手入れがしやすい。アイロンとか使わなくても、布の重みで伸びてシワとか消えやすいしな」

「そうそう!あと、あんまり重い生地じゃないやつを選ぶのも大事だよね。動きやすいし」


 俺とバスは、生まれ育ちが似た者同士ということもあって、、すぐに意気投合した。


「でもさ〜、俺思うんだけど、和装って着付けとか大変じゃん?なのにバスは毎日着てるし、すごいなって思うよ。」


 するとバスは軽く笑い飛ばした。


「アソビだって毎日同じ服着てるだろ。それと同じだよ」


 俺は思わず自分の服装を確認したが、確かにいつも同じ格好をしていることに気づいた。


「あ……そっか!確かに!」


 俺が納得するのを見てから、バリトンは続けた。


「それにカンターヴィレでは基本、礼装で過ごすことが多いからな。アソビのその服だって、礼装だと認められているし、テナーのように、服装の形は違えど、貴族社会に沿うものであれば、なんでも良いんだよ。」

「な、なるほど……」


 俺が感嘆している間にも、バスは和装の袖を捲り上げながら続けた。


「まぁ、俺はアソビが着てる服のほうが好きだな。」そして俺の頭を軽く撫でた後、再び作業に戻っていったのだった。


「お、おう!ありがと!」


 俺は少し照れながらも素直に感謝の言葉を返した。すると彼は少し驚いたような表情を見せた後、優しく微笑んだ。その笑顔にはどこか温かさがあり、まるで家族に向けるような愛情が込められているように感じたのだった。




 数日後。

 俺はバスに用事があって、部屋の扉を開けた。


「おーい、バス、ちょっと…」


 部屋に入った瞬間、目の前に現れたのはいつものバスじゃなく、長袖長ズボンの甚平を着たバスだった。


「え、バス、何その格好?」


 一瞬目を大きく開けて、その姿に思わず固まった。普段の和装と違って、甚平が妙に似合っている…というより、胸の筋肉が強調されすぎてて、思わず目が行ってしまう。


「ん?ああ、これか。今日は暑いから薄着にしてみたんだ。普段はあんな堅苦しい格好してるから、こういうのもアリだろ。」

「う、うん、でも…え、バスってこんなに胸筋あったっけ?」

「コラ、余計なこと言うな!」

「いやだって、普段から着てる服では気づかなかったよ!」


 思わず早口で捲し立てると、バスは呆れた表情を浮かべた。


「ったくお前は騒々しい奴だな」


 そして軽くため息を吐いた後続けた。


「ほら、早く用事済ませて帰れよ。」


 バスは素っ気なくそう言ったが、なんだか顔がちょっと照れている気がする。俺はその変化を見逃さなかった。


「おいバス、なんか顔が赤くないか?熱でもあるんじゃ……」と言いかけた瞬間、 バリトンが部屋に入ってきた。


「アソビ、テナーが用事があるって」

「あ、うん。今行く。」


 俺はバスに軽く手を振ってから部屋を出た。そしてそのままテナーの元へ行くと声をかけられた。

 そこに居たのは、いつもと同じ女性の服で、今日も美しい容姿をさらに引き立てているテナー。

……男なのに可愛いなんてずるいだろ。


「アソビ、今時間ある?ちょっと話したいことがあって……」


 俺は少し驚いたがすぐに笑顔になって答えた。


「うん!大丈夫だけど何?」


 するとテナーは安心したように微笑んでから続けた。


「実はね……久しぶりに依頼が来たんだけど……それがちょっと特殊で」

「特殊って、何が?」


 俺はこの屋敷に来てから、彼らの仕事についてよく知らなかった。

 テナーとバスは良く仕事で館を離れるけど、俺とバリトンは屋敷にいることが多い。それに、俺には仕事すら与えられてない。


「カンターヴィレのお仕事はアソビは初めてだよね?」

「ん?そ、そうだな。」

「実はね、依頼主が貴族なんだ。」


 俺は一瞬言葉を失った。


「貴族?それってつまり……貴族に依頼されるほど重要な仕事ってことか!?」

「うん、そういうこと。でも、ちょっと特殊でさ。」


 俺は興味津々でテナーの次の言葉を待っていた。


「その依頼主ってのが、リトミアから遠い地にある、『キーウ』の街にあるとある館の女性主人からの依頼なんだ。」

「キーウって、確か……」

「ヴァニタス……アルトや俺の姉さんがいる、女性種アルカノーレの館があるところだ。」


 バリトンが後ろから声をかけてきて、俺たちは同時に立ち止まった。


「ヴァニタス?その館に依頼主がいるのか。」

「うん。それで、その女性主人はキーウで音楽を生業にしているんだけど、最近ある事件に巻き込まれてしまってね。」


 俺は思わず息を飲んだ。


「事件?」


 するとテナーは軽く頷きながら続けた。


「そう。実は最近キーウでは女性の音楽家を狙った人攫いが増えているんだ。」

「え、人攫い?」

「うん。しかもかなり悪質でね、捜査がうまく行ってないらしいんだ。」

「捜査って……警察や公安の仕事なんじゃ……」

「音楽関係に関しては別だよ。」

「そうなのか?」

「うん。音楽は魔法の一種だから、警察も公安も介入できないんだ。」

「なるほどな。でもそんな危険な事件、俺たちに依頼するって大丈夫なのか?俺、歌以外全然出来ないぞ?」


 するとテナーは少し笑って答えた。


「僕たちがこの館に集められる理由は、2つの理由がある。1つ目は、『声帯』を持ち、『声』に魔力を宿していること。2つ目が……」

「『音』の魔力に敏感であること……か?」

「そのとおりだよ。アソビ。」


 テナーは拍手をしながら俺を褒め称えた。少し照れつつも、俺はその情報を元に推論を重ねた。


「つまり、カンターヴィレに集められた俺たちは、音楽関係の事象に対して事件を解決したり、調査をする義務があるっていうことか。」

「そういうコト。久しぶりだね、こういう依頼は。」

「そう言えば、お前たちは館に来てからのんびり生活しているとこしか見たことなかったな。」


 俺は改めて彼らの仕事に対する姿勢の徹底ぶりを思い知りつつも、新たな発見ができたことを嬉しく思った。


「アソビはこの館に来た時、よく寝て食べて風呂に入ってたよね。」

「うげっ!そ、そんなこと言わないでくれよー!」


 図星を突かれて思わず声が上ずってしまった。それを見たテナーは悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「ふふ、でもこうやって屋敷での生活も悪くないでしょ?」


 俺は大きく頷き返した。


「うん、すげぇ楽しいよ!元の世界じゃ想像できないようなコトだらけだったし。でも、キーウってここから遠いんだよな。どうやって行くんだ?」 

「馬車だよ?」

「へ?」

「だから……」




 翌日。

 俺たち4人は、馬車に揺られながら、キーウに向かっていた。馬車の窓から見える景色は、まるでお伽話のように幻想的だった。

 俺は、この異世界に来てから初めて目にする美しい光景に感動していた。


「すごいな!こんなに綺麗な景色が見れるなんて!」


 するとバリトンは微笑みながら言った。


「ああ、因みに最短で3日間、天候に左右されると1週間かかる道のりだからな。」

「そんなに!?」


 俺の問いに、バスは落ち着いて答えた。


「そうさ、馬車だからな。途中で降りて歩いて行くって手もあるが、時間がかかる上にトラブルに見舞われる可能性があるからおすすめしないぞ。」


 俺は改めて窓の外を見た。そこには美しい景色が広がっている。


「でも、この景色を見てるだけで心が洗われそうだなぁ」

「アソビのいた世界もこんな風だったのかい?」バリトンは興味深そうに聞いてきた。


「いや、高い建物ばっかりで、こんな景色はめったに見られなかったんだ……。」

「なんか、アソビが居た世界のほうが苦労しそうだね……」

「え、そうかな?」

「うん。リトミアは治安も良くて安全だけど、キーウは逆だ。」

「え……?」


 バリトンの一言に、俺は一瞬固まる。


「え、えっと?」


 戸惑う俺にバスは説明を続けた。


「通称『暗黒街』。人攫い・人身売買・違法魔道具・交易物の取引は当たり前のように行われ、マフィアや裏社会の人間が徘徊する闇の街だ。」


 俺は少し考え込んだ。


「少し不便だが、基本声は出さないほうが良い。声が出ることがバレたら、貴族以上の地位であることがバレる上に、声帯を狙われるからな。」

「ひぃぃ!?」

「まぁ、キーウに着く前にプロテクター付けるし大丈夫でしょ。」

「それもそうか。」


 それから、1日目の夜。

 中継地点の街の宿で俺たちは、寝泊まりすることになった……。


―――――――――――――――――――――――――


 2日目。


「ううっん〜〜〜〜!ちょっと息苦しいなー」

「プロテクター付けるの初めてだもんね。声を出しているうちに馴染んで来るよ。」


 このプロテクターは、首元を隠すだけではなく、喉元を切られないようにするために、自分たちの服装と装飾品と違和感がないように、する魔道具の1つ目だが、どういうわけかそれぞれ形や見た目が違うのだ。

 テナーはドレスの一部と同化しているし、俺とバリトンは、タートルネックを着ているように見える。

 バスは、特殊加工された和装用の装飾品を身につけているように見えるが、実際は首元にプロテクターをつけている。


「でも、息苦しい。なんか違和感がする……」

「そうだね。でも、このプロテクターは声帯を守るために必要なんだ。」

「なるほどな」


 俺たちは宿を出て、再びキーウに向かって出発した。馬車に揺られながら景色を楽しむうちに、次第に緊張が解けてきた。


「なぁ、テナー。この馬車はいつ着く予定なんだ?」

「あと3日くらいかな?でも天気が良ければもう少し早く着けると思うよ」


 俺は窓の外を眺めながら呟いた。


「そうかー。楽しみだな!」

「遊びに行くんじゃねーからな?」

「わかってるって!」 


 こうして、俺たちの旅路は始まったのだった。




 そうして進むこと、夕方。

 今日は冒険者も良く利用するというキャンプ地で一夜を明かすことになった。

 しかも、ここには温泉があると言うことで俺たちは早速……



カポーン……


「はぁ〜……極楽極楽ぅ……」

「僕、温泉に入るの初めてかも……気持ち〜」

「これは良い泉質だな。バリトンは知ってたのか?」

「うん。姉さんが、勧めてくれたしね。」


 温泉に浸かることにした。しかも、妙にすべすべしていて、温かくて気持ちいいし、体の痛みや不具合も消えていく気がする。


「ミスリル系の単純温泉だな。『浸かるエリクサー』とも呼ばれるやつだな。」

「バスは物知りなんだな。」

「まあな。因みに、精神を安定させ、体の調子を戻す効果があるんだ。肩こりとか腰痛にもいいからな。リトミアの近くにある温泉はすべて巡ったし、この湯も来るのは初めてじゃない。」

「そうなんだね。ありがとうバス。」


 バリトンは微笑んで答えたが、俺は少し驚いた。


「え、でもお前、温泉とか興味なさそうなのに」


 するとバリトンは軽く笑って答えた。


「まあね。テナーが喜ぶかと思ってさ。それにここは、姉さんが勧めてくれた場所だから、俺も来てみたかったんだ」

「なるほどな。」


 そうして俺たちは仲良く話しながら温泉を楽しんだ。


✎___________



「ふぅ〜、いい湯だったー」

「そうだね。」


 温泉から上がり着替えを済ませた後は、夕食を取るためにテントに向かった。


 馬車のあったところに戻るとそこには大きめのテントに4つのフッカフカの寝袋。


「すっ、すっげぇ……これどうやって……」

「使用人さんと執事と騎士さんが組み立ててくれるんだ。この中なら快適に過ごせるよ。」

「そ、そうなんだ。」


 テントの中では使用人が寝床を組み立てて準備をしてくれていた。

 俺たちは、使用人たちが準備してくれたご飯を食べて寝支度を済ませて眠りについた……はずだった。

【Novel版】陰キャ細もやしの俺は異世界で歌の力を手に入れました。

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