テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
元貴の葬儀は、身寄りがないという
建前のもと、驚くほどひっそりと行われた。
参列者は、たった二人。
若井と、涼ちゃんだ。
式場の白い壁は、あの日元貴が汚した涼ちゃんのマンションの壁を思い出させる。
祭壇に飾られた遺影の中で、元貴はまだ何も知らなかった頃の、少し生意気で綺麗な瞳でこちらを見つめていた。
「……なぁ、涼ちゃん。元貴、怒ってるかな」
若井が、枯れ果てた声で呟く。
彼の右手には、あの日以来、元貴の遺品である
「空になった薬のシート」が握りしめられていた。
若井はあれから一度も髭を剃らず、服も着替えず、ただ元貴の残像を追うだけの抜け殻になっていた。
「怒る? ……いいや。
彼はきっと、僕たちのことなんて一秒も思い出してないよ。
……だって、ようやく僕らから『逃げ切れた』んだから」
涼ちゃんは、完璧に着こなした漆黒の喪服に身を包み、冷徹なまでに端正な姿で立っていた。
その手には、最新のスマートフォン。
画面には、あの日、元貴が崩れ落ちる瞬間の「真っ赤な静止画」が、パスコードロックの背景として設定されていた。
「……お前、まだそんなもの持ってるのか」
「僕にとっては、これが唯一の『元貴』だ。
……君みたいに、汚い抜け殻に縋る趣味はないんだよ」
若井が涼ちゃんの襟首を掴もうとしたが、力が残っておらず、そのまま床に膝をついた。
「……元貴を返せよ。……死んでてもいいから、
俺のところに返せよ……!!」
「……見苦しいね。君が彼をあそこまで追い詰めた自覚、まだないの?」
涼ちゃんは冷たく言い放つが、
その指先は微かに震えていた。
彼もまた、あの日以来、静かな部屋で一人になると、元貴がいない「完全な静寂」に耐えられず、
睡眠薬を常用するようになっていた。
二人は、元貴という太陽を失ったことで、自分たちの人生がいかに空っぽで、歪んだ愛着だけで形作られていたかを突きつけられていた。
出棺の時。
棺の中の元貴は、死化粧によって生きている時よりも「人形」らしく整えられていた。
若井はその顔を見て、あの日自分が愛でた、
幼児化した元貴を思い出して嗚咽した。
涼ちゃんはその顔を見て、自分が完成させたかった「永遠の標本」の完成を悟り、吐き気を覚えた。
火葬場の煙突から、
薄い灰色の煙が空へと昇っていく。
「……終わったんだな」
若井が空を見上げる。
「……いいや、始まっちゃったんだよ」
涼ちゃんがスマートフォンの画面を消し、
ポケットにねじ込む。
「……一生、あの子の幽霊に憑りつかれて、呪われて生きていくんだ。
……三人で、ずっと一緒だって言っただろう?」
雨は降っていなかった。
けれど、二人の視界は、あの日からずっと降り続いている灰色の雨で、永遠に濁ったままだった。
163
け 〜 ち ゃ ん .
46
コメント
2件
永遠の標本… りょつぱが狂ってる…