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「えっ……?」
目を丸くするほど驚いしまい、食べようとしていたクッキーを落としてしまった。
セツナは赤い顔を横に向けて手で口元を隠している。
明らかにいつもと様子が違う。
それに、私のことを好きって……。
どういう意味の好きなんだろう。
仲間として? 女性として?
こういう時はどうしたらいいのか……。
口を閉じて瞬きをしているとセツナが私に視線を向ける。
しかし、ぴたりと目が合ったあとにまた逸らされる。
「あのな……」
「なっ、なに……?」
セツナは何かを考えるような素振りを見せてから口を開く。
「つまり……。オレは、どんなかけらでも好きなんだよ。
だから、そんなに悲観的にならなくていいってことだ」
「うん。分かった……」
「そっ、そうだ! かけらにプレゼントした服。
今も着ていてくれて嬉しいぜ。
糸が解れてるから直したほうがいいな」
教えてもらってから着ている服を見ると、上着の袖の糸が解れていた。
いつの間にここまで傷んでいたんだろう。
「本当だ! 気がつかなかった……」
「オレが縫うから安心しろ。
昼は会議があってバタバタしてるけど、夜飯を食べたあとは暇なんだ」
「ありがとう。お願いします」
上着を脱いで渡すと、優しい笑みを向けられた。
「言ってなかったが、その服は理想の女性に渡したいと思って作ったんだ。
いい感じに着こなしてくれてありがとうな」
「理想の女性って……。
じゃあ、さっきの好きって意味は――」
話の途中にセツナが立ち上がり、ドアの方へ向かって歩いていく。
そして、ドアノブに触れたあと、振り向いてニッと笑った。
「 かけらの魅了を引き出すのはオレだ。
そのうち最高のドレスをプレゼントしてやるから楽しみにしておけよ」
自信満々にそう言ったセツナは部屋から出て行った。
ドアが閉まったあと静かになる。
結局、どういう意味で私を好きなのか教えてもらえなかった。
落としてしまったクッキーを拾って食べる。
一種類しかないから同じ味がするはずなのに、四枚目に食べたクッキーよりも甘く感じた。
ルーンデゼルトに来てから何日経っただろう。
一週間だろうか……。
この世界ではスマホが使えないし、部屋にカレンダーがないから日付を確認することができなかった。
セツナと話した次の日。
テーブルに用意された朝ご飯を残さず食べてから、窓の外を眺める。
夜の砂漠とまるくて大きな月。
その景色は、何度寝て起きても変わらなかった。
本当に不思議な場所だなっと思っていると、コウヤさんが部屋にやって来た。
「かけらさん、王子の皆さんから聞きました。
少し元気が出てきたようですね」
「はい。皆のおかげで大分落ち着いてきました」
「それはよかったです」
私のすぐ隣に来て、天使のような微笑みをして見てくる。
「大事な話をするっていう時に迷惑を掛けてすみませんでした」
「いえ、驚かせるような話をしたのはわたしですから。気にすることはありません」
それは違う。私は真実を知りたかったのだから。
「受け止められなかった自分が悪かったんです」
否定すると、コウヤさんは悲しそうな表情をして窓の外を眺めた。
「かけらさんは何も悪くないです。
こんなにも悲しい運命に導いてしまったのは、わたしのせいでもあるんですから」
「いえいえ、私が元の世界で階段から落ちたせいです。
多分、打ち所が悪かったから、こうなったんでしょうし……」
一瞬だったからよく覚えていない。
でも、職場の硬い床に頭を強く打ってしまったんだろう。
「あまりにもつらい出来事で、なんと言えばいいのか……。
しかし、ここは死後の世界ではないんですよ。
皆、生きていますし、命が尽きる日がやってきます」
「私の世界と同じ……。この世界は天国でも地獄でもないってことですね」
「ええ。天使も悪魔もいません」
肩に触れられてからそっと押されて、ベッドに誘導された。
そこに座ったあと、コウヤさんが隣に腰を下ろして、私の髪を撫でてくる。
「しかし、ルーンデゼルトの王族は、他国の王族とは違って特別な能力を持っているんですよ」
「占いができるってことですか?」
「それよりもっと恐ろしいものですかね。
これも信じてもらうのが難しいですが……」
「恐ろしいものって……?」
「自らの命を削って、神に祈りを捧げ、他の世界の魂をこの世界に呼ぶことができるんです。
つまり、かけらさんを呼んだのは、わたしだったんですよ」
「コウヤさんが私を……」
「信じられないでしょう」
「いいえ。信じます」
なぜなら、見えない絆で繋がっているような気がしたから。
恋人のふりをした時、リウさんの暴走から守ってもらった時。
傍にいてどこか安心するものを感じた。
「私をこの世界で誕生させたってことは、コウヤさんは私の母ですね。
ん? ……男性だから父ですかね?」
「ふふっ。無条件に愛しいのですから、親子のようなものかもしれません。
最花の姫候補は、ルーンデゼルトの神殿で特別な儀式をしたあと、そこに現れるみたいなんです。
しかし、わたしの力不足で、かけらさんをグリーンホライズンに送ってしまった。
何も分からなくて、沢山苦労しているんじゃないかと心配でした」
それが、私が草原で倒れていた理由。
ここまでくると懐かしく思える。
「確かに、色んなことがありましたけど……。
いい経験になりました」
「その苦労を乗り越えて、わたしのところに来てくれたんですよね。
ここまで無事に辿り着けて、本当によかったと思っています。
自分の命を削って呼んだ人がどんな女性なのか。
ずっと気になっていて、会ってみたかったんですよ」
今の私は、コウヤさんの力によって生きているようなものなのかもしれない。
切っても切り離せない特別な関係と言ってもいいだろう。
「実際に会って、名前を呼んで、こうやって触れて……。
愛着が湧いていくばかりです」
コウヤさんは愛おしそうに触れてきて、私のおでこにちゅっとキスをする。
「ルーンデゼルトの王族は、世界の姫の言うことを尊重しているんです。
たくさん甘やかしますよ」
「これ以上、甘やかされたら、ダメになっちゃいそうです……」
「大丈夫です。なにがあっても、わたしはかけらさんの味方ですから」
ただ傍にいるだけでいい。
これが愛というものなんだろうか。
恋愛をしてみたいと思っていたけど、好きになって付き合うという過程ばかり考えていた。
でも、コウヤさんのおかげで気づくことができた。
私には愛したい人がいるということを……――