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あともう3話ぐらいで完結させる!






目撃者はいふ





―その愛を、俺は見てしまった―


 


「……なぁ、ほんとにここに“あいつら”いるの?」


施設の裏手の坂道を登りながら、俺は深く溜息をついた。

元教師に聞いた噂。

“とある山奥の心療ケア施設に、昔の知り合いがいる”って話。


正直、信じてなかった。

でも……どうしても、確かめたかった。


りうらと、ないこ。


俺にとってはただの同級生。

でもあの二人は、あの事件の“中心”だった。


俺らがまだ中学生だった頃――

自分の世界を守るために、壊してしまったふたり。


当時は理解なんてできなかった。

怖かった。気味が悪かった。

でもそれでも、あいつらを“切り捨てた”のは、俺だ。


だから。


「見て、謝るぐらいしてもいいんじゃないかって、思ってさ……」


 



 


施設の人に名前を告げたら、通されたのは中庭だった。

天気はよく、あたたかい風が吹いていた。


そして、そこにいた。


 


ベンチに並んで座る、ふたりの男。


りうらと、ないこ。


もう高校生じゃない。

大人になっていた。

目つきは少し優しくなって、服装は質素で、静かに笑っていた。


でも――“何か”が、違う。


ふたりの空気だけ、世界から切り離されてるみたいだった。

誰も踏み込めない、閉じた空間。


声は聞こえない。

でも、わかった。

目で、手で、指で、

すべてを伝えていた。


 


ないこが、りうらの手にキスをした。

小指の関節に、ゆっくりと口づける。


りうらが、ないこの首筋に額を寄せた。

何かを囁いて、ないこが笑った。


それは、あまりにも穏やかで、あまりにも狂っていた。


 


この世界に誰もいらない。

この空間に、他者はいらない。


ただふたりきりで、息をして、笑って、生きている。


 


俺は、ぞっとした。

そして――その次に、胸が痛くなった。


あのふたりは、

確かに“壊れてしまった”。


でも、

その“壊れた先”で、

こんなにも強く、こんなにも深く、愛し合っているなんて。


 


俺たちは、

あのとき手を差し伸べることも、

隣に並ぶことも、

見ようとすることさえしなかった。


「……ずるいな、お前ら」


誰にも理解されない場所で、

世界からはみ出したまま、

それでも、幸せそうで。


 


りうらが、ふとこちらに気づいた。


ゆっくりと目を合わせて、

少し首を傾げて、笑った。


「ああ、いふか」


声も出してないのに、なぜか名前を呼ばれた気がした。


ないこも、軽く手を振ってくる。


怒りも、恨みも、ない。

ただ、“気づいていたよ”っていう、あたたかい目。


俺は、涙が出そうになった。


「バカじゃねぇの……お前ら……」


言葉にならない思いを抱えたまま、俺はベンチを背にした。


呼ばなかった。

話しかけなかった。

でも――


 


あの愛は、見届けた。


壊れたふたりが、

壊れたまま、

それでも確かに“愛”を生きていたことを。


 


そして俺は、もう一度この世界で、

誰かを壊さずに愛せる自分になろうと、

強く思ったんだ。

『本当の地獄を見せてあげる♡』

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