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「えとさん、ヒロイン、やっぱお願いしたいかも!」
昼休み明けの教室で、うりがいきなり声を上げた。
え「……何その雑な指名」
わたしが眉をひそめると、うりは自信満々の顔で言った。
う「脚本書いてたら、えとさんしか浮かばなかったんだよ。“普通にしてるだけで、誰かの主役っぽい感”」
え「いや、全然普通にしてるつもりだけど」
じゃ「その“つもり”が、もうヒロイン力なんだろうなあ〜〜〜」
の「うりさんもう脚本書いたの? はやっ」
う「昨夜、妄想だけで8割完成」
ゆ「妄想かよ」
ひ「……台本、読んでもいい?」
ひろがぽつりと口を開いた。手には、うりが作った分厚い紙束。
う「お、読んでくれる? 助かる。キャラのイメージ、どう?」
ひ「……えとさん、すごく、えとさんっぽい」
え「え、どんなの?」
ひ「ちょっと強がりで、でも優しくて、ちゃんと人のこと見てて。自分の気持ちには鈍感」
え「……最後の、いらなくない?」
なんか……ひろの言い方が優しすぎて、うっかり照れそうになる。
こういうとき、わたし、どんな顔すればいいんだろ。
の「えとさん、やる?」
え「ヒロインって、そんな軽く決めていいもんなの?」
じゃ「逆に、誰だったらいいのよ」
そのとき、ゆあんくんがなぜか勢いよく手をあげた。
ゆ「じゃあ、えとさんの相手役、俺やる!」
一瞬、空気がピタッと止まった。
「え、相手役って……恋人?」
ゆ「べ、別に、そーゆーのじゃなくて!でも俺、やってみたいっていうか、えとさんと……その、演技の練習とかも……したいなって……」
顔、めっちゃ真っ赤じゃん。
それ見て、じゃっぴと、うりが爆笑し始めた。
じゃ「はいはい、初恋おめでとう!」
う「いや、可愛いな! ゆあん、今ならヒロイン譲ってもいいくらいの勢い!」
ゆ「だから違うってば!」
でも、教室の雰囲気は明るくて、笑い声が響いてて、
なんかちょっといい感じ。
の「……じゃあ、配役仮決定で。えとさんがヒロイン、ゆあんくんが相手役。ね?」
え「うーん……まぁ、仮なら」
みんなの視線がわたしに集まってるの、分かってる。
ヒロインなんて、わたしには向いてないって思ってたのに
でも、なんだろう。
ちょっと頑張ってみてもいいかなって思っちゃうのは、
みんなが“わたし”をちゃんと見てくれてる気がするからかも。
それに、文化祭って、そういう“ちょっとムリかも”をやってみるチャンスなのかもしれない。
「……じゃあ、本番までにヒロインらしくなれるようにがんばる」