……なんかちがう……期待外れだったらほんっとうにすみません。
もっきー視点。
俺にしては耐えた方だと褒め称えてほしいくらいだった。
涼ちゃんに関わることで、さらには怒り狂っているのにも関わらず、誰にも損をさせていないし、殴ってもいないし、怪我もさせていない。
涼ちゃんにはバレてると思うけど、しおらしくて仲間想いの演技もなかなかうまくいったから、イメージダウンも起きていないだろう。
乱入という俺の行動も、いち早く仲間の異変に気付いた優しいメンバーとしてのものであり、藤澤涼架の魅せ方をよく知るプロデューサーとして必要な措置だった、と評価されるだろう。
あとはマネージャーの手腕に掛かっているが、流石にこれ以上のヘマはしないと思う。
あの三流モデルは少々力強く引っ張りすぎたかもしれないけど、衣装は無事だし大した問題にはならないだろう。危機を悟ったマネージャーがフォローしているだろうし、気にするだけ時間の無駄だ。
あのくそモデル、不満を隠さず俺を睨み付けた勇気は褒めてやるけど、脅しには聞こえない言葉でちょっと諌めただけで顔色を悪くするような情けない男だ、所詮その程度でしかない。
そんなしょーもない奴に触れさせたと思うとはらわたが煮えくりかえりそうになる。
腹の奥底から湧いてくる怒りのままに部屋に閉じ込めて縛り付けたのなら、涼ちゃんも少しは俺の気持ちを分かってくれるのだろうか。
そんな感情を無理矢理抑え込んで、無表情に近い笑顔を浮かべる俺を見上げる涼ちゃんの目は怯え切っていて、そんな顔をするくらいなら最初から地雷を踏まなきゃいいのにね、と目を細める。
それにまたビクッと震えて逃げるように俯く涼ちゃん。
俺がかけたジャケットはソファに突き飛ばした時点で床に落ちていて、羽織っただけのシャツから涼ちゃんのうなじから背中にかけた白い肌が覗く。
なんなのこの衣装、スタイリストの審美眼は確かだけど、誰の許しを得て人のものを衆目に晒してんだって話でしょ。
「……言い訳、聞いてあげるって言ってんだから早くしなよ」
許せないことなんて数え上げ始めたらキリがない。ふぅ、と自身を落ち着かせるために息を吐き、涼ちゃんを冷たく見下ろしたまま、突き放すように促す。
俺の声に顔をあげたものの目を泳がせる涼ちゃんの顎を掴み、こっち、と強制的に視線を合わせさせた。
言い訳を頑張って探している涼ちゃんを、眉を上げてはやくと言外に急かせば、やっとおずおずと口を開いた。
「ぼ、僕にリップモデルのオファーがきて……」
「うん」
「元貴も若井も個人での仕事、頑張ってる、から、僕も何かしたいって思って」
「うん」
涼ちゃんのことだ、自分を知ってもらうことでMrs.の宣伝ができたらいいな、なんて考えたんだろう。
その想いは純粋に嬉しいよ? 涼ちゃんが俺を、Mrs.を想ってくれていることに対しては、ほんの少しも疑ってなんかいない。
そもそも、自己評価が低いだけで涼ちゃんだって知名度は低くない。Mrs.として確かに評価されて、今はなくてはならない存在だと認知されている。
うつくしくてかわいい涼ちゃんがアンバサダーを務めた今回のリップの売り上げだって期待していいだろう。
涼ちゃんの魅力を最大限に活かすためとは言え、変な虫がつきそうなくらい妖艶な宣材写真にした自信がある。ただでさえ変なのに好かれやすいのに、だ。
かと言って、“藤澤涼架”を演出するのに俺が介入したのなら、適当なことなんてできるはずがない。“俺の涼ちゃん”を世界に示すためにも。
これは相当に気を揉んで写真を選ばなければならない。数万枚はありそうなデータの中に、俺の許容範囲に引っ掛かるものがあるといいけど。
いろんなことに考えを巡らせながらも、涼ちゃんからは一瞬も視線を逸らさず見つめ続ける。
「お家で、応援してるだけなの、やっぱつらいし……」
「うん」
涼ちゃんはみんなに必要とされているし、なにより俺が心底必要としているけれど、レギュラー番組を持つ若井や作詞作曲を担う俺に引け目を感じているのも知っている。
単純に向き不向き、得手不得手の話だけれど、涼ちゃんなりに思うところがあるのだって分からなくはない。
そんなの感じなくてもいいのに。その分俺の傍にいて、俺に愛を囁いて、俺に愛されてくれてればいいのに。
そうしたら、こんなことにはならなかったのに。
「メイクもうまくなりたかった、し、……や、やってみたくて」
いろんなことに挑戦して、成長しなきゃ、頑張んなきゃって思ってくれる涼ちゃんの邪魔をしているのは他でもなく俺なのに、そんなことを知らない涼ちゃんは、
「……か……勝手なことして、ごめんなさい……」
ぐしゃっと顔を歪めて、じわじわと涙が目に溜めていく。
「……涼ちゃんがさ、俺やMrs.のことを考えてくれてるのはうれしいよ」
「……うん」
やさしい涼ちゃんの想いを受け止めているよ、と伝える。少しだけ安心したように涼ちゃんの身体から力が抜ける。
ちょっと、まだなにも解決してないよ?
「でもさぁ、俺に一言相談あってもよかったんじゃないの。なに簡単に触れさせてんの?」
ぐっと涼ちゃんの顎持つ指に力が入る。痛いのか眉を寄せた涼ちゃんの目からとうとう涙があふれた。
「元貴、最近、忙しくしてたし……ッ、あ、あんなふうに、人と撮るなんて、聞いてなかったの……!」
再び恐怖に引き攣った涼ちゃんが叫んだ。
言い訳を聞いてやると言っておきながら弁明されると腹が立つもので、座る涼ちゃんをソファの背もたれに押しつけるようにソファに乗り上げる。
「涼ちゃんはさぁ、俺のものだよね?」
至近距離で涙で潤む目を睨み付ける。ひぐっ、と涼ちゃんの喉が変な音を立てた。
「ごめ、ごめんなさっ、ごめんなさい……ッ」
ぼろぼろととめどなく涙を頬に伝わせて、涼ちゃんが縋り付くように俺の服を握り締めて謝罪を繰り返した。
「答えて」
「ごめんなさいいぃ……ッ」
えぐえぐとあんまりにも子どもがぐずるみたいに泣くものだから、苛立ちが呆れに変わり始める。
勝手に決めたことはムカつくけれど、それ以上に、止めなかったマネージャー、勝手に変更したカメラマンを含めた先方たち、涼ちゃんの不快さに気付かず調子に乗ったモデルなど多方面への怒りの方が大きいのもあって、
「ごめ、ん、ごめん、なさいぃッ」
うぇ、うっ、と汚い泣き方をしながら、わんわん声を上げる涼ちゃんを抱き締めてしまった。
「なにキスされそうになってんの? あんなんとキスしたかったの?」
「したくないッ、元貴がいい、元貴じゃないと、きもち、わるかったぁ……ッ」
くそ、ちょっとグッときちゃったじゃないか。
「ほんっとさぁ……ッ、言いくるめられてんじゃねぇよ!」
「や、やだって、言えなかったんだもんん……ッ」
ごめん、ごめんなさい、と謝る涼ちゃんの頭を抱き締める。すぅ、と涼ちゃんの頭に鼻を埋め、においを吸い込む。
「……涼ちゃんはさぁ、俺のものじゃん」
「うん、うん……ッ」
「俺だけ見てればいいし、可愛いとこなんて俺にだけ見せてればいいじゃん」
「もとき、しか、見てないもん……もときに、かわいいって思われたかったん、だもん……ッ」
えぐえぐと泣きながらむくれて言うのが可愛くて、くそっと溜息を吐いた。怒ってんのに、ムカついてるのに、怒りきれなくなってくる。
惚れた弱味もあるし、俺だけのことを考えた末に愚かなことをしてしまった涼ちゃんを甘やかして、意地悪しながらどろどろに溶け合ったほうがいい、いがみ合うのは時間の無駄だ、と囁く声がする。
「名前、呼んで」
「元貴……?」
「もっと」
抱き締められているせいで言いにくそうに、涼ちゃんが俺の名前を呼ぶ。
気付かれないように小さく笑ってから身体を離して涼ちゃんの顔を見ると、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
さて、と。
「……好きって言って?」
「……ッ!」
悲しそうに、涙さえ浮かべて微笑んで首を傾げると、目を見開いた涼ちゃんが罪悪感に押し潰されそうな顔をして俺に抱きついてきた。
「好き、元貴が好き……ッ!」
「……俺しか要らないよね?」
「元貴しか要らない……っ、もときじゃないとやだよ……ッ」
浮気をしたわけでもないのにぽろぽろ泣く涼ちゃんを抱き締めながら、緩む口元を本人に見られないよう、濡れたまぶたに口付ける。
涼ちゃんの軽率な行動のせいで俺はいたく傷付きました、不安になりましたというポーズに、まんまと引っかかる涼ちゃんの頭を優しく撫でながら、俺だけだよね? と囁く。
「ごめんね、ごめんなさい……っ、もとき、だけっ、ん、ふッ」
何度も何度も頷き、謝る涼ちゃんの口をキスで塞ぐ。泣きすぎて鼻が詰まっている涼ちゃんは呼吸するためにすぐに唇を開き、俺の舌の侵入を許した。
舌を絡めて飲み込みきれない唾液が口の端からこぼれて、わずかに離れて涼ちゃんの息継ぎを確認したらまた塞いだ。鮮やかだったリップがどろどろになって口元を汚した。
「ん、は……ッ、んむ、ぁ……っ」
あの男は許し難いけれど、涼ちゃんが俺しか受け入れられないって気付くいいきっかけにはなったかな?
不躾に触れてくれたおかげで、自分が勝手に決めた行動が俺を傷付けることになる、っていうのも少しは理解できたかな?
「涼ちゃんは……、俺のもの、だよね?」
「もときの、だよッ、もときだけ、だから……ッ」
ぎゅぅとしがみついてキスを強請る涼ちゃんの首筋に吸い付く。ついで浮き出た鎖骨に思い切り噛み付き、震える身体を抱き締め、滲んだ血を舐め取った。
痛みに顔を歪めながらも嬉しそうに目を細めた涼ちゃんが、熱っぽく息を吐いて俺に擦り寄り、
「元貴の、ものに、して」
とあんまり可愛らしくおねだりをするものだから、その場で事に及んだのは仕方のないことだろう。
二時間ほど愛し合った後、俺のスマホにマネージャーからのLINEが入っていることに気がついた。
写真データの確認とスケジュールの確認だった。一時間前に来ていたようだ。
泣き疲れて、俺の膝を枕にし、俺の着ていたジャケットを布団代わりにしてすやすやと眠る涼ちゃんの頭を撫でながら、送られてきたデータを確認する。
先方希望の番号とマネージャー推薦番号のものを先に確認し、小さく笑った。
笑いながら電話をかけると、待ち侘びていたのかすぐにマネージャーが出た。
「二度目はないよ」
それだけを伝えて通話を切り、サイレントモードに設定してスマホを机に置いた。
夕方まで、ゆっくりお休み、俺の涼ちゃん。
打ち合わせが終わったら一緒に家に帰って、もう一度しっかりと確かめようね。
続。
なんか途中で私が笑えてきてしまって変な感じになりましたが、兎にも角にも次回で終わりです。
これの後、止まってる連載の続きに着手します。
コメント
9件
最っ高でしたあ!! 藤澤さんが大森さんだけのもの、分からせられちゃいましたね 次回で最終話!!楽しみにしてます😆
期待外れとか、全くないです!!! ♥️くん、怒りつつも、泣きじゃくる💛ちゃんへの愛を感じました〜🥹💕そして、したたかさも🤭笑 次で終わり、寂しいです😭
次回で終わりかぁ 寂しいけど楽しみ! また涼ちゃん受けの愛が重い系書いて欲しいです!