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アリエルとヴィルヘルムは、食事中ずっと楽しそうにおしゃべりをするオパールの聞き役に徹していた。
オパールが話しているあいだ、アリエルはヴィルヘルムからの視線を感じ、思わずヴィルヘルムを見ると微笑み返される。そんなことが何度もあった。
アリエルは恥ずかしくなり、しまいには意識しないようオパールの話に集中してヴィルヘルムを見ないようにした。
食後のお茶に誘われたが旅の疲れが出たため、丁重にそれを断ると早々に自室へ戻りこの日は休んだ。
翌日、気がつくとかなり日が昇っていた。
「お嬢様、よく休まれていらしたので声をかけませんでした」
「そう、ありがとう。ところで今何時かしら」
「ちょうど十時になるところです。オパールお嬢様も先ほどお目覚めのようで、今食堂で朝食を召し上がってらっしゃるようですよ」
「わかったわ。|私も着替えて朝食をいただこうかしら」
そう言って大きく伸びをした。
「おはようございます」
食堂で朝食を食べているオパールに声をかけると、オパールは嬉しそうに微笑んだ。
「おはよう、お姉様。今日は午後から湖に行きませんこと?」
朝から元気なオパールに合わせて、アリエルも元気よく答える。
「あら、楽しそうですわね! 確かルーモイにはチーバベリバーという美しい湖があるのでしたわね」
「そうなんですの、お姉様よくご存知ね。この別荘からとても近いしボートに乗れますのよ」
するとオパールはアリエルの背後に視線を移した。
「お兄様おはよう」
「おはようオパール、おはようアリエル嬢」
アリエルが慌てて振り向くとヴィルヘルムが食堂へ入ってきたところだった。
「おはようございます」
ヴィルヘルムはアリエルの前に立つと手の甲に恭しくキスし、椅子を引いてくれた。
「アリエル嬢、どうぞ」
アリエルは軽く会釈をするとそこに座り、ヴィルヘルムはその隣の椅子に腰掛けた。
「今お姉様と午後から湖に行きましょうって話していたところですの。お兄様も一緒に湖に行きましょう」
「湖か、いいね」
そう言うとアリエルに向き直る。
「アリエル嬢、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。もちろんですわ」
そう言ってアリエルが微笑み返すと、オパールはそれを見て満足そうに頷いた。
午後になり在庫三人とも朝食が遅めだったこともあって、昼食を湖のほとりで食べようということになった。厨房でサンドイッチを作ってもらうとそれをバスケットに入れて持参した。
よく晴れていたが暑くなく、心地の良い風を頬に感じながらしばらく森の中を歩くと、突然景色が開けて湖の前に出た。
「晴れていて水面もキラキラしていますわね。向こう岸に見える山脈や、森の緑も本当に美しいですわ」
アリエルがそう感想をもらすと、オパールは満足そうに言った。
「そうなんですの。この景色の美しさはアスチルベ王国随一の美しさですわ」
「オパール、お前はここを気に入っていたものな」
「そうなんですの。でも今回湖に行くことを進めてくださったのはお姉様ですわ。言われたとおり湖にして本当に良かったですわ」
そうして景色を堪能していると、アンナやオパールの侍女たちが手早くそこで軽食を取れるようセッティングしてくれた。
「アンナ、ありがとう」
アリエルはアンナにお礼をすると、敷かれた絨毯の上に座った。同じように絨毯の上に座りとオパールはアリエルに尋ねる。
「お姉様はいつも使用人にもお礼をしますの?」
「もちろんですわ。それにアンナはただの使用人ではありませんもの」
そう言って遠くに立っているアンナに微笑んだ。アンナはこちらに気づくと軽く会釈した。
「そうなんですのね、なんだかそれって素敵なことですわね。私もお姉様を見習いますわ」
そう言ってキラキラした瞳でアリエルを見つめた。
「でもオパールは公爵令嬢ですわ、あまり使用人と気安くしすぎるのもよくないかもしれませんわね。でも何人かは信用できる人間をそばに置くべきですわ」
「確かにその通りだね。その信頼できる人物を見極める目を養わないとならないが、アリエル嬢はそれに長けているようだ」
そう言うとヴィルヘルムはアリエルを眩しそうに見つめた。アリエルは俯いて答える。
「いいえ、まだまだですわ」
実際に自分の妹であるアラベルが自分をあそこまで憎んでいたことにアリエルは死の直前まで気づかなかったのだから、こんなに間抜けなことはない。そう思いアリエルは自嘲気味に笑った。
そんなアリエルの横顔をヴィルヘルムはじっと見つめた。
オパールは嬉しそうにそんな二人を見つめながら、サンドイッチを頬張っていた。
景色と会話を楽しんでいると、突然オパールが立ち上がりわざとらしく言った。
「そう言えば私、忘れ物をしてしまいましたわ! 取りに行ってきます」
ヴィルヘルムはオパールを不思議そうに見上げた。
「そんなもの、誰かに取りに行かせれば良いじゃないか」
するとオパールがヴィルヘルムを鋭く睨み付けた。
「私が取りに行く必要がありますの! お兄様はお姉様の相手をなさっていて下さい!!」
ヴィルヘルムはやっとオパールの意図していることがわかったようで頷いた。
「そ、そうか、そうだな。わかった」
「はい、では行ってきます。お姉様はここで楽しんでくださいね。ボートもありますわ、ね? お兄様」
そう言ってオパールは数人のメイドを引き連れて、別荘に戻っていった。その後ろ姿を見送ると、ヴィルヘルムとアリエルは顔を見合わせてクスクスと笑った。
「妹がすまない」
「いいえ、とても愛らしくてらっしゃるから、お側にいてとても楽しいですわ」
「そうか」
そう言うと、ヴィルヘルムしばらく考え込み口を開いた。
「もし君がよければなんだが、本当にオパールの言うとおり……」
「やぁ!! 君たちもここにいたとはね!」
大きな声で話しかけられ驚いて振り向くと、そこにエルヴェが立っていた。急いで来たのか肩が上下している。
「殿下?!」
「エルヴェ?! 君も来たのか」
「来てはいけなかったかな?」
そう言うとエルヴェは息を整えた。エルヴェがなぜここにいるのかわからず呆気にとられ見ていると、その後方からアラベルの声がした。
「殿下、お待ちになって下さいませ。私そんなに走れませんわ」
アラベルはそう言ってやっとエルヴェに追い付くと、アリエルに目を止めた。
「アリエルお姉様!」
そう言ったあとエルヴェの背中に少し隠れながらヴィルヘルムを見つめ、上目遣いになる。
「あっ、あの……」
ヴィルヘルムはアラベルに微笑む。
「君はアリエル嬢の妹の確か……」
「アラベルですわ。ハイライン公爵令息もこちらにおいでになられてましたのね」
そこでエルヴェが口を挟む。
「そうだ、ヴィルヘルム。なぜ君もここにいる。しかもアリエルと二人きりとは」
「いや、先ほどまでオパールがいたんだが、忘れ物を取りに戻ってしまって……」
そう言うとはっとする。
「とにかく、せっかく来たのだから座って景色でも眺めたらどうだ?」
「言われなくともそうするさ。その前にヴィルヘルム、お前に少し話がある」
エルヴェがそう言うと二人連れだって森の方へ歩きだした。