洸人side
“INIのリーダー木村柾哉無期限の活動休止”
そんな記事が出た7月中旬。
1ヶ月後から始まるアリーナツアーを 全員で走り出すのは難しそうだった。
雄大「西くん、」
「柾哉くん平気よな?」
そう聞かれた俺はすぐに”大丈夫”って 言うことが出来なかった。
だって俺は、あいつが 平気じゃないことを知ってるから。
でも、”大丈夫じゃない”なんて言える訳なくて
自分に言い聞かせるように、
「きっと大丈夫。」
そう雄大に返した。
柾哉side
“INIのリーダー木村柾哉無期限の活動休止”
ついこないだ出た記事を 薄暗い部屋で1人見つめる。
きっかけは小さなことだった。
音楽番組の反響を知りたくて、 いつもならしないエゴサを少しした。
“INIのリーダーってなんで木村なの”
そんな言葉が目に入り、 自分の価値が分からなくなった。
LAPONE公式のツイートを 開くといくつかのコメントが目に入った。
“柾哉いつまでも待ってるよ!”
などの俺を応援するコメントから、
“正直こいつがいなくてもINIは平気”
のような俺を否定するコメント
暖かいコメントの方が多いけど、どうしても 心に残るのは嫌なコメントの方だった。
1ヶ月後から始まるLIVEも出れそうにない。
好きでやってきたダンスも、精一杯 頑張ってきた歌ももうどうでもよかった。
将吾side
柾哉の活動休止が発表されてから ほぼ1ヶ月がたった。
明日はいよいよツアーが始まる。
いつもなら柾哉が先陣を切って みんなを引っ張ってくけど、今はいない。
みんな一生懸命練習してるけど、 どこか上の空だった。
そして俺は、心配な人が1人。
洸人「理人そこ立ち位置ズレてる」
指摘すんのはいつも通りだけど、 洸人言い方は少し怖かった。
理人「ごめんごめん、」
「もっかいお願いしていい?」
洸人「集中してやれよ」
「時間ねぇんだから」
焦ってんのはみんな一緒。
けど、洸人の焦り方は尋常じゃなかった。
「洸人、ちょっと休憩したら?」
許凡「そうしよ、焦っても仕方ないし」
俺の案に乗ってくれた許凡がそう言う。
けど、洸人には届かなくて
洸人「辞めたいなら、辞めれば?」
そう言って1人で練習を始めた。
洸人side
今の俺は自分でわかるくらい普通じゃない。
昨日のことがあってからみんなと気まずくて LIVE直前なのに雰囲気は最悪だった。
将吾「洸人、円陣」
そうたじに声をかけられみんなの輪に加わる。
「俺、やっていい?」
匠海「ええで」
みんなに言うなら今しかない。
このままLIVEに出たらダメな気がする。
「まずは、ごめん。」
「酷いこと、言ったって自覚してる」
「あいつがいなくなって、正直不安で」
「頼りすぎてたなって後悔してる。」
「でも、とりあえず今はやるしかないから」
「みんなで、戻って来れる場所作ろう」
「せーの」
INI「We are INI!」
みんなの声とともに、MINIの歓声が聞こえた
柾哉side
今日から始まるアリーナツアー。
配信もあるけど、見たら辛くなりそうでいつも通り部屋でボーッとしてたら携帯が振るえた。
「もしもし、」
洸人「ごめん、急に電話して」
「無理そうだったら切っていいから」
洸人の優しさで、胸が痛む。
洸人「体調平気?」
「うん、」
洸人「良かった」
「LIVE、配信あるから」
「体調平気そうだったら見て」
「今日は全員柾哉の為だけに踊るから」
いつもならMINIの為に踊ってって言うけど、
“俺の為”って言ってくれたのが嬉しかった。
洸人「じゃあ、行ってくる」
「頑張れ、洸人」
洸人「おう」
10人のINIを見たら、 もう戻れなくなるかもしれない。
でも、俺の為だけに踊ってくれるなら
みんなのことを少し信じたい自分がいた。
そして始まった、アリーナツアー初日。
画面に映ったみんなは今の俺とは全然違った。
洸人「はい、西洸人です!」
「今日はある人の為にパフォーマンスします」
「多分配信見てくれてるリーダー!!」
「色々あって、ここにはいませんが」
「INIは11人でINIです」
「寂しいMINIもいるとは思いますが、」
「今日は盛り上がって行きましょう!!」
そんな洸人のコメントに視界がぼやける。
俺にとって唯一のお兄ちゃん洸人。
メンバーの中で頼りやすいのは洸人で、
体調が悪くなってからずっと洸人を頼ってきた
俺がどうゆう状況か知ってる唯一の人。
他のメンバーはあんまり俺の状況を知らない。
多分、俺はそんな重い方じゃない。
ただちょっと居場所がわかんなくなっただけ。
傍から見たら休むほどでは無いと思う。
でも、続けても上手くいかなくて
そんな自分がどんどん嫌になっていった。
まさに不運のループ。
そんな時、声をかけてくれたのが洸人だった。
“大丈夫?”とか”無理すんな”とかじゃない。
“お前の居場所なら俺が作ってやる”
俺のことが全てわかってる言葉だった。
“INIは11人でINI。”ずっと自分に 言い聞かせてたけど最近は忘れてた言葉。
そんな言葉を洸人から聞けて少し、 救われた気がした。
洸人side
柾哉不在で始まったアリーナツアー。
練習中は色々あったけど、 無事に初日を終えることが出来た。
帰っていくMINIをモニターで見てると 携帯が振るえた。
「もしもし?」
柾哉「もしもし、洸人、?」
「洸人だよ、平気か?」
柾哉「平気、」
「配信、最後まで見れた」
「そっか、見てくれたんだ」
柾哉「戻りたい、って思えた」
「ちょっと頑張ってみたいって」
「そっか、良かった、」
柾哉「まだ、時間かかっちゃうけど、」
「でも、INIのリーダーは俺だけだから」
「だから、もうちょっと俺の居場所、守って」
「当たり前だろ、」
「いつまでも、俺が居場所守ってやるから」
「だから、また一緒な踊ろうな」
柾哉「うん、」
「ごめんね、疲れてんのに」
「いや、声聞けて良かった」
柾哉「じゃあ、切るね」
「LIVE、頑張って」
「おう」
ずっと止まっていた時間が 少し動き出した気がした。
大夢「電話、柾哉くん?」
「うん」
「頑張ってみるって」
迅「それって、戻ってくるってこと!?」
「まだ時間かかるけどな」
京介「でも、良かったね」
「戻ってきたいって思ってくれて」
匠海「ほんまそれな」
「頑張って良かったよな」
武尊「もっと気合い入れなきゃやな」
「だな、笑」
柾哉side
活動休止から半年。
言葉に出来ないくらい色んなことがあった。
そして迎えた、復帰LIVE。
俺不在で行われたアリーナツアーの追加公演。
憧れの舞台、”東京ドーム”。
俺一人じゃ絶対に立てなかった舞台。
そんな舞台で復帰LIVEができるのは 嬉しい事だった。
洸人「柾哉、円陣」
そう声をかけられ、円陣に加わる。
「俺、やっていい?」
洸人「おう」
武尊「久々やな、キムの円陣」
「まぁ、今日は俺の復帰LIVEってことで」
「まずは、迷惑かけてごめん。」
「そして、助けてくれてありがとう。」
「半年前、みんなのパフォーマンス見て」
「もう1回頑張りたいって思えた。」
「だから、あの時俺が救われたみたいに」
「今日は、沢山の人に笑顔を届けましょう!」
「INI、初東京ドームおめでとう」
「せーの」
INI「We are INI!!」
できるなら、体験したくない辛いことだった。
けど、俺らの絆は間違いなく強まった。
だから、昔の俺も受け入れよう。
今の俺も、昔の俺も、全部大切な自分だから。
ここまで!
コメント
2件
泣いちゃったよ〜!笑 天才☆