コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
リディアは露店の店主から包みを受け取ると早速開く。中には、野菜やハムなど挟まれているパンが出てきた。実に美味しそうだ。
「いただきま……えっ」
嬉々として齧り付こうとした瞬間、それは消えた。ひょいと、ディオンがリディアの手から取り上げたからだ。一瞬何が起きたか分からずリディアは、呆然とする。
「何するのよ⁉︎ 返してよ! あ……」
リディアが抗議の声を上げている間に、ディオンは既に齧っていた。
「酷い……それ私の」
眉根を下げ、明らかに落胆する。
「ほら、食べな」
ディオンは、一口齧ったパンを返して来た。リディアはワナワナと震える。何故わざわざ人の買った物を横取りして、本人よりも先に口にしたと思ったらそれを返してくるのか。新手の嫌がらせか?
「どうしたの? 食べないの?」
「……」
しれっとしながらそう聞いてくる姿に、更に苛つく。
「大丈夫だよ、毒なんて入って無かったからさ。安心して食べな」
リディアは、その言葉にピタリと動きを止めた。手にしたパンの包みを凝視する。
毒…………? もしかして、毒味をしたのだろうか。
「俺が一緒じゃない時は、こう言う露店とかで食べたりするなよ。何が入っているか分からないからね。まあ、一人で来る事なんてないとは思うけど」
「…………うん」
「やけに素直で、気持ち悪いな」
「煩い」
そう言いながらリディアは、改めてパンに齧り付いた。そして、そのまま固まる。
「硬いっ……⁉︎ 味も……何か、変わってる……」
周りに聞こえない様に、自然と小声になる。
「そりゃあね。露店の食べ物はどれもそんなもんだよ。食べないの? もしかして口に合わないからもう要らないとか、言わないよね?」
満面の笑みを浮かべるディオンから、ひしひしと圧を感じる。リディアは慌ててもう一口齧るが……また、固まる。
やはり、苦手な味だ。パンもかなり硬いし、パサパサして異様に喉が渇く。屋敷で食べている物とまるで違った。リディアが固まったままでいると、ワザとらしいため息が聞こえて来た。そして、再び手からパンが消えた。
「ほら、貸しな」
パンの包みはまた、ディオンの手に戻る。兄はそのまま何気ない顔をしながら、パンを食べ切る。呆気に取られながら、リディアはその様子をただ見ていた。
「全く、自分で食べたいって言った癖に、責任もてよ……何?」
「ごめん、なさい……」
項垂れるリディアの耳に、またため息が聞こえてくる。まるで子供の頃に戻った様な錯覚を覚え、昔兄から叱られた事を思い出した。
「しょうがない奴だね、お前はさ。リディア……おいで」
リディアはディオンから平な食べ物を受け取る。見た事のない食べ物だ。興味深く眺めていると、先に口にしていた兄から食べて良いと許可が下りた。
「美味しい」
沈んでいたリディアの顔は一瞬にして笑顔になった。初めて食べたが、ほんのり甘くて美味しい。
「食べたら行くよ」
慌てて口に押し込み、飲み込んだ。そして自ら寄り添う様に隣に並ぶと、ディオンは驚いた顔をした。だがそれも一瞬の事で直ぐにいつもの飄々とした表情に戻ると、リディアの腰に腕を回し歩き出す。リディアは頬を染めながら、はにかんだ。