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前回の続き

地雷回れ右

雨は、まだ止んでいなかった。


どこか遠くで雷が鳴る。窓の外に映る稲光が、部屋の輪郭を切り取っていく。


ソファの上。

乱れたシャツ、吐き捨てたような呼吸、交わした言葉の余熱だけが、まだ空間に残っていた。


志摩は身動きひとつせず、ただ天井を見つめていた。


何をされたのか。

どこまで自分が踏み越えてしまったのか。


――全部、わかっていた。


久住はというと、志摩の横に座り込み、濡れた髪をタオルで拭いていた。まるで、さっきまでの狂気が嘘だったかのような、静かな手つきで。


「……なんも喋らんのやな。怒ってるん?」


その問いに、志摩は答えない。


代わりに、片腕を額にのせて目を閉じた。眠ってしまいたかった。現実を遮るように。


「……黙ってると、ちょっと寂しいやんか」


久住の声が、耳の奥でやわらかく響く。

ふざけているようで、どこか本気だった。


志摩は、ゆっくりと口を開いた。


「……何がしたいんだ、お前は」


「うーん、せやなあ……」


タオルをソファに放り、久住はそのまま志摩の肩に頭を預ける。

その距離の近さに、志摩の身体がわずかに強張った。


「たぶんウチ、あんたに会いに来ただけなんやと思う。

でも……それだけやないんかもしれん」


「ふざけるな」


「ふざけてへん。……なあ志摩ちゃん、今さら正義とか義務感とか、そんなもんで俺を見張るつもりなん?」


「……」


「俺は“獲物”や。俺がおる限り、あんたの心を揺らす存在になるんや」


「だったら……なんで逃げない」


志摩の声がかすれる。

言っていて、自分でもわからなかった。何を聞きたいのかも。


久住は、肩に預けていた頭を離し、志摩の目をまっすぐ見つめた。


「俺、逃げる気なんかないで。……あんたのとこに来たんや。

これからずっと、ここにおるつもりや」


「ふざけんな。通報すれば――」


「ええよ。したらええやん。

……せやけど、手ぇ震えてるで?」


志摩は無意識に、自分の指先を見た。

細かく、小刻みに揺れていた。


それを、久住がそっと握り込む。


「ほらな。俺が怖いんやなくて……“望んでる自分”が怖いんやろ?」


図星だった。

それが一番、厄介で、抗えない。


「……お前は、いつか全部を壊す。わかってるんだ、そういう人間だって」


「せやな。俺は壊す。けどな、あんたはそのままじゃもう、生きてかれへん」


「……」


「俺がおらんかったら、あんたはもっと早く壊れてた」


それは、呪いのような愛の言葉だった。


久住の手が志摩の頬を撫でる。

触れられるたび、傷のように熱が残る。


「……明日になったら、消えろ。何もなかったことにする」


「ほな、朝が来るまで、ここにおってもええんやな?」


久住がいたずらっぽく笑う。志摩はそれに、もう何も言わなかった。


ただ、目を閉じて――

この狂った一夜が明けるのを、静かに待っていた。


だが、心のどこかで思ってしまう。


「……朝なんか、来なければいい」


そう願っている自分に、気づきながら。


俺が志摩の肌で感じる朝の冷えが、余計に全てを怪しくする。

夜の熱も、湿った空気もまだ消えてへん。雨音が窓ガラスを叩くたび、俺の心臓も揺れる。


志摩の背中に手を回すと、彼は細く震えた。止まってる呼吸が、まだ元に戻ってへんように思えた。


「もう朝になるで。起きときや」


俺の声、低すぎて、反響して、彼の意識の奥をくすぐるようだった。


志摩がゆっくりと顔をこちらに向ける。目に残る寝汗がライトに光り、瞼の裏の赤みが見えた。


「……お前、なんで……」


志摩の言葉は震えて、言葉になる前に止まった。俺はチラリと微笑んで、彼の唇の端にキスをする。


「なんでって……そら、あんたがここにおるからや。逃げずに来たん、俺は」


志摩の眉が少しひそむ。何か言いたそうに口を開けるけど、言葉は出てこない。代わりに、俺はそっと志摩の手を取る。


「あんた、痛くなかったか?」


「……いや……」


嘘でもいい。聞きたいんや、彼の声で。痛みと快楽の境界線で震えるその声を。俺はその震えを、自分が感じたいんや。


「ええこっちゃ、我慢せんでええ。俺のことだけ考えとき」


ゆっくりと、シャツの裾を掴んで引き上げる。汗ばんだ彼の腹が露になる。指でその線を辿るたび、志摩の呼吸が浅くなる。


「ほら……ここ……冷たい空気感じるやろ。でも、俺の手で温めたるから」


俺の手を、ゆっくり、彼の腹から胸へ、心臓の音が聞こえる。彼の目が半分閉じて、「嫌だ」と言うようで、でも身体が拒絶できてへん。


「声、出しいや」


俺の囁きに、志摩の唇がわずかに動く。「う……」その小さな音が、なによりも嬉しい。


胸に耳を近づけて、心音を確かめる。乱れてるけど、しっかり生きてる音や。


「このまま……朝まで一緒におりたい。あんたの全部、俺の中に残したいんや」


志摩の手が、俺の腕に触れる。拒むでもなく、求めるでもなく。だけど、その触れ方に全てが詰まってた。


「嫌なこと、環境、過去……全部、ここには持ってこんでええ。俺が全部背負う」


俺はゆっくりと、志摩の首筋に口づけする。彼の肌のぬくもりが、夜の残像を記憶させる。


志摩の瞳に、涙が溜まってるのが見えた。後悔か、恐怖か、それとも――赦しを求める光か。


「泣きたいなら泣きや。俺がここにおるから」


彼が小さく息を吐いて、肩の力が抜けるのがわかる。俺の手を握り返して。


外の空は、まだ薄暗い。夜と朝の狭間。新しい日が始まる直前の静けさ。


「なあ志摩ちゃん……朝、来ても……終わらんで。俺ら、まだ始まったばっかりや」


その言葉に答えて、志摩はただうなずいた。声は出してへん。それで十分やった。


俺は志摩の額に唇を置き、指先で彼の髪を撫でる。

静かな承認と、これから続く狂気にも似た愛の予感を胸に抱えて。


夜明け前の部屋で、俺らは音もなく重なっていた。


これ描くの楽し!!!

脳死で描いたから変なとこあるかも!!

リクエストたくさん頂戴ね

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