「……遥、我慢しないで。足、まだ痛むんでしょ?」
私が思わず声をかけると、遥は一瞬だけ足を止め、バツが悪そうに顔を歪めた。
「……痛くねーよ。これくらい」
「嘘。さっきからずっと左側に重心置いてるじゃない」
図星だったのか、遥は黙り込む。その隙を見逃さず、凌先輩が静かに私たちの間に割って入った。
「そうだよ、遥。意地を張って怪我を長引かせるのが、今の君に一番許されないことだ。紗南ちゃんを心配させたいわけじゃないだろう?」
凌先輩の言葉は正論で、それでいて遥の痛いところを正確に突いていた。
遥は悔しそうに拳を握りしめ、私と凌先輩を交互に睨みつける。
「……チッ。分かったよ。乗ればいいんだろ、乗れば」
結局、私たちは凌先輩が呼んだタクシーに乗り込むことになった。
後部座席の真ん中に私。右側に遥、左側に凌先輩。
狭い車内、窓の外を流れる夕暮れの街並みとは対照的に、車内には逃げ場のない沈黙と、二人の体温が入り混じる独特の緊張感が漂っていた。
「……紗南ちゃん、合宿中、本当によく頑張ってくれたね。小谷先生も、君のことは高く評価していたよ」
凌先輩が、隣で優しく微笑みかけてくる。その視線が、私の膝の上に置いた手に、ほんの少しだけ触れた。
「えっ……あ、ありがとうございます」
「……先生が評価してるのは、紗南が真面目だからだろ。変な言い方すんなよ、兄貴」
遥が低い声で遮る。車内の空気は、目的地に着くまで一瞬たりとも緩むことはなかった。






