テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する







仮設のたこ焼き屋では、最後の注文を焼き上げ、みことはふぅっと小さく息をついた。


「みことくん、おつかれさま〜!」

「助かったよ〜!やっぱりみことくん人気だね〜」

同じブースのメンバーに見送られ、みことはテントを出て歩き始める。


キャンパスの一角。花壇のそばのベンチに座る5人が見えた。

ひまなつはカステラ串を食べながら、いるまの足に寄りかかり、こさめはらんの膝に頭をのせて何やら嬉しそうに笑っていた。

すちはみことを見つけた瞬間、自然と立ち上がり、手を小さく振った。


「お疲れ、頑張ったね」

「うん、ありがと……すちくんたち、待っててくれたんだね」

「もちろん。さ、どうする?そろそろ回る?」


こさめがウキウキと提案する。

「ねえ、今回もさ、ペアで分かれてまわる?」

「じゃあ、また俺らのんびりだな」

「えー、もっと楽しもーよ~」

と、和やかに盛り上がりかけたそのとき、みことが小さく手を上げて口を開いた。


「……あの……できれば……みんなで回りたい、なって……」

その声は遠慮がちだったが、どこか芯のある響きだった。


みんなが一瞬静かになった。


「……前回は、みんなバラバラだったから……せっかく今日、大学に来てくれたから……」

俯きながらも、みことは正直な気持ちを絞り出すように話した。

その姿に、すちは微笑みを深め、さりげなく背中を支えるように立ち位置を変えた。


「俺も、その方が助かるな」

すちの声に、みことが顔を上げてきょとんとする。


「だって……みことと二人きりとか、俺の理性いくつあっても足りないから」

さらりとした声に、一同が「うわぁ……」と息を呑む。


みことの顔は真っ赤になり、こさめが「すちくん、発言がえっちだよ!!!」と突っ込む。


「お前のコスプレ服のセンスほどじゃないけどな」

とらんがぼそっと言うと、こさめはぷくっと頬を膨らませた。


「じゃあ、みことの希望に従って、みんなで行こっか」

らんが穏やかにまとめると、全員が頷いた。


わいわいと話しながら歩く6人の姿は、どこか子どもみたいに無邪気だった。


その中央で、みことはそっとすちの袖をつかみ、小さくつぶやいた。


「……ありがとね」

「ん?なにが?」

「……いっしょに、いてくれて」

すちはその手をそっと握り返し、ふわりと笑う。


「当たり前でしょ、俺はみことの味方だから」


みことは恥ずかしそうにまた少し赤くなりながら、でもどこか安心したように笑った。



6人はキャンパス内を一緒に歩きながら、次々と模擬店やイベントに立ち寄っていた。


「はいはい!こちら〜、くじ引き一回百円でーす!」

「じゃあやってみよっか。運試しだ!」

こさめが真っ先に飛び込み、次にいるま、ひまなつ、らんと続く。

すちはゆっくりと歩きながら、隣にいるみことに「やってみる?」と聞く。


「……うん、やってみたい」

そう言って、みことは小さな手でくじの棒を一本引く。

結果は――


「おお〜!3等おめでとうございます!特製ぬいぐるみです!」

「かわいい〜!」こさめが歓声を上げる中、みことは「これ、すちくんにあげる」と小さなクマのぬいぐるみを手渡した。


「……いいの?俺、ちょっと嬉しいんだけど」

すちは目を細め、みことの頭をぽんと撫でた。


その後も輪投げに挑戦しては、ひまなつが華麗な腕前を見せ、らんが不器用に外してはこさめが爆笑し、いるまが本気を出しすぎてスタッフに止められたり。

クイズイベントでは、すちとみことが抜群のコンビネーションで正解を連発し、「この2人息ぴったりすぎじゃない?」と他の4人が首を傾げていた。


──そんな楽しい雰囲気の中、ざわざわと気配が変わる。


「ねぇ……」「今、行こうよ」「あの子たちさ……」


彼らの周囲には、次第に女子たちの輪ができ始めていた。可愛さと美しさを併せ持つ6人組は、キャンパスでもひときわ目立つ存在だった。

そして、勇気を出した女子学生たちが数人、そっと近づいてきた。


「あ、あのっ……!」

先頭にいた眼鏡の女の子が、おそるおそる口を開く。

「その……突然すみません!あの、みことくんと、皆さんって……どういうご関係なんですか……?」


一瞬空気が止まったような感覚。

だが、すぐにこさめが「友達!!」と明るく答え、いるまが「高校ん時からのダチな」と腕を組んで言った。


「俺も。まぁ、腐れ縁ってやつ」とらんがぶっきらぼうに答えると、ひまなつは眠そうな声で「友達……かな、うん」と口元に手を当てながら言った。


その中で――

すちはみことの腰をそっと引き寄せ、軽く抱き寄せるような形になる。


「俺は……そうだな、秘密」

唇に人差し指を立て、静かに笑った。

それは優しくも牽制のような、誰も寄せつけない微笑み。


「……っ」

みことはぱっと耳まで赤くなり、思わず顔をすちの胸元に隠す。

「……ずるいよ、すちくん……」

震える声でそう呟いた。


その光景に周囲の女子たちは一斉に息を呑み、ざわめいた。


「え、なにあれ……」

「みことくんが、あんな……かわいすぎ……」

「しかも隣の人、イケメンすぎて怖い……」

「尊すぎて涙出そう……」

「ありがとうございます……ありがとうございます……」

なぜか感謝を口にする者まで現れ、場は一気に騒然となった。


それを見ていた4人は、若干呆れ気味だった。


「……みことって、ひとりでいるのに、なんであんな人気あんの……」

「人当たりは良いしな。話せば誰でも好きになるタイプだ」

「でもまさか、あそこまでとはなぁ……」

「すち、過保護すぎ。いや、あれはもう……独占欲か……」


そんな会話を交わしつつ、彼らは再び動き出す。

騒がしいけれど、なんだかとても愛しい時間。


そして、すちの腕の中で赤くなったままのみことは――

小さく笑っていた。




夕暮れがキャンパスを包み、空がオレンジから群青へと染まりゆく中、学祭の熱は最高潮を迎えていた。


体育館の中では、学生バンドによるライブが行われ、色とりどりの照明が揺れていた。

スモークが軽く焚かれ、観客のクラップが鳴り響くその空間に、6人は肩を寄せ合って座っていた。


みことは、ステージの上で楽しそうに歌う学生たちを見ながら、静かに目を輝かせていた。

鼓膜を打つリズム、胸に響く低音、熱を帯びた光。


(いいな、やりたいな……)


口に出すことはなかったが、ふわっと柔らかな笑みと、ほんのり頬を染めたその顔に、すちはすぐに気づいた。

「……」


すちは、何かを察するように4人の方を見ようと振り返る。


が、その時には――


「よし、やるかー」

「みことと思い出作っとくか」

「楽器って貸してもらえるんかな」

「高校の学祭ぶりだな、懐かし」


4人はすでに立ち上がり、勝手に準備を始めていた。


ぽかんとするすちの前で、みことが少し戸惑いながらも手を差し伸べた。


「……すちも、一緒に、やろ?」


その声に、すちは目を細め、にやりと笑った。


「……もちろん」


6人は手を挙げ、飛び入り参加のチャンスを掴んだ。





「じゃあ、次の飛び入り参加の方、どうぞー!」


スポットライトが彼らを照らす。


ステージに6人が現れた瞬間、体育館に黄色い悲鳴が響き渡る。


「キャーーー!!」

「え、待って、あの6人って……!!」

「やばい、かっこよすぎ……」


こさめが笑顔でマイクを取り、元気よく叫ぶ。


「飛び入り参加、失礼しまーす! チーム“同高”です!」


会場に「おおーっ!」と歓声が響いた。


「高校時代の最後の学祭でやった曲、やりまーす! 聞いてくれたら嬉しいなー!」


ギターを構えるらんとひまなつ。

ベースを肩にかけるいるま。

ピアノの前に立つすち。

そして、ドラムスティックを手にしたみことが、少しだけ緊張したように笑った。


(懐かしいね)


軽くアイコンタクトを取り合い、音が鳴る。


カウント、ワン、ツー、スリー、フォー!


アップテンポの爽やかなロックナンバーが鳴り響き、観客が一斉に手を振り上げる。

こさめの歌声が体育館いっぱいに響き、ギターとベースのリフが追いかける。


みことのドラムが、正確で、なおかつ楽しげにリズムを刻む。

普段はおっとりとした印象の彼が、力強くスティックを振る姿に、同級生たちがざわめいた。


「え、みことくん……ドラム、すご……!」

「まって、格好良すぎ……」

「え、尊すぎて涙出る……」


観客は盛り上がり、自然と合いの手が入り始めた。

「ハイッ! ハイッ!」

「イェーイ!」

「みことーーー!!」


ステージ上では、6人が自然と笑い合いながら演奏を続けていた。

まるで、音楽の中に、あの日の記憶が蘇ったようだった。


最後のフレーズが鳴り響き、静かにエンディングが決まる。


大きな拍手と歓声。体育館が揺れるほどだった。






「みことー!どうだったー!?」

こさめが、興奮冷めやらぬままマイクを置き、ステージの上で笑いながら振り返った。


みことは小さく頷き、口元を押さえる。 「ふ……ふふっ、ふふふ……っ、あはっ、あははは!」


堪えていた笑いがこぼれ出す。


──それは、誰も見たことのない――

本当の意味で、心から楽しんでいるみことの、満面の笑顔だった。


5人は一瞬、息を呑んだ。


「……やば……泣く……」

「ずるいってその顔……」

「俺、ちょっと涙出そう……」

「……なんか、報われた気がした」

「ほんっとかわいいな……」


最後にすちがそっとみことを抱き寄せた。

「楽しかったね、みこと」


「うんっ……すっごく、楽しかった!」


みことの声が、音楽よりもまぶしく、あたたかく、心に染み渡った。




学祭が終わった夜。

どこか名残惜しさが漂う校舎をあとにして、6人は駅まで続く並木道を並んで歩いていた。

夜風がやさしく吹き、道端の落ち葉がカサリと音を立てる。


照明に照らされた横顔が、それぞれ少し疲れていて、けれど幸福そうで。

今日一日の思い出が、静かに胸の中であたたかく波打っていた。


「……今日は、来てくれて、ありがとう」

みことがふと立ち止まり、5人に向き直った。


「たこ焼きも、ライブも……すごく、すごく楽しかった。みんなが来てくれて、来てくれて……ほんとに、嬉しかったよ」


その言葉に、いるまがニカッと笑って肩をすくめた。


「お前があんな楽しそうな顔すんの、見たら来てよかったって思うに決まってんだろ」


「ねー……ほんと泣きそうになったもん」こさめが頬を押さえる。


「感謝されることなんて何もしてねぇよ。お前が笑ったら、それでオールOK」らんが不器用に言いながらも、少し照れているのが伝わる。


「楽器触ったのひさびさだったし、いい思い出になった」とひまなつは淡々と話す。


「……うん」

みことの目が潤んで、ほんの少しだけ伏せられる。


すると、ひまなつがぽんっと手を叩いた。


「ところでさー、明日ってすちの大学祭じゃん?何やるか教えてよ」


みんなの視線が、すちに集まる。

だが、すちは穏やかな笑みを崩さずに首を横に振った。


「秘密だよ。……来てからのお楽しみ」


「うっわー、もったいぶるじゃん〜!」

「何やんだよ〜」「ヒントだけでも〜」

とわちゃわちゃ言う中で、駅が近づいてきて、自然と立ち止まった。


「じゃ、また明日な」

「すちとみこと、気をつけて帰れよ」

「明日、楽しみにしてっからな〜」


それぞれが手を振りながら、夜道に散っていく。

歩いて行く後ろ姿が、いつまでも青春のように、頼もしくて眩しかった。




2人きりになった帰り道。

街灯がぽつりぽつりと照らすなか、すちとみことは並んで歩いていた。


どちらからともなく手が近づき、自然と指先が触れ合う。

言葉もなく、ただ心地よい沈黙が流れていた。


やがて、すちがやさしく声をかける。


「……楽しかった?」


みことはふわりと笑い、こくんと頷いた。


「うん……ほんとに、すごく」


すちはみことの表情を横目で見ながら、胸の奥に小さな棘のような感情を覚えていた。

――明日以降、みことはもっと注目されるだろう。

あの笑顔を見た人間は、きっと惹かれていく。


その未来を思うと、心がざわついた。

けれど同時に、自分が誰よりもみことの笑顔を守りたい、とも思う。


揺れる嫉妬と、強い願い。

すちは複雑な想いを胸に仕舞い込んだ。


そんな心の動きがあるとは露知らず――

みことは周囲を確認するようにきょろきょろと目を配り、誰もいないとわかると、すっとすちの腕に飛び込んだ。


「……っ!」


突然の行動に、すちは一瞬だけフリーズする。


みことは小さな声で、けれどまっすぐな気持ちを口にした。


「すちくんのおかげで……毎日、楽しいよ。ありがとう……」


その声に、抱きしめる腕にぐっと力がこもる。


すちはみことの髪に口元を寄せて、囁くように返した。


「……こちらこそ。ありがとう」


胸の奥のざらつきは、いつのまにか、あたたかな泡のように消えていた。


夜空の下、2人は静かに抱き合いながら、明日の再会を胸に刻んでいた。



loading

この作品はいかがでしたか?

730

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚