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れんはただ、足を止めた。
呼び止められたわけでもないのに、名前を呼ばれたわけでもないのに、
流れる空気の変化だけで立ち止まったような動き。
音も気配も薄い。
ゆっくりと、首だけが動く。
顔は髪でほとんど見えない。
表情も読めない。
――優しさはない。
――怒りもない。
――拒絶でもない。
ただ、そこに「温度」がない。
「……」
冴が息を止めた。理由は自分でもわからない。
凛は無意識に拳を握る。なぜか心臓が少しだけ跳ねた。
潔は声を出そうとしたが、喉が動かない。
蜂楽は「……なんか……」とだけ呟き、言葉が続かなかった。
玲王は困惑を隠せず、横で凪は珍しく目を瞬かせる。
千切は肩が微かに強張っていることに気づく。
黒名は理由のない緊張に背中がぞくりとした。
カイザーは口を開こうとして、閉じた。
ネスは分析しようとして、結果「わからない」という結論にたどり着いた。
れんは、ただ首を傾けているだけ。
問いも返さない。
視線すら向けない。
そこにいるのに、「触れられない」。
まるで――
触れたら壊れるガラスか、
触れたら呑まれる深海か。
誰も言葉を出せなかったのは、恐怖でも、畏れでもない。
ただ、本能が理解したから。
この少女は「こちら側にいない」。
同じ世界に立っているのに、同じ空気を吸っていない。
れんの髪の隙間から、わずかに覗く瞳。
その光を見た瞬間、10人全員の背筋が、同時に――静かに震えた。