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今日は大学時代の同期と、定例会という名のお喋りをすべく、逢うことになった。今回の場所は、イタリアンレストラン。4人が集まりやすいところを見繕ってくれる知人の選択に、毎回助けられた。
「久しぶり~! 前回会ったのが、半年前だったっけ?」
「子どもがいると、どうしても行事が重なるし、タイミング悪く風邪を引いたりして何度か流れたよね。独身時代みたいに、コンスタントに逢えなくなったよなぁ」
目の前に座る真由と朱里は早々に結婚し、20代で家庭に入った。32歳の私は、2年前に結婚している身なので、ふたりは主婦の先輩みたいな感じ。
そして私の隣にいる玲香は独身。年下の彼氏がいることだけ聞いている。
「明美、結婚生活はどう? 相変わらず不妊治療してるの?」
子どもがふたりいる朱里が、心配そうな口調で訊ねた。
「相変わらず治療してるけど、さっぱり成果が出ないわ」
「朱里ってば、私にも聞いてよ! ふたり目不妊で、治療中なのを知ってるくせに。お義母さんがふたりめは男の子を産めって、年々プレッシャーをかけてくるせいで、余計にうまくいかないっ」
「真由はひとり産んでるんだから、明美よりも深刻じゃないでしょ。まぁ、ふたりにタイムリミットがあることは、理解してるけど」
三人で子どもの話をしているせいか、独身の玲香は無言のまま、テーブルに置かれたコーヒーの水面を眺めていた。
「あのね、引越しすることが決まったの」
ここは話題を変えないと、玲香が話しづらいだろうと思い、みずから口火を切る。
「ちょっと明美、引越しって遠くに行くの?」
驚いた顔の玲香が、誰よりも早く反応して訊ねた。
「夫が本社に栄転することになってね。隣の県だから、そこまで遠くじゃないのよ」
「良かった~! 癒し系の明美がいなくなったら、残ったメンツの言い合いになるだけだからねぇ」
朱里が胸に手を当てて安堵する。その横で、しかめっ面の真由が話しかけた。
「私たちだけだと夫や義母の愚痴や、玲香は彼氏の愚痴まみれになって、収拾つかなくなるもんね。ご主人の栄転って役職は?」
「部長。引越しを機に、不妊治療するための病院も変えようと考えてる」
今後の予定を口にしたら、真由が小さなため息をつき、低い声で語りかける。
「だけど本社に栄転ならご主人、今以上に忙しくなって、不妊治療に協力しないんじゃない?」
子宮内膜症の治療のため、結婚する前から病院に通っていることを知っている3人は、微妙な表情でそれぞれ顔を見合わせた。
「そこを含めて、最新の不妊治療を受けれる病院を見繕ったんだ。今から通院するのが楽しみなの」
場の暗い雰囲気を払拭しようと、笑顔を滲ませて声高々に返事をした。
「そっか。それなら私たちは、明美の応援をするのみだね」
玲香が肩を竦めて優しくほほ笑むと、それに倣うように朱里や真由も私に笑いかけてくれる。
「引越し先が決まったら連絡するね。新居に遊びに来て」
こうして4人で集まることは、なかなかできないのはわかっていたけれど、あえて声掛けして、顔を出すように促した。
見知らぬ土地でひとりきりになるのは、やっぱり寂しかったから――。