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※嘔吐表現あり
終電ギリギリの深夜の駅のホーム。ホームにある自販機に体を預けながら、電車を待つ。
ふと、視線を上に向ければ蛍光灯の光に集まる虫たちと目が合った。
…虫ですら団体行動ができるのに、なんで人間の俺は出来ないんだろう。
自身の存在が虫以下になったような気がして、体がズン、と沈む。
ホームにチラホラ見える死んだ顔をしたサラリーマン。
俺も、同じ顔してるのかな。
気づいたら、家の近くのコンビニにいた。
どうやって駅からここまで来たんだろう、と一瞬考えるが、思い返す気力も起きない。
体が求めるがまま、自動ドアを潜る。
明るいBGM、照明、冷気。
何気ない日常ぜんぶが俺をイライラさせる。
「あ、れ…」
手に持っているのは商品でパンパンになったカゴ。
1番上にのったお菓子が今にも崩れ落ちそうだった。
こんなの食べたらまた健康診断引っかかるだろ。
そう思っても、勝手に動く体を止めることはできず、レジへと足を運ぶ。
「いらっしゃいませー」
レジにいるのは中年のおじさん。
肌も綺麗だし、身なりも整っている。
こんな時間にバイトしているなんて、ただのアルバイトとは思えない。
たぶん、バイトを趣味にしている富裕層か。
この辺、たしか土地単価が高い住宅街あったよな。この人も、そこに住んでんのかな。
俺とは住む世界が違う。
バイトが趣味なんて、お暇なことで。
レジをしてもらっている間も、そんな捻くれた考えが頭をよぎる。
「たくさんありますねー、このあとパーティーですか?」
人あたりの良さそうな笑みを浮かべるおじさん。
「…まぁ。」
劣等感で押しつぶされそうになる。
曇った鼓膜に響くのは、間抜けな機械音。
会計は…5000円越え…
「…カードで。」
ベッドに散らかったお菓子、
床に散らばる書類、
投げ捨てられたスーツ。
ぜんぶ自分がやったことなのに、この光景を見る度気分が重くなる。
「しにたい…」
口に出したら足が凄く重くなった。
キッチンの前でしゃがみこみ、冷蔵庫を背にして、暗いままの部屋を見つめる。
何もやる気が起きなくて、スマホを見ては閉じ、また見ては閉じる。
苦しい。
頭が痛い。
ふと、さっき買った袋に詰まったお菓子たちが目に入った。
震える手で、ポテトチップスに手を伸ばす。
力ずくで開けると、中のポテトチップスが弾け飛んで、数枚床に落ちた。
そんなこと気にせず、袋の中に手を突っ込む。
袋の中身を口に運ぶと、頭の痛みが少し緩和されたような感覚がした。
安心する。
もっと安心したい。
美味しさなんて感じない。
胃がキリキリして気持ち悪い。
そう思うのに、食べるのをやめられない。
食べ切れば、またレジ袋に手を伸ばす。
菓子パン、チョコレート、揚げ物。
食べれば食べるほど増える胃の圧迫感と、減る頭の痛み。
食べ続けること30分。
床はゴミと油まみれだった。
でも、そんなこと気にならなかった。
人と関わることで得てしまったストレスを、どうにかしたかった。
『普通すぎる、』
『秀でたものがない、』
そんなの分かってる。
分かっててもどうにもできない。
俺は所詮引き立て役で、誰の世界の歯車でしかない。
頭の痛みは酷くなった。
最後の唐揚げを口に含んだ途端、
「う゛っ…」
胸の奥が酷く痛んだ。
胃の内容物が逆流するような感覚。
吸い寄せられるようにトイレに向かった。
「おぇ゛…」
鼻をツンとさす胃酸の匂い。
吐き出すと同時に震える手。
ぜんぶ意味が分からなくて、イライラして、ただひたすらに泣いた。
「気持ち悪い、きもちわるいっ、…!!」
そう叫んでも、寝静まったアパートには誰も来ない。きてくれない。
その事実が辛かった。
トイレットペーパー、芳香剤、ハンドソープ。手に届く全てのものを感情に任せて、壁に投げつける。
トイレはあっという間にぐちゃぐちゃの無法地帯になった。
掃除するのは俺なのに。
明日の朝、イライラするのは俺なのに。
感情のまま行動して、後悔して、自己嫌悪に陥って。
馬鹿みたいだった。
まだ虫の方が賢い。むしろ俺と比べられる虫が可哀想なぐらい。
四方八方が壁に囲まれた1畳ほどの小さな部屋。
何もする気がおきなくて、荒らされた部屋の中に座り込む。
ピコン、
「!」
ボーっと真っ白な壁を眺めていると、スマホの画面が光った。
無意識に、スマホに手を伸ばす。
…動画投稿サイトからの通知だった。
どうやら7時間ほど前に、俺が登録しているチャンネルが最新の動画を上げたらしい。
新しい動画のサムネを見る。
新しいゲームかな。今日は全員いるみたい。
動画なんてほとんど見ないが、このチャンネルだけは登録しておいた。
『ワイテルズ』
俺の高校の時の同級生がやっているゲーム実況グループだ。
やっている奴らは俺が高校のとき、特に仲がよかった奴らで、みんな最高に面白い。
凄いよな、ゲーム実況をやろうなんて。
俺には考えつかなかった。
…そういえば1度だけ、Nakamuに誘われたな。
『きんときもやらない?』って。もちろん、断ったけど。
だって普通の俺には、普通の人生を送ることしか許されてないと思ってたから。
あいつらみたいな面白いやつがエンターテイナーになって、なんの取り柄もない俺はそいつらを支える歯車になる。
それが当たり前だと思った。
寝っ転がって天井を眺めていると、動画が再生された。
聞こえてくるのは、アイツらの楽しそうな会話と笑い声。
それを聞きながら、天井に向かって腕を伸ばす。
…あのとき、Nakamuの誘いにのってたら、俺もアイツらと一緒に、、
なんて、現実味のない妄想考えるあたり、俺ももう限界なのかもしれない。
「馬鹿だなぁ…」
普通の俺が、ゲーム実況なんて出来るわけないのに。