この作品はいかがでしたか?
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「それについては謝る必要はなくてよ? それより、最初にちゃんと相談してほしかったですわ。まぁ、今はそんなこと話してる場合じゃありませんし、この話はあとでにしましょう。それより、ドロシーたちを救うことを第一に考えなければいけませんわね」
エラリィは顔を上げると、もう一度頭を下げた。
「お嬢様、すみませんでした。ありがとうございます!」
それに続いて、エラリィの後ろに立っていたヴァンとクレイグも頭を下げる。
「謝らなくても大丈夫ですわ、貴男たちもつらかったでしょう? とにかく、頭を上げてちょうだい。それに私貴男たちに聞きたいことがありますの」
三人は素早く頭を上げると、エラリィが答える。
「なんでしょう? 私どもでわかることなら何でもお答えします」
「では最初から、一連のことをかいつまんで説明してちょうだい」
エラリィは頷くと説明し始めた。その内容は、おおよそでアルメリアが調べて予測していたことと合致していた。
山賊が一番最初にモリスの家に押し入った理由は、農園関係者で子どものいる家を探すためだったらしい。なぜエラリィたちにそれがわかったかというと、モリスは自警団の団長を勤めており町民の名簿を持っている。モリスの家に強盗に入った山賊たちは、金目のものに目もくれずその名簿のみ盗んでいったのだ。
その後は農園の子どもがいる家庭ばかりピンポイントで山賊に襲われ、子どもや妻が次々に誘拐されることになったのだ。
おそらく山賊たちは、その名簿をもとにあたりをつけて農園関係者の家に押し入ったに違いなかった。
エラリィたちは、子どもや妻が誘拐されたときに『誰にも言うな、誰かに言えば子どもたちの命はない』と脅されたそうだ。どうしたものかと途方に暮れていると、向こうから要求があったそうだ。
だが、その要求の内容は、アルメリアが思っていた発酵塩レモンのレシピではなく、クンシラン家や檸檬農園やアンジーファウンデーションすべての情報だった。流石にそれは簡単なことではない、難しい、少し時間がかかると話し、引き延ばしをして現在に至っていた。
そもそも、重要で大切な情報は全てアルメリアの頭の中にある。それ以外の情報も細分化された組織に少しずつわけて保管されている。農園の従業員からクンシラン家やアンジーファウンデーションの全ての情報を引き出すのは、不可能だったろう。
全て話し終えると付け加えるようにエラリィは言った。
「それと、私たちも信用して良いのか判断に困っているのですが、山賊の中に我々に協力を申し出ている者がいるのです」
アルメリアは予想もしなかった話に驚き、にわかには信じられないと思ったが黙って話を聞くことにした。
エラリィ曰く、その山賊は物資受け渡しのさいにメモを渡してきたそうだ。字が読めるものにそのメモの内容を確認してもらうと、他の山賊とグループで動いていたため、無理やり犯行に加担させられている。穏便に人質を開放したいのでなにか方法が思いついたら、協力すると書いてあったそうだ。
「確かに、すぐには信用できませんわね。でも、山賊たちがそんな手の込んだことをする理由もありませんわよね」
「そうなんですよ。向こうもそんなに騒ぎを大きくしたくないでしょうし」
「その彼の名前はわかっていますの?」
「メモにはイーデンと書名がありました」
名前までわかっているのならアウルスに確認すれば、どんな兵士だったのかわかるかもしれなかった。
「わかりましたわ、少し調べてみますわ」
もし本当に協力してくれるのなら、だいぶ有利になるだろう。だがこれが罠ならば、全てが台無しになってしまうため慎重に対応せねばならない。
そのとき、肝心なことを訊きそびれたことに気づいた。
「聞き忘れていましたわ、受け渡しの場所と時間はいつ決まりますの?」
「それは毎回受け渡しのときに、向こうが次回の受け渡し場所と時間を指定してくるんです」
受け渡しは一日に一回ないし、二日に一回のペースである。それだけ間が開いていれば、なんとかこちらの準備も整うだろう。
更に詳しく受け渡し場所を訊くと、三か所ほど受け渡しをしている場所があり日によってランダムで場所が決まるとのことだった。アルメリアは持参していた自作の地図でその三か所を確認すると、後日アウルスとどの場所が地理的にこちらが優位に動けるかを話し合うことにした。
「どの場所で人質奪還作戦を決行するかこれから決めますわ。作戦内容と場所が決まったら貴男たちにも報告しますわね」
「私たちは、毎日受け渡し場所をお嬢様に報告したほうがよろしいでしょうか?」
「いいえ、あまり変な動きをすると相手に怪しまれてしまうかもしれませんわ。日中報告することは避けましょう」
そう言うと、エラリィは困惑した。
「ではどうやって受け渡し場所を伝えれば……」
アルメリアは微笑むと答えた。
「私が指定した場所に受け渡し場所が決まったら、農園の看板にこれを結んでおいてちょうだい」
そう言って自分のハンカチを差し出した。エラリィはそれを受け取ると驚いた顔をした。
「お嬢様、こんな高級そうなハンカチをそんなことに使ってしまってよろしいのですか?」
アルメリアはにっこり微笑むと言った。
「かまいませんわ。それ私が節約のためにいらないシーツで作った、再利用のハンカチですもの」
そう言うと、その場にいた全員がハンカチを見つめたあと一斉に笑った。
アウルスとの連絡手段がなかったため、アルメリアは向こうから訪ねてくるのを待つしかなかった。人質のこともあり、焦る気持ちもあったがどうすることもできなかった。
だが、アウルスはそう待つことなく訪ねてきてくれた。アルメリアがアウルスの待つ部屋へ入ると、先日会ったときと同じようにソファにゆったり座りアルメリアを待っていた。
「君のことだ、領民との調整は上手くいったとは思うが」
アルメリアの姿を見ると、アウルスは挨拶抜きに開口一番にそう言った。
「はい、彼らとは信頼関係がありますから」
アルメリアはそう言って苦笑した。これは彼らから素直に相談してもらえなかったことに対する、皮肉が込められていた。アウルスは困ったような顔をしたあと微笑む。
「そう言ってやるな。彼らも、君に迷惑をかけたくなかったのだろう」
そう言って、ソファから立ち上がりアルメリアの前にくると、慰めるようにアルメリアの頭を軽くぽんぽんと撫でた。そして、手を取りソファまでエスコートした。
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