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第1章 第1話 「檻を越えて」


フローラリア王国の中央にそびえる宮殿は、四季折々の花が咲き誇る広大な庭園に囲まれ、まるで天上の楽園のように美しかった。だがその美しさこそが、桜華にとっては檻でもあった。


「姫瀬桜華。城の外へ出ることは許されません」

そう言われ続けて十五年。王女であり花女神の娘である彼女は、広すぎる宮殿の中で自由を奪われたまま育ってきた。


けれど――今夜は違う。


「準備はいいか、桜華」

声をかけたのは兄・月華。落ち着いた瞳には迷いがなく、手には光を帯びた魔法の護符が握られていた。


「ええ、兄様。もう戻らない覚悟はできています」

桜華は静かに微笑む。その背に立つのは、双子の妹・透華。彼女は少し不安げに唇を噛みしめていたが、それでも姉の隣に立つ決意を固めていた。


「……怖いけど、わたしも一緒に行く。お姉様を一人になんてできない」


三人は秘密裏に習得した変化の術を唱え、花樹家の子供たち――

花樹 姪(めい)、花樹 唯(ゆい)、花樹 等(とう)――へと姿を変える。


城の門を抜け出す瞬間、夜風が三人の髪を揺らした。


「見て、あんなに遠くまで……灯りが続いてる」

透華が指さした先には、花と蝶の明かりに照らされる城下町が広がっていた。笑い声、香ばしい屋台の匂い、そして聞いたことのない音楽。


桜華は胸が高鳴るのを抑えられなかった。

「これが……私が夢見ていた世界……!」


三人は互いに顔を見合わせ、駆け出す。

その小さな一歩が、やがて王国の運命を変える旅の始まりになることを、まだ誰も知らなかった。


第1章 第2話 「城下の灯り」


宮殿を抜け出した三人は、夜の森を駆け抜けていた。

だが背後からは、甲冑の擦れる音と馬の蹄の響きが確かに近づいてくる。


「しまった……見張りに気づかれた!」

透華が振り返り、小声で叫ぶ。


「大丈夫だ、俺が抑える。二人は先に!」

月華は腰の剣を抜き、光の魔力をまとわせる。月光を浴びた刀身は、闇を裂くかのように輝いていた。


しかし桜華は首を振る。

「兄様だけを残してはいけません。わたくし達は、三人一緒に逃げるのです!」


透華が怯えを隠すように、花の光を散らして森の道を照らす。

瞬間、無数の花弁が舞い上がり、追っ手の目を眩ませた。


「今よ!」

三人は同時に駆け出し、森の抜け道へ飛び込む。


やがて――視界に広がったのは、城下町の賑わいだった。

色とりどりの花灯籠が並び、屋台からは香ばしい焼き団子の匂い。蝶の形をした魔道具が空を舞い、子どもたちは笑い声をあげて追いかけている。


「……きれい……」

透華が呟く。瞳に映る光景は、これまで本でしか見たことのなかったものだった。


桜華は胸いっぱいに空気を吸い込み、微笑む。

「やっと……やっと夢にまで見た場所へ来られたのですね」


月華は肩の力を抜き、二人を見やった。

「でも気を抜くな。俺たちは今から“花樹家”として生きるんだ。本当の姿が知られれば、すべて終わる」


三人は互いに頷き合い、花樹家の姉弟として町に足を踏み入れた。

――その先に、待ち受ける学園生活と出会いの数々をまだ知らずに。



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