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#青春ラブコメ
ラスターダノン
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おねぎ
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(頼むから、誰も話しかけるなよ……。あの『魔女』の関心を惹くような真似だけは絶対に……)心の中で念仏のように唱えながら、僕は小さく息を吐き出した。
キーンコーンカーンコーン、と昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
クラスの男子たちは一斉に安堵の表情を浮かべ、蜘蛛の子を散らすように教室を脱出していく。僕の隣で震えていた男も、「天野、俺は購買のパン争奪戦へ避難する!」と謎の捨て台詞を残して姿を消した。
残されたのは、僕と——斜め前の席の九條ヶ原美咲。
(よし、僕もさっさと逃げよう。お弁当は屋上で……)
そう思い、席を立とうとした、その時だった。
「あっ……」
すっと静かな声が聞こえ、カサカサッという紙の擦れる音が響いた。
見ると、美咲が文庫本に挟んでいた『何か』を床に落としてしまっていた。
(見なかったことに……いや、ここでスルーして『気取られた』ら殺されるか……!?)
冷や汗が背中を伝う。
落ちたのは、彼女の足元と僕の席の中間あたり。
ここで親切拾って差し出せば、「ふん、気遣いのできる男ね」と目をつけられて100人目の餌食にされてしまうかもしれない。かといって無視すれば「私の落とし物を無視するなんて、いい度胸ですわね」と別の意味でTarget Locked(ターゲットロック)される危険性がある。
(どうする……どうする天野カケル……っ!)
究極の二択に冷や汗を流していると、美咲がすっと腰をかがめ、それを拾おうとした。
その時、彼女の制服のポケットから——ポロポロポロっと、長方形の小さな紙片の束が崩れ落ちたのだ。
「あら……まあ……っ」
焦ったような美咲の声。
床に散らばったのは、色鮮やかなイラストが描かれた——TCG(トレーディングカードゲーム)のカードたちだった。
(……え? カード……?)
思わず目が点になる。
100人の男を魅了してきた噂のビッチのポケットから出てきたのが、まさかの男児向けカードゲーム。
いや、待て。これは何かのトラップか? 「このカードで私と勝負しない?」とか言われて、負けたら命を取られるタイプの闇のゲームなのか……!?
頭が大混乱を起こしている僕の視線に、床に裏返しで落ちた1枚のカードが飛び込んできた。
カードの裏面——その独特な漆黒のデザインと、金色の紋章。
(あれ……? このデザインって、僕が今ハマってる『オブリビオン・ディザスター』の海外限定プロモカード……!?)
ゲーマーの血が、恐怖を一瞬だけ凌駕した。
世界に数百枚しか流通していない、超激レアの環境メタカードだ。なぜそんな代物が、彼女のポケットから……?
混乱する僕をよそに、美咲は顔を真っ赤にしながら、猛烈な勢いでカードをかき集め始めた。
「み、見ないでくださりませ……っ! これは……その……っ!」
裏返った情けない声で必死にカードを隠そうとする美咲。
しかし、僕の視線は床に落ちたままの『1枚のカード』に釘付けになっていた。
漆黒の枠に、妖しい金色の紋章——僕が嗜んでいるTCG(トレーディングカードゲーム)『オブリビオン・ディザスター』の海外限定プロモカード。
(な、なんでそんなものを九條ヶ原が持って……?)
一瞬、頭に疑問が浮かぶ。だが、僕の脳内で警報が鳴り響いた。
(……待て。違う、騙されるな天野カケル……!)
噂を思い出せ。
『彼女がこれまでにベッドへ沈めてきた男の数は100人を超える』——。
(あんな可愛いカードゲームのカードを、あの『魔女』が普通に遊ぶために持ち歩くわけがない……! じゃあ、このカードは一体なんなんだ……!?)
僕の脳内で、恐ろしいパズルのピースが組み合わさっていく。
男子を部屋に連れ込み、ベッドへ沈める前に差し出される一枚のカード。
「これを引いてご覧なさい……」と妖しく微笑む美咲。
拒否権など存在しない闇の遊戯。負けた男たちは身も心も吸い尽くされ、二度と立ち上がれなくなる——。
(ひっ……!! まさかこれ、男たちを物色・誘惑するための『怪しいお道具(小道具)』なのか……!? 男好きのする趣味を装うトラップか、それとも怪しい儀式の触媒なのか……!?)
「天野さま……!」
カードを回収し終えた美咲が、勢いよく立ち上がった。
その顔は真っ赤に染まり、瞳にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。
(うわあああ! 完全にロックオンされた!! 秘密の『道具』を見られたから殺される……!!)
「お願いですわ! 今のことは……私がこのような『夜の嗜み』を持っていることは、どうか他言無用にしていただきたいのです……!」
(よ、夜の嗜みーーーーーっ!?!?)
『カード』と言わずに『夜の嗜み』とかいう最悪に淫らな言葉で言い換えたーーー!!
やっぱりそうだ! こいつ、このカードを使って夜な夜な男たちを……!!
「私、こういうものには目がなくて……一度ハマると、相手が音を上げるまで徹底的に弄んでしまう性分ですの」
「ひっ……!」
「昨日もオンラインの対戦部屋で、3人の男性を立て続けに手も足も出ない状態にして、ベッドへ送って差し上げましたわ」
(噂の真相、本人から出たーーーーーっ!!!)
自白だ。完全なる自白だ。
『手も足も出ない状態にしてベッドへ送った』って、それもう完全に絞り尽くして気絶させてるじゃねえか!!
恐怖で膝がガクガクと震える。
そんな僕の胸元に、美咲の鋭い視線が注がれた。
彼女の瞳が、僕の制服の胸ポケット——僕が今日持ってきたマイデッキの膨らみ——をじっと見つめている。
「天野さま……。貴方の胸元にあるそれ……もしかして、私と同じ『嗜み』をお持ちではありませんか?」
(狙われてる……!! 次のターゲットは、僕だ……!!)
コメント
1件
あら、面白かった!「夜の嗜み」でTCGって、その誤解の破壊力がすごいですね(笑)。噂の魔女ビッチが実はカードゲーマーだったというギャップ萌えと、主人公の過剰な警戒心が生み出すコメディ具合が絶妙でした。特に「相手が音を上げるまで徹底的に弄ぶ」がガチのTCGプレイヤー発言で、二度笑わせてもらいました。伏線の貼り方もスマートで、この後どう転がるのか楽しみです!