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W × M
side 元貴
スタジオを出たあと。
夜風が少し冷たくて、さっきまでの
音の余韻がまだ耳に残ってる。
本当なら、くだらない話をしながら帰るはずなのに。
今日は、やけに静かだった。
隣を歩く若井が、何も話さない。
そのくせ、距離だけはやけに近い。
「……ねえ」
耐えきれなくなって声をかける。
「なに」
低く返ってくる声。
やっぱり、少しだけ機嫌が悪い。
「今日さ、なんか怒ってる?」
「別に」
即答。
でも、明らかに“別に”じゃない。
「……絶対嘘」
そう言った瞬間、
ぐっと手首を掴まれた。
「っ、若井……」
そのまま引っ張られて
近くの細い路地に連れていかれる。
人気がなくて、少し暗い。
次の瞬間、背中が壁に当たる。
「ちょ、なに……っ」
「最近さ」
被せるように、低い声。
すぐ近く。
「俺のこと、避けてるよな」
心臓が、強く跳ねる。
「……避けてない」
反射でそう返すけど、
「じゃあなんで距離取んの」
すぐに言い返される。
言葉が詰まる。
視線を逸らそうとした瞬間、
「目、逸らすな」
って言われて、顎に軽く触れられる。
ぐっと視線を戻される。
逃げられない。
「……なんで避けんの」
少しだけ声が低くなる。
「……それは」
言えない。
でも、このまま黙るのも無理で。
「……怖いから」
ぽつっと落とす。
一瞬、若井の手が止まる。
「……何が」
「……若井が」
そのまま続ける。
「最近、近いし」
「触るし」
「なんか、前と違うし」
言葉が少しずつ溢れてくる。
「それで……」
息が詰まる。
でも、
「変なこと考えちゃうから」
そこまで言った瞬間、静かになる。
若井がじっとこっちを見る。
「……変なことって?」
低く聞かれて、逃げたくなる。
「……言えない」
小さく言うと、
「言えよ」
って返ってくる。
強くはないのに、逃がさない言い方。
「……無理」
そう言った瞬間、
ぐっと距離が詰まる。
一気に、近い。
「……じゃあ俺が言う」
耳に近い位置で、低い声。
「お前……じゃなくて、元貴のこと」
一瞬言い直すのが分かる。
「近くに置きたくなるし」
「触りたくなるし」
「……誰にも取られたくない」
ゆっくり、はっきり言われる。
頭が真っ白になる。
「……それで距離取ったの?」
視線がぶつかる。
「……うん」
小さく頷くと、
「ふーん」
って短く返される。
でもその目、全然余裕ない。
「じゃあさ」
さらに一歩近づく。
もう、ほとんど触れそう。
「逃げんなよ」
低く言われる。
「……逃げてない」
「さっきまで逃げてた」
「……今は」
言葉が止まる。
でも、
「……今は逃げない」
ちゃんと言うと、
若井の目が少しだけ細くなる。
「ほんとに?」
「うん」
頷いた瞬間、
手首を掴む力が少しだけ強くなる。
「じゃあ動くな」
そのまま距離が、ゆっくり縮まる。
息がかかるくらい近い。
「……若井」
名前呼ぶと、
「なに」
すぐ返ってくる。
近すぎて、逃げ場なんてない。
「……これ以上近いと」
「うん」
「……ほんとに変なこと考える」
正直に言った瞬間、
一瞬だけ間が空く。
そのあと、
「いいよ」
って、低く返される。
「……え」
「俺も同じこと考えてる」
さらっと言われて、息が止まる。
さらに距離が詰まる。
ほぼゼロ距離。
「……ねえ」
「……なに」
「ほんとに止まれないかも」
その声が、やけにリアルで。
でも、
「……止まらなくていい」
気づいたらそう言ってた。
一瞬、空気が止まる。
若井の目が、はっきり変わる。
「……それ本気?」
「うん」
小さく頷く。
次の瞬間、ぐっと引き寄せられる。
肩がぶつかる。
呼吸が重なる。
「……じゃあ行くぞ」
低く囁かれる。
顔が、ゆっくり近づいてくる。
もう、触れる——
その直前で、
「……やめた」
急に離れる。
「え」
思わず声が出る。
「ここでやったら、たぶん終わる」
少しだけ息を吐きながら言う。
「……なにそれ」
「ちゃんとしたとこでやる」
そう言って視線を逸らす。
耳、少し赤い。
「……ずるい」
小さく言うと、
「そっちが止まらなくていいって言ったんだろ」
って軽く返される。
そのまま、また手を掴まれる。
今度はさっきより優しい。
「……続き、ちゃんと覚えとけよ」
ぼそっと言われて、
「……忘れない」
って返したら、
「ならよし」
って、小さく笑われた。