もう少しで、唇が触れる─。
ガチャッ
「「!?」」
足音と共に勢いよく開かれた扉。2人してビクリと肩を跳ねさせる。
「鳴海!」
「は、せが、わ…?」
「そこに居るのは宗四郎か!?」
即座に駆け寄り、鳴海に覆いかぶさっていた保科の肩をゆさゆさと揺らす。
「しっかりしろ宗四郎」
「フーッ…フーッ…」
眉間にシワを寄せ、荒い息を吐いている保科。鳴海のヒートに当てられ、正気を保つことが出来ないでいるのだろう。
これは1度外に出た方がいいな。
そう判断し、保科に肩を貸す。
「鳴海、辛いかもしれんが待っておけ」
「ったく、あれほど薬を飲めと言ったのに…」
自分の目の前で飲ませなかったことを後悔しながら文句を垂れる。
「ぅ、あ、ほしな、ッほしなぁ…」
その時、長谷川は確かに聞いた。鳴海が、苦しそうにしながら保科を呼ぶ声を。
先程、扉を開ける直前、「いやだ」と鳴海が言う声が聞こえた。
本気で嫌がっていたわけじゃないのか…?…いや、αのフェロモンを求めているだけか。
そう思った。
βである長谷川にはフェロモンを感じることが出来ないが、相当辛いはずだ。
急いで保科を連れて部屋を出る。廊下の突き当たりに来たところで、保科はようやく我に返った。
「ぁ、長谷川さん…?」
「宗四郎、大丈夫か」
「えっと、僕は…」
「鳴海のヒートに当てられたんだ」
「ッ!!」
鳴海がΩだったという事実と、自分がフェロモンに当てられたとはいえ鳴海を襲ってしまったことが頭を駆け巡り、絶望に満ちた顔で声を失う保科。
「すまん、鳴海が薬を飲まなかったばかりに」
「鳴海隊長のせいやないです!」
「…せやけど僕、Ωのフェロモン感じ取りずらいはずなんですけどね…」
「!」
隊員から、運命の番というものを聞いたことがある。自分にとって特別なΩ以外のフェロモンを感じない特殊体質のαが居るんだそうだ。
逆も然りで、自分にとって特別なα以外に欲情しないΩが存在している。
今回の鳴海は、薬を飲んでいなかったとはいえかなり重めのヒートだった。
保科を呼ぶ鳴海の声が頭を反芻する。
…いや、やめよう。今考えてもどうしようもないな。
「宗四郎、医務室に寄ってから帰った方がいい」
「はい、すみません…」
「鳴海には俺から言っておく」
「おおきに」
「ほな失礼します、」
足早にその場を去る保科の背中を、長谷川はじっと見つめていた。
コメント
8件
テスト期間の疲れがとれるほど 尊い、…✨️💕
グヘヘヘヘヘ(^^ω)声出して笑てもたわ 今日部活でバカみたいに疲れてたけど疲れどころか口角までもが飛んでったわ( ^^ω)