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悪い予感は当たるもので、学校の教師よりもっとヤバい人間に見つかっていた。目の前に派手すぎる浴衣を着た男が現れた。黒地に白菊の柄。
「おまえ、姉ちゃんに酒まで飲ませてるのか? 悪いことばかり教えやがって!」
菊多の全身が怒りで震えている。いつも通りの濡れ衣なんですけど!
だいたい彼女にお酒を教えたとされる僕が手に持っているのはりんごジュース。でも菊多の目には見えていないようだ。
彼女は一本目を飲み干して、二本目のプルタブを開けたところ。
「菊多、邪魔するな。ボクは夏梅とデート中だ」
「ビール飲むのが? 高校生なら高校生らしいデートしろよ!」
「何言ってるんだ? お酒飲んでほろ酔い気分でセックスするのが高校生らしいデートだと教えられたぞ」
菊多の視線にみなぎっていく明白な殺意。それを彼女に教えたのもきっと陸なのに!
逃げた方がよさそうだと思って立ち上がると、ぽんと肩を叩かれた。彼女かと思ったら、彼女は状況を気にせずゴクゴクと二本目を飲み干すのに夢中。
「?」
後ろを振り向いて絶句した。そこに立っていたのは彼女の父親。父親は浴衣でなくカジュアルな洋装。にこにこ笑っている。今度は僕をどう痛めつけてやろうかと想像するのが楽しいのだろうか。
「この前失禁するまで絞め技をかけさせたのは警告だった。おまえはおれたちの警告を無視するわけだな」
缶のりんごジュースを父親の目の前に突き出した。お酒を彼女に教えたのは僕じゃないと分かってもらうために。
「何だそれは? それを凶器におれと戦うというわけか。どこまでも卑怯な男だ。娘に酒を教えてくれた礼だ。死んだ方がマシと思えるほどの生き地獄があることをおまえに教えてやろう」
また父親の太い腕が僕の首に巻きついた。もう逃げ出すのは不可能だ。
「映山紅さん……」
呼びかけたけど彼女の姿がない。なぜか彼女が座っていた折りたたみのパイプ椅子もない。500mlの缶ビールを二本一気に飲み干して、気持ち悪くなってトイレにでも行ったか。僕を助けるどころか、この場からいなくなった彼女に腹が立った。ボクは夏梅の最強の彼女になる、と言ったくせに。やっぱり別れた方がよさそうだ――