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春休み
少し暖かくなった空気の中で、らんは駅前に立っていた
そわそわしながら辺りを見渡している
1人の相手を探すために
「らんらん」
名前を呼ばれて振り向く
そこにいるのは、いつも通りの優しい笑顔のすち
でもいつもと違い制服じゃなくて私服
意外とラフな服
カフェでも帰り道でもない場所にいるだけで
少しだけ違って見えた
「待った?」
「全然」
本当はちょっとだけ待った
でも別に言うことでもないから言わない
「水族館とか久々行くかも…」
「俺も」
すちが何故か嬉しそうに頷く
(なんでこいつこんなにこにこしてんだ)
電車に揺られながら並んで座る
肩が少し触れる距離
いつもは向かいあわせで座っているためなんだか変に緊張してしまう
「遠足みたい」
すちが小さく笑う
「子どもか」
そう返しながら
少しだけその空気が心地いいと感じた
水族館
青い光に包まれた 静かな空間
最初に見たのは大きな水槽
光に揺れる水をゆっくり泳ぐ魚たち
「すご」
らんが思わず呟く
「らんらんそういう顔できたんだ」
横からすちの声
「どういう顔」
「なんか無邪気な楽しそうな顔」
らんは少しだけ目を逸らす
「……楽しいけど」
その一言に
すちは少しだけ安心したように笑う。
しばらく並んで歩く
無言の時間も苦じゃない
クラゲの水槽の前で、足が止まる
ふわふわ揺れる、透明な体
「俺結構クラゲ好きだなぁ…」
すちが言う
らんは、その横顔を見る
柔らかい表情
静かだけど温かい目
(なんか)
胸が変に締め付けられる。
「らんらん?」
名前を呼ばれてはっとする
「え、なに」
「ぼーっとしてたから」
「……してない」
(なんでこんな)
ただ一緒にいるだけなのに
次のエリアに進むと トンネルみたいな通路
頭上を魚が泳ぐ
「うわ、これやば」
らんが思わず声を上げる
すちが笑う。
「テンション高いじゃん」
「うるさい」
「あ、ねぇあれ見、て…」
気づいたららんはすちの袖を軽く掴んでた
(あ、やば)
離そうとする前に
すちがその手を軽く握った
びくっとする。
「迷子防止」
少しニヤッとして言う
「子ども扱いすんな」
でも、振りほどかない
むしろ
少しだけ握り返す
出口近く
少し人が少ない場所
すちが、急に立ち止まる
「らんらん」
「ん?」
少しだけ真面目な声
らんも止まる
「今日、さ」
すちは少し視線を逸らして、
それから戻す
「楽しかった?」
「……楽しかったよ」
素直に言う
すちが少しだけ笑う
「よかった」
すちが一歩近づく。
「俺さ」
心臓が強く鳴る
「最初に会ったときから」
らんの呼吸が止まる
「らんらんのこと、好きだった」
時が止まる
(え)
頭が追いつかない
「最初から、ずっと」
すちは少しだけ困ったように笑う
「気づいてなかった?」
「意外と鈍感だよね」
その言葉に
胸がぐっと締め付けられる
思い返す
カフェでの時間
何も聞かない優しさ
隣にいる当たり前
全部そういうことだったのか、って
「…ずるい」
小さく漏れる
「なにが?」
「なんで今言うんだよ」
すちは少しだけ驚いて
それから優しく笑う
「今が一番、言いたかったから」
らんは下を向く
顔は真っ赤
頭がぐちゃぐちゃなのに
一つだけ、はっきりしてる
(俺も)
さっきからずっと
離れたくないって思ってた
「…俺も」
声が小さくなる
「好き…」
言ってしまった
自分でもわかるくらい顔が熱い
すちは少しだけ目を見開いて
それから、柔らかく笑う
「そっか…」
一歩近づく
「らんらん、俺と付き合ってください」
今までにないくらい真剣な言葉
「…うん」
らんは頷いた
その瞬間
すちの表情が少しだけ崩れる
嬉しそうに
「よろしく、らんらん」
「…よろしく」
帰り道
夕焼け
今度は、自然に手を繋いだ
誰にも言ってない約束
この時の俺たちは
まだ何も知らない
ただ、
好きな人と、同じ時間を歩いてるだけだった