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「ねぇ、今日、帰っていい?」
夜。
涼音は陸の部屋でシャツのボタンを留めながら、ポツリと言った。
「え?」
「なんかさ、今日は……気分じゃないっていうか」
「……体調悪いんですか?」
「ううん、そうじゃないんだけど……」
陸は何か言いたげに、じっと涼音を見る。
だけど涼音は視線を合わせず、
サッとポーチをつかんで立ち上がった。
「じゃあね、また連絡する」
「待ってください」
腕をつかまれて、涼音の動きが止まる。
「ほんとに、なんなんですか。
俺のこと、からかってるんですか?」
「は?」
「だって、涼音さん、俺の気持ち知ってて逃げてますよね。
“好き”って言ったの、聞こえてましたよね?」
「…………」
「“好き”なんて、一言も言ってないよ」
涼音の声は震えていた。
それは怒りか、それとも――
「俺は言いました。何度も言った。
涼音さんがどれだけ遊び慣れてても、抱かれてきてても、
俺はそれを全部受け入れて、上書きするって」
「だからって、僕が陸を“好き”になるとは限らないじゃん……っ」
「じゃあ、なんで俺に抱かれるんですか?」
その言葉に、涼音の全身がビクッと揺れた。
「なんで俺じゃなきゃ駄目みたいな顔して、
涙浮かべて、声出して……っ」
「ちがっ……」
「違わない。俺、わかってます。
涼音さん、他の誰でもなくて、俺じゃないと……」
「っ、うるさいっ、やめてっ……!」
腕を振り払おうとした瞬間――
ぐっと腰を引き寄せられて、唇を塞がれた。
「んむっ……!? ん、んぅっ……!!」
舌をねじ込まれ、口の奥まで貪られる。
苦しくて、熱くて、涙が滲む。
でも、なぜか身体は逃げられなかった。
「……ん、ぁ……はぁ、はぁ……」
唇を離され、陸が涼音をまっすぐ見下ろす。
「好きなんです、涼音さん。
……“好き、なんて言ってない”っていうなら、
俺が言わせるまで、何度だって抱きます」
「っ、……やめて……僕……」
「……じゃあ、拒否してください。
“抱かれる理由がない”って、ちゃんと証明してください」
陸の手が、シャツのボタンにかかる。
「……言えるなら、今、言ってください。
“陸のこと、なんとも思ってない”って」
涼音は――言えなかった。
だって、言葉より先に、
身体が、もう覚えてしまっていたから。