仕事で練習スタジオに入るのが遅くなった。
いつもの部屋へ向かっていると
「若井?」
若井が個別ブースに入って行くのが見えた。何やってんだろうと少し開いた扉から個別ブースの中を覗くと、若井と涼ちゃんがキーボードの前に座っていた。こちらに背中を向けているから表情は分からないが、なんか真剣な雰囲気だ。
「・・・なんかさ、今の元貴見てるといつか僕は“いらない”って言われそうな気がして・・・。」
「まさか。」
「直接的な表現はなくても、なんとなくそんな感じになりそうだなって・・・。」
「絶対ない。涼ちゃん。そうなったら二人でチームを離れよう。元貴が涼ちゃんのこといらないっていうなら、俺のこともいらないでしょ。だから、二人でここから逃げ出そう。」
若井が涼ちゃんに言っていた。待って待って。なんでそんなことになってんの?
「若井がいらなくなることなんてないよ。元貴にとって若井は幼馴染で唯一無二の親友じゃん。」
「そう思ってくれてたらいいんだけどね・・・。」
否定したい。けど、入って行ける雰囲気じゃない。
頭が真っ白になり、とりあえずその場を離れた。
二人は、チームを辞めようとしてるってこと・・・?
「だからその後の練習機嫌が悪かったの。」
大森の言葉に、若井と藤澤はアッと顔を見合わせる。
「あの時元貴いたんだ・・・。」
「僕のせいで元貴のこと傷付けてたんだね。ごめん・・・。」
「本当だよ!涼ちゃん何ですぐそういう思考になるわけ?!しかも若井も一緒に辞めようとするしさ!」
「いや、辞めはしないけどもしもの時はね。」
「しかしくっつくのに時間かかったねぇ・・・。途中から「もういいから早くっつけ!」って思ってた。」
「ねぇ、元貴。変なこと聞くんだけど・・・。」
「涼ちゃんが変なのは今に始まったことじゃないからいいよ。何?」
「ひどっ。・・・僕、いつから若井のこと好きだったの?」
「それ俺本人を前に聞く?!」
「涼ちゃん自覚なかったのは想定外だわ。」
「気づいたのつい最近なんだもん。でも、思い返すと結構前からな気がしなくもなくて・・・。」
「自分のことなのに分からないとか、若井これから苦労するだろうね・・・。」
「今回のことを教訓にして、涼ちゃんとは「何かあったら話し合う」って二人で決めたから。」
「じゃぁもういいじゃん。俺が若井と涼ちゃんのことあーだこーだ言う必要ないよ。結果として”お幸せに”なんだから。」
「それはそうなんだけど・・・。」
「そんなことより勝手に辞めようとした罰として、二人にはバリバリ働いてもらうから!もちろん涼ちゃんは体調見つつだけど。」
「「はい!喜んで!!」」
「しゃれになってねーわ。」
藤澤は若井に貰ったチケットという名のピックを見ながら悩んでいた。
「どうしたの?涼ちゃん。ピック見つめて。」
「あ、元貴。ソロ撮影終わったの?」
「うん。次若井がやってる。で、何?一人でぶつぶつ言ってたけど。」
「若井から貰ったピックをね、持ち歩きたいんだけどどうやって持ち歩こうかって思って。そのままだと失くしそうだし壊しそうだし。」
「あぁ、例の駆け落ちチケット?」
「”愛の逃避行”ね。って自分で言うのハズいな。」
「今流行りの推し活グッズとかいいんじゃない?」
「推し活グッズ?」
「100均とかにデコレーションできるうちわとか、ライブ会場で取ったカラーテープを保管できるケースとかあるよ。推しの写真やイラストを入れてオリジナルキーホルダー作れるものもある。」
大森は持っていたスマホを操作して、藤澤に画像を見せる。
「これだ!」
後日
「見て!若井。今度からこれに入れて持ち歩くから!」
藤澤はピックを入れた透明なケースのキーホルダーを若井に見せた。
「涼ちゃん可愛すぎ。」
「え?」
少し離れたところにいた大森は呆れた様子で二人を見ていた。
「次はウエディングソングでも作るかなー。」
「涼ちゃん。」
「なーに?」
「なんでもない。」
「えへへ。なになに?」
「俺だけに向ける涼ちゃんの笑顔ってなんか贅沢だなぁって。」
「何言ってんの(笑)」
「涼ちゃんの笑顔すごく好き。」
「笑顔だけ?」
「全部好き(笑)」
「んふふふ。僕も滉斗の笑顔好き。かっこいいところもギターうまいところも全部好き!」
「照れるー(笑)」
「(笑)」
※突っ込み不在
大森がとあるソロの仕事で記者会見を行っていると、
「藤澤さんが緊急搬送されたそうですが。」
一人の記者が質問してきた。司会者は少し強い口調で
「関係ない質問は控えてください。」
記者を制したが、大森は司会に目くばせしてマイクを握った。
「その件に関しては事務所から発表がありました通りです。うちの藤澤、季節の変わり目に体調よく壊すんですよねぇ。それにチームの音楽関係の裏方結構やってもらってて。楽器もピアノとキーボードとシンセサイザーやアコーディオンってやっぱ違いますし、フルートも担当してもらってますから色々やらせすぎちゃいましたね。気を付けます(笑)今は無理しないように若井を見張りに付けてますが、今度なんか栄養あるもの差し入れします。」
にっこりとほほ笑めば、何故かシャッター音とフラッシュが沸き起こった。
その後、場違いな質問をした記者はSNS上で糾弾とまではいかないにしろ軽く吊るしあげられ、チーム外の現場で大森の口から藤澤と若井の名前が出たことにファンは尊さを感じていたとかいないとか。
これにてシリーズは終了となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
続きのようなそうでないようなりょつぱを次に書き始めていますが、新しくシリーズにした方がいいのか、ここに新章的な感じで続いて入れていった方がいいのか現在考え中です。
書きたまったらまた投稿させていただきます。
ありがとうございました。
コメント
6件
今回と素敵なお話、沢山ありがとうございます🥹💙💛 番外編のようなこのお話達も好きです💕
素敵すぎて終わってしまったのが寂しすぎる😭最高でした🤍
素敵なお話ばかりでした🫶