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小さな町の外れ。廃墟寸前の家を借りて、二人はそこに“隠れるように”移り住んだ。
外界との接触は最小限。
買い出しも最低限、名前も偽名。
SNSも、連絡も、過去の一切を絶った。
もはや、「アル」も「アーサー」も本名ではなくなっていた。
夜。
風が割れた窓をなぞるように吹き抜ける。
アーサーは古びたベッドに座りながら、静かに問う。
「なあ……これが“自由”だと思ってたんだよ、最初は」
アルがゆっくり彼の隣に腰を下ろす。
「どう思った?」
「自由なんかじゃなかった。……ただ、逃げてるだけだった。
でも、それでもお前と一緒にいられるなら、それでよかったと思ってる」
アルは笑って、アーサーの肩に頭を預けた。
「俺もだぞ。
壊れても、逃げても、罪を犯しても……君が隣にいてくれるなら、それでいい」
アーサーの目が伏せられる。
その手には、数日前から隠していた古い手紙が握られていた。
“捜索打ち切り通知”――警察が彼の失踪を正式に諦めたという知らせ。
これで、彼は本当に“存在しない人間”になった。
それを、アルに渡すことはなかった。
代わりに、彼の手を取った。
「もう俺たちは、“この世界”からいなくなったも同然なんだよな」
「うん」
「……だったら、最後までお前のものになってやる。
壊れてもいい。何も残らなくてもいい。
お前だけは、俺から奪わせねぇ」
アルの手が震える。
涙を流しながら、微笑む。
「ありがとう……アーサー。
俺も、君のすべてを抱えて、堕ちていく」
その夜、ふたりは初めて、“全てをさらけ出すように”ひとつになった。
肌も、心も、過去も未来も。
狂気も、愛も、絶望も――すべて重ね合わせて。
次の朝、窓から差し込む光の中で、アルは目を覚ました。
隣には、静かに眠るアーサー。
呼吸は、していなかった。
一通の手紙が、枕元に残されていた。
「お前が壊れる前に、俺が終わる。
これが俺の、最後の愛し方だ。
お前の中で、ずっと生きさせてくれ」
アルは崩れ落ち、何も言わず、アーサーの体を抱きしめた。
そのまま、長い長い沈黙が続いた。
◆エピローグ
数ヶ月後。
人里離れた廃屋で、身元不明の男が発見された。
彼は植物状態で、誰の言葉にも反応しない。
傍らには、使い古されたノートが置かれていた。
最終ページには、ただひとことだけ――
「アーサーと俺の世界は、永遠にここにある」
希望がないからこそ、強く結ばれた絆。
そして誰にも壊されない、永遠。