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2024.12.12
「ねぇ!この旅館の大浴場、俺らでも貸切できるらしいよ!」
六人で草津旅行にきているなか、ある一人が意気揚々と提案してきた。
元々小柄な上に最近髪が伸びてきた彼は、たまに後ろ姿を女性と見間違えることがあるらしく”貸切温泉”という言葉に強く惹かれていた。
高校からの付き合いで今更なにを恥ずかしがることがあるのか。
彼の申し出に俺らは二つ返事をした。
そろそろ暑くなってきたため湯冷ましに一度浴槽からでようとすると、いつもより特段低い声が背後から聞こえた。
「なぁ。さっきから思ってたんだけど、背中の引っ掻き傷しみねぇ?」
自分に投げられた質問だと思いその声に振り返ると、俺ではなくまだ温泉に浸かっていた一番背の高いやつに話しかけていた。
彼の背中に引っ掻き傷……?
数日前にみたときにはそんな傷なかったけどなぁと記憶を探る。
背中をみた後にした行動。
思い出される情事。
壊れそうなほど強い快楽が怖くて、目の前の彼に縋り付いたっけなぁ。
じゃあ、傷の原因は俺か。
そう結論がでると温泉で温められた血液は一気に顔周りへと集中する。
純情な青年よ。なんて質問をしてくれたんだ。
驚いた表情や好奇心に満ちた顔でお前を見ているやつらは、それを理解してなにも聞いていなかったというのに。
「あー、これはねぇ……」
一瞬、俺に視線を送る。
おいなんだ、そのニヤついた顔は。
変なこと言わないでくれよ。
「ネコちゃんだよ、可愛い可愛い甘えん坊な僕のネコちゃん。夜になるとしがみついてきて僕のことを離さないの。昼間はツンツンしてるんだけどねぇ。まぁ、マーキングみたいなもんかな。可愛いでしょ。」
いつものふにゃふにゃとした顔をさらに蕩けさせ、至極幸福に満ちた顔で語る。
隣の浴槽にいた上品な下ネタを好むやつは、呆れた顔をしているのできっと彼が話している”ネコ”がなにを指しているのか分かっているのだろう。
話を振った彼は数年前から話してるあのツンデレ猫ちゃんか、そろそろ写真みせてくれと頼んでいるあたり、俺だとわかっていないようだ。
というかこいつの純情を利用して惚気てんじゃねぇよ。
彼らの話を聞き流しながら、温泉と違う理由の汗をシャワーで流す。
絶対に誰のことかわかってないね、といつもは見えない双眸を三日月型にして俺の隣に座る。
黙れ、黙れ。お前がこんな提案しなければこんなことにはなってなかったんだよ。
その長い髪で隠れたうなじに鋭い噛み跡があること言いふらしてやろうか。
いやぁ、愛されてんねぇといつもの天パが失われたやつに反対側から囁かれる。
うるさいなぁ。
日頃から十二分にわかってるよそんなこと。
からかってくるやつらから逃げるようにもうゲームの話で満たされた浴槽に入る。
この上気した顔は温泉のせいにしよう。
ちらりとこちらを見やり隣の温泉から移動する猫目の彼。
ひとつの浴槽に六人が集まった。
嫌な予感がする。
頼む、止めてくれよ?
「……ちょっと聞こえたんだけどさぁ、さっきの”ネコ”ってどんな子?」
はぁっ!?!いや、おい!!!
下ネタ嫌いなお前はどこいった!!
お前らも吹き出しそうになってんじゃねぇよ!
あぁ、いや……そうか。
これは想像力を利用した上品な下ネタか。
「おっ、興味ありますか!?毛色は少し青が混じった綺麗な黒でねぇ……」
飼い猫自慢、もとい彼女自慢が始まってしまった。
入ってきたばっかりなゆえ、すぐに出るのもおかしいだろうと数刻耐える。
1の質問に10返している彼がいつボロを出すのか、気が気でない。
日頃の雰囲気でバレているし分かっているとはいえ、誰と付き合っているだとかどっち役かだなんて誰もいっていない。
高校からの付き合いだぞ?
自分たちでそうですと改めていうのは流石に恥ずかしいだろ。
俺は今、なんで彼氏の惚気を聞かされてるんだ。
なんでいかに俺が可愛いか聞かされてるんだ。
もう頼むから止めてくれ!!