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その時。
「ねぇ、ハルカ? トウカちゃんの事、私に紹介してくれない?」
アリスがハルカの目を見つめる。
すると彼の表紙は再び、人形に戻ってしまう。
「アイラ、あんた、何を…」
アイラに掴みかかろうとしたその手は、ハルカに、そして後ろにいたヒスイに静止される。
「ハルカ!」
「やめて、アイラを傷つけないで。」
「トウカちゃん、ダメだよ…!」
「ハルカ、どうして!」
「アイラの為だから。」
表情を変えることなく、私にそう告げた。
彼の冷たい瞳が、私を見つめる。
「二人は、今後一切、アイラに近づかないで。」
そう話すハルカの後ろでは、アイラが勝ち誇ったような表情をしている。
「次アイラを傷つけたら、容赦しないから。」
「は…」
頭が追いつかなかった。
どうして、どうしてなの?
ハルカは、一体、どうしたの?
アイラは、ハルカに何をしたの?
ぐるぐると同じ疑問が頭を巡る。
でもその答えはいつまでも出なくて、アイラの手を握るハルカを見つめることしかできなかった。
「ヒスイ、さっさと帰ろう。」
「でも、ハルカが!」
「どうしろってのよ! 今はどうしようもないじゃない。」
「でも」
「さっさと帰るよ」
まだ何か言いたげなヒスイの手を取り、逃げるようにして路地を去っていった。
後ろでは、アイラがニタリと意地悪げな笑みを浮かべた気がした。
***
昼間、ここに来た時よりも少し傾いた太陽に照らされて、街を歩く。
「どうしてハルカはあんなことになったの?
明らかに不自然だったじゃない。」
「うん」
「何か心当たりないの? ハルカがあんなことになった予兆とかは」
「うん」
隣を歩くヒスイはひどく落ち込んだ様子で、こちらが何を言っても生返事しか返ってこない。ろくに頭も回っていない様子だ。
そんな状態にあるのは、ヒスイだけじゃない。
いつもは頭に留めて置くだけの思考は、次々と口から飛び出ていった。
「どうにかして原因を突き止めないと。
でもどうやって? 図書室に行けばきっと_」
そこまで考えて、足を止めた。
前方には、不思議そうにこちらを見つめるヒスイがぽつりと立っていた。
「トウカちゃん?」
「図書室。そう、図書室よ。」
「と、図書室?」
「ヒスイ、明日2人で出かけるよ。」
「図書室に? でも図書室なんてどこに……」
「行けば分かるから、とにかく明日の朝1番。
5時の鐘がなる頃に、家に来て。」
「わ、わかったけど、図書室なんて……」
「いいから来て。 こうなった原因を知ってる奴がいるかもしれない。」
あの科学者なら、きっと分かるはずよね。
科学者が使えなくても、あれだけの本があればどれかひとつ、参考になるものがあるかもしれない?
「ほんとに? ハルカを元に戻せる?」
「確証はない、でも今はそれしかないの。」
「わ、わかった。 明日の、5時でいいんだよね。」
「そう、遅れないでよ。」
その後の曲がり角で、私達は別れた。
別れる頃にはヒスイの表情はすっかり生気を取り戻していて、背中を向けて歩き出す私に
「またねー」と手を振るほどには回復したらしい。
とことん単純な子。