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コメント
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無事に辿り着けると良いんだけれどね。これだけ大袈裟で煌びやかな馬車でしょ? 荷物も多いし。 襲ってくださいって言っているようなものよね😔
ダフネ、無事に辿り着ける気がしないんだけど!💦
お疲れさまです、鷹槻れんさん。第258話拝読しました。 ダフネの浮かれる様子と、ランディリックの抑制の効いた応答の温度差が絶妙でしたね。「こういうものがお前には相応しい」と望み通りに与えられて嬉しそうな一方、護衛の編成やランディリックの目が一瞬細まる仕草に、この先の展開を思わせる不穏な空気が漂っていて…読んでいて胸がざわつきました。あの大量の嫁入り道具と華やかな馬車が、逆に彼女を危険にさらす標的になるのではと心配です。次が気になります!
一日半ほどを掛け、汽車はニンルシーラのエルダン駅へ到着した。
長い移動にすっかり飽きていたダフネだったが、三人の侍女を引き連れて駅舎を出た途端、その表情を一変させる。
「まあ……!」
待っていたのは、ダフネが思い描いていた以上に華やかな儀礼馬車だった。
磨き上げられた車体には金色の装飾が惜しげもなく施され、窓枠には細やかな意匠が刻まれている。
扉にも華やかな装飾が施され、遠目からでも到底、一般の旅人が使う馬車には見えない。
「これ……私の?」
「ああ」
聞き覚えのある声が返ってきて、ダフネは振り返った。
「ランディリック様!」
少し離れたところに立っていたのは、ランディリック・グラハム・ライオールだった。
まさか辺境伯自らが出迎えに来てくれるとは思っていなかったダフネは、一瞬驚いたものの、すぐに顔を綻ばせる。
「見てください! すごく素敵ですわ!」
「お前が望んだものだろう?」
「ええ! でも、想像していたよりずっと素敵!」
弾んだ声で答えながら、ダフネは再び儀礼馬車を見上げた。
(やっぱり、お養父さまに頼んで正解だったわ!)
もちろん本人を前にして、お養父さまなどと呼ぶことは許されていない。
けれど、曲がりなりにも自分はこの男の養女なのだ。
ウィリアム・リー・ペインは目立ちすぎるだの危険だのと散々言っていたが、ランディリックは自分の希望をきちんと聞き入れてくれた。
「ウィリアム様ったら、こんなに派手な馬車は危険だとか、荷物は減らした方がいいとか、そればかりだったんですのよ」
「そうか」
「でも、ランディリック様は分かってくださったのですね!」
嬉しそうに振り返ると、ランディリックはいつもと変わらない表情でこちらを見ていた。
「ああ。お前がそれを望んだのだろう?」
「もちろんですわ!」
何の迷いもなく頷く。
「だって私はこれから、マーロケリー国の王太子妃になるのですもの。これくらいでなくては!」
「……そうか」
ランディリックはそれ以上、何も言わなかった。
その返事を肯定と受け取ったダフネは、満足して馬車へ視線を戻す。
周囲を見れば、護衛の者たちも大勢いる。
揃いの装備を身につけ、馬を従えた男たちが、すでに出立の準備を整えていた。
ダフネには、彼らがヴァン・エルダールの常駐兵ではないことなど分からない。
ましてや、ほんの少し前に集められた者たちであり、ひとりひとりに護衛や戦闘の経験はあっても、ひとつの部隊として行動した経験がほとんどないことなど、知る由もなかった。
「ほら。ちゃんと護衛だって大勢いるじゃない」
誰に言うでもなく呟く。
やはりウィリアムは心配しすぎだったのだ。
大量の嫁入り道具も、貨物車両から次々と荷馬車へ積み替えられていく。
一台。
二台。
さらにもう一台。
それを眺めているうちに、ダフネはますます気分がよくなった。
これだけのものを携えて異国へ嫁ぐのだ。
マーロケリー国の者たちも、自分を粗末に扱うことなど出来ないだろう。
(向こうへ着いたら、まずはお城を見てあげなくちゃ)
気に入らなければ、あれこれ直させればいい。
衣装だって、マーロケリーの仕立て屋が気に入らなければ、イスグラン帝国から呼び寄せればいいのだ。
そう考えれば、どんよりと空が重く見える北の地にあっても、少しくらいは楽しみも見つけられそうだった。
「ダフネ様。お荷物の積み替えが終わりました」
声を掛けられ、ダフネは荷馬車へ目を向けた。
どうやら準備が整ったらしい。
「では、そろそろ出立いたしましょう」
「ええ」
返事をしてから、ふと思い出してランディリックへ向き直る。
「ランディリック様」
「なんだ」
「色々とありがとうございました」
そう告げてから、ダフネは少しだけ胸を張った。
「わたくし、王太子妃として立派にやってみせますわ」
ランディリックは何も答えず、しばしダフネを見つめた。
その沈黙が少し気になったものの、やがて「ああ」と短い返事が返ってくる。
「せいぜい励むといい」
「もちろんですわ!」
ダフネは満足げに笑った。
「それでは、ごきげんよう。ランディリック様。――リリアンナお義姉さまにもよろしくお伝えくださいませ」
リリアンナの名を出した途端、ランディリックの目がわずかに細められた気がした。
けれど、恐らく考え過ぎだろう。
その証拠に、彼は先ほどまでと変わらぬ様子で「ああ」と首肯した。
「お嬢様、皆が待っております。お乗りくださいませ」
促されるまま、三人の侍女のうち一人を伴って儀礼馬車へ乗り込む。
残る二人の侍女は、後続の馬車へ乗ることになっていた。
座席へ腰を下ろしてみれば、内装も申し分ない。
長旅でも疲れないよう柔らかな座面が設えられ、細部に至るまで上質な素材が使われている。
(本当に素敵)
やはり自分には、このくらいのものが相応しい。
やがて扉が閉じられ、御者が手綱を取る。
ゆっくりと動き始めた馬車の窓から外を見れば、ランディリックはまだそこにいた。
ダフネは機嫌よく手を振る。
ランディリックが振り返してくれることはなかったが、そんなことは大して気にならなかった。
その後ろを、大量の嫁入り道具を積んだ荷馬車が続く。
さらに侍女たちを乗せた馬車。
それらを取り囲むように、護衛の男たちが馬を進めていった。
誰が見ても、ひと目で分かる。
高貴な身分の者が、莫大な財を 携えて、旅をしているのだと。
ダフネを乗せた儀礼馬車が駅前を離れていく。
窓から見えていたランディリックの姿も、やがて建物の向こうへ隠れて見えなくなった。
こうして――イスグラン帝国からマーロケリー国へ。
二国の未来を繋ぐはずの花嫁を乗せた一行は、国境を目指してエルダン駅を後にした。