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今回はゲーム下手組のジェルくん愛され気味です

ジェルくん体調不良ネタです

以上が大丈夫な方のみ⤵︎ ︎



経験したことのある感覚だから、なんとなくわかる。

 魂だとか意識だとかの塊を頭の先から抜かれているみたいな。

 首に繋がっている、いや実際には繋がってなんてないんだけど、コンセントの線をゆっくり、ゆっくり、撫でられながら抜かれるような。

 そんな、奇妙で嫌な、感覚が、する。

 ンく、と喉が詰まる気配を感じながら口内に溜まった唾液を飲み込む。放っておくと口の端から垂れてしまいそうだった。呼吸をなんとか続けたくて、唇を薄く開き続けてしまうから。

 そうして半端に開いた唇の隙間から、ふ、ふ、と落ち着くために浅く息を繰り返す。意味も無いのに。

 足元が落ち着かなくて、必死に足を交互に前に出す。いつも当たり前のように行う、歩く行為。こんなにも難しいだなんて思わない。くにゃくにゃ廊下が柔らかい気もするし、いつもより距離が長い気もする。

 本当は、座り込んでしまいたい。

 頭が重たくて、足が不安定で。何が何だかわからない不快感と焦燥感。

 それでも、こんな廊下のど真ん中で座り込んでしまうことはできなくて。だからせめて、近くのトイレまで。個室。誰にも見られない、迷惑にならない場所。そこに向かおうと、必死に足を進めて、

「ぁ、え、」

 ──見えない。

 これは、あれだ。うん、あれだ。冷静に冷えている脳味噌の端でもうひとりの自分が言う。以前とまったく同じ感覚。

 視界がブラックアウトしそうになる。ノイズがかったような視界が端の方から、薄暗く、ぼやけて消えていく。

 だめだ、せめて。せめて誰も見ない、通らない、迷惑にならないところに、


「──ジェル?」


 聞き慣れた声が降ってきた。……降ってきた?

 そこでようやくジェルは、自分が廊下の中央でへたり込んでいることに気がついた。

 ただ座っているだけならまだよかったのかもしれない。ジェルは、膝をついた状態で、自身の頭を廊下の床に擦り付けるようにべったりとへばりつく形で崩れていた。一瞬戻った視界。目の前が床だった。本当に目と鼻の先が床。あれ、なんで。いつの間に。

「あ、動かなくていい。無理に起きあがろうとしない。いいね?」

 声は小さく、優しい。頭に響かないよう、気を遣ってくれているらしい。

「その体勢が楽ならそのまんまでいた方がいいけど……あー、ここ廊下のど真ん中だからちょっと移動しよう。触るね…動かすよ。」

 刺激しないようになのか、やることすべてを声に出してから行う。触ると言いながら俯いた状態のまま身体に触れ、動かすと言ってお姫様抱っこで持ち上げられた。

 視界は相変わらず、ノイズでもかかったみたいな、がびがびとした薄暗い世界。

「なー、くん」

「んー、この部屋がー? たしかー、誰も使わないはずで……」

 節をつけた喋り方はおそらくわざと、こちらの気を紛らわせるためのもの。揺れだって最小限で、緩慢な動作で。

 彼、ななもりはそのまま、おそらく会議室か休憩室かどこかの部屋に入ったのだろう。ソファにジェルを下ろす。ここで寝転がれってことだろうか。

 しかし、ジェルはソファの上で横になれず、ずるずると床に落ちて先ほどと似た姿勢になってしまった。

「ん、そっちのが楽ならそうしといた方がいいね。気になるなら俺のことは無視してて大丈夫。」

 ななもりは何かしら器材を触っているらしい。かちゃかちゃ無機質なものが触れ合う音がする。すぐにしゅー、と音が追いかけてきた。設置してある電気ケトルでお湯を沸かしているようだった。

「貧血かな。ジェル今回以外にもなったことあるのかな…あ、これ独り言ね。」

「……ぁんまなぃ、よ」

「そっか」

 ななもりはその後もぽつぽつと大人しい声色で、独り言と称して話していた。独り言だと自分から言うことで、ジェルが応えなくても構わないという意味なのだろう。

 ジェルは未だぼんやりする頭を床のカーペットに置くようにしながら、ななもりの声を聞いていた。なんだか子守唄みたいだ。いつものあのキレのある声じゃなくて、ただ柔く、心地よい声が聞こえる。



 微かにがちゃん、と蝶番が立てた音で意識が戻った。どうやら眠ってしまっていたらしい。視界はさっきまでとまるで違う。クリアにいつもの世界を映し出す。

 そっと横目で部屋の隅にあった時計を見やる。ジェルが意識を飛ばしていたのはほんの十数分くらいのことだった。慌てて身体を起こす。

 あっ、と声が聞こえたが、間に合わなかった。

「ぅ、」

 くわん、と頭が大きく揺れた。

 

「ジェル、ジェル大丈夫。大丈夫だからね」

 この声はさっきまでいたななもりの声じゃない。揺らいだ視界の中で輪郭を捕まえる。莉犬だ。さっき軋んだ蝶番の音は、彼が入ってきた音なんだ。

 するり、背に腕が回される。

「──げ、え、」

 驚いて、目を見開いた。今自分は何をした?

「大丈夫。大丈夫。吐けそうならぜんぶ吐いちゃった方がいいよ」

 口が気持ち悪い。何度か瞬きを繰り返せば、ジェルは自分が莉犬に正面から支えられていたことに気がつけた。

 けぺ、と妙な水気を含んだ音がする。自分から。

 自分は今嘔吐してしまっていて、莉犬はその嘔吐物を自身の服の裾で受け止めてくれている。

 その事実を認識してしまった瞬間、ジェルは成人しているにも関わらず、なんだかもう、なりふり構わず大声をあげて泣いてしまいたくなった。距離を取ろうと腕を伸ばしても、莉犬はそれを拒否するようにそっと下ろす。

「りぃ、ぬ、服、だめ、」

「うーん、でもここ床カーペットだし……ね、ジェル、僕のなら大丈夫だから、ね?」

「う、うぅ、う────」

「ごめん、突然部屋入ってびっくりさせちゃったよね。泣かないでジェル。泣いちゃったら呼吸が苦しくなっちゃうよ、」

 ぽんぽんと背骨を撫でる莉犬に宥められながら、それでもまだ二回三回と嘔吐くものだから、ジェルはまた泣いた。





「えっ、ジェル貧血なの?」

「たぶん? そう」

 偶然にも階段で合流できたさとみにも荷物を持ってもらう。ジェルの廊下に散らばっていた手荷物だ。ジェルを近くの使用者のいなかった部屋に運んだあと、結局廊下は誰も通らなかった様子だった。

 限界ぎりぎりまで彼は歩いていたのだろうか。ななもりが見た時、ジェルの顔色は真っ白で、目は虚で。

 それでも必死に、誰かの迷惑にならない場所へ移動しようとしていた。

 膝をついて、頭を床に落としたその姿勢で、ずるずると前に進もうとしていた。本人にその意識は無いのだろう。自分がその体勢であったことも理解できていないようだったから。

「今さっき莉犬が来たから一旦任せてる」

「なら大丈夫か。体調悪いジェルひとりはちょっと怖いしな」

「さっき半分くらい寝てたっぽいから、だいぶ回復はしてくれてると思ってるけど、」

 あれ多分、疲労を溜め込みすぎた、とかなんかなのかなあ。睡眠不足でも確かああいうのってなるし、さあ。

「ま、今日くらい仕事のあれこれはさとみ達、ゲーム上手い組らに任せて休みますか」

「まかせて」


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