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「言いたくなければ言わなくていいけど、何かあったら臆せず何でも言ってね」
そう言って
じっと私を見つめる社長
まるで
何かを察しているかのように
私を受け止めようとしているかのように
私の次の言葉を待っている
***
社長は勘が鋭い
勘が鋭いというよりも
内面を見透かしたような目をする
内面というよりも
もっと心の奥深く
深層心理を見透かしたような目をする
見透かしたようなというよりも
まるで
知っているかのような物言いをする
そして
深層心理というよりも
まるでそうなると予知していたかのような
行動をしたりする
あの日踏切で
魔が差してしまった私を助けてくれた時もそうだ
まるで
予知していたかのようなタイミングで
まるで
そうなると知っていたかのように現れ
魔が差してしまった私を助けてくれた
あの日オフィスで
二人きりで過ごした夜
社長は自身の事を話してくれた
出生の秘密
その生い立ちから
これまでの半生まで
その話を聞いて以来
私は自分なりに調べた
その数奇な出来事について
人狼の存在について
狼について
その数奇な出来事は——
恐らく事実
失踪した村の少女が発見された以降については
情報は皆無だったが
それまでの経緯については
記された古い記事があった
場所
時期
人物像
どれもが社長の話と符合した
あの日の社長の語り口調といい
あの時の雰囲気といい
噓ではないと思った
ましてや
嘘をつく理由が見当たらない
しかし
人狼についての情報は見当たらない
そもそも
人間と狼では
染色体数が大きく異なるため
現代の生物学においては
篠原愛紀
遺伝学的に困難とされ
狼と人間の間で遺伝的交配が起こったという事例は存在しない
表向きには
そして
狼についても調べた
DNAの奥深くに残存していると社長が言った
狼の特徴や習性について
それは
驚くべきほどに
社長の言動と符合した
“ 狼は若年で独立し外部探索を始める—— ”
社長は若くして単身日本へ渡った
“ 狼は遠吠えで位置確認をし仲間を呼ぶ—— ”
昔から
幾度となく夢の中で聞き続けて来た狼の遠吠え——
夢の原理については
現代科学においても解明されておらず
説明できない点が多々存在する
例えばデジャブや幽体離脱
実際に起こるそれらの事象において
実際に夢と現実が交差する
幾度となく夢の中で聞き続けて来た狼の遠吠え——
あれが社長だったとしたら?
私を呼んでいた?
私を探していた?
「ずっと探し、ずっと呼び続けてたんだ——」
それが
あの日の社長の言葉の真意なの?
“ オスの狼はメスを追い求め接触で関心を示す—— ”
“ オスの狼はメスの反応を注意深く観察し、その受容度を確認する—— ”
社長はやたらと私を気に掛けていた
ただ
単純にそう思っていた
だが
よくよく考えれば
一社の社長が
たかだか一社員に対して
過剰過ぎた気がする
たかだか一社員の私にしては
一社の社長と
接触する機会が多過ぎた気がする
私を追い求めていた?
私に関心を示していた?
そして
私を観察し
私の受容度を確認していたの?
“ 狼の嗅覚は人間の1万倍以上の感度があり、匂いで追跡する—— ”
“ 狼は匂いとフェロモンで個体識別する—— ”
“ 狼は嗅覚と視覚を駆使して相手の感情や状態を敏感に察知する—— ”
社長は匂いに執着していた
「瑠奈の匂いだ、俺は瑠奈の匂いが好きだ——」
鋭敏な嗅覚を駆使し
私の感情や状態を嗅ぎ分け
私の居場所に駆けつける
あの日踏切で
私を助けてくれたのも
私の心情に寄り添ってくれたのも
それなら合点がいく
そして——
“ 狼は運命の番たるメスを追いかけ執着する—— ”
あの日
二人きりのオフィスで聞いた
あの言葉
「気が遠くなる程の昔から、お前に恋い焦がれ、お前を求め、お前を辿り、やっと出会えた——」
「俺の全ては瑠奈の為だけの人生なんだ——」
あれって……
そういう事なの?
あれは本心で
あの言葉は真実で
あの言葉を
あなたを
私は
信じていいの?
あの日
DNAの奥深くに残存していると社長が言った
狼の特徴や習性について
調べれば調べるほど
社長の言動全てに
整合性がとれた
そして
私がその人なの?
あなたの
運命の番が
私なの?
***
私の目をじっと見つめ
私の言葉をじっと待つ社長
私も
その視線から目を逸らさず
その視線から逃げず
私達はじっと見つめ合った
その間僅か数秒の刹那
祖母の出来事について
人狼の存在について
狼について
調べ漁った時分が脳裏を巡る
良いのかな……
この人になら——