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――王国軍との戦いが終わって、今日で3日が経った。
アイーシャさんは引き続き、毎日を忙しく過ごしている。
彼女の仲間の三人も同様で、その姿を見ることはほとんど無かった。
そんな中、何となく手持ち無沙汰だった私とルーク、エミリアさんは、クレントスの街を三人でぶらついていた。
「……戦いが終わったのは良いとして、何だかやることが無くなっちゃいましたね」
「そうですね……、みなさんそれぞれ忙しそうですし。
指示を出してもらえれば、いろいろと協力はできそうですけど……」
「まだ、微妙にお客様待遇……っていうか?」
「まさにそれです! アイナさんとルークさんがビッグネーム過ぎるんですよ。
さすがにそんな人たちに、雑用は頼めませんから」
……ビッグネーム。
私は『神器の魔女』で売り出し中だし、ルークは『竜王殺し』という汚名を着ている。
確かにそんな人たちに、誰でもできるようなことは頼めないだろう。
「雑用ではないと思うんですけど、アイーシャさんから『相談事』があるって聞いているんですよね。
でも今はそういう話の流れになっていないし、どうしようかなぁ……」
「『相談事』……? 何でしょうね?
すぐにお話がないことを考えると、準備が必要だったりするんでしょうか」
「さぁ……?
それにしても昨日も一昨日もまったり過ごしちゃったから、今日こそは何かやりたいですよね」
ちなみに先日再会を果たしたジェラードは、早速別行動で何かを調べ始めたようだ。
とても張り切っていたし、そのうちきっと良い情報を持ってきてくれるだろう。
「――アイナ様、時間があるなら『神託の迷宮』に行ってみませんか?」
ルークが突然、そんな提案をしてきた。
逃亡生活の中で、最後の望みとしてきた場所――
……私たちはすでに平穏を取り戻している印象もあるが、そんなことはまるで無い。
クレントスから外に出てしまえば、私たちはまだまだお尋ね者なのだ。
「まだお昼前だし、それも良いかな?
ところで『神託の迷宮』って、ここからどれくらい掛かるの?」
「馬車を使えば片道1時間といったところです。
クレントスまで乗ってきた馬車は、アイナ様がお持ちですよね?」
「うん、アイテムボックスに入れてるよ。
馬は……えぇっと、街門の近くで預かってもらっているんだっけ?」
「はい、そのようにしています」
「それじゃ天気も良いし、ピクニックがてら行ってみようか。
……寒いけど」
「はい、冷えないように上着も持っていきましょう」
先日までは必死に目指していた『神託の迷宮』だけど、今は何ともゆるい感じになってしまった。
しかし、行くとなれば気を引き締めなければいけない。何が起こるかは分からないのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――2時間後。
私たち三人はクレントスの北部、廃れた遺跡を訪れていた。
神殿のような建造物が崖に埋もれている――見た目はそんな感じだろうか。
存在感のある2本の柱の間に、中へと続く大きな空洞が厳かに広がっていた。
「……ここが『神託の迷宮』?
何だか『循環の迷宮』とは雰囲気が違うね……」
王都の北部にあった『循環の迷宮』は、そのまわりにはちょっとした街のようなものが作られていた。
迷宮を訪れる冒険者を相手に、様々なお店や宿屋が営業をしていたのだ。
しかし『神託の迷宮』のまわりには、そういったものがまるで無かった。
「この迷宮は、何も無いと言われて久しいですからね……。
入ってもすぐに行き止まりの迷宮ですし、宝箱や魔物も特に無いので……」
「話には聞いていたけど、まさかここまで興味を持たれていないとは。
……まぁ、とりあえず入ってみよっか」
「はい!」
「はーい、そうしましょう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特に何の妨害もなく迷宮に入ると、そこには学校の体育館くらいの空間が広がっていた。
視界を遮るものは無く、隅から隅までを見渡すことができる。
壁は『循環の迷宮』と同じように、剥き出しの岩が|微《かす》かに青白い光を放っていた。
しかし、それだけと言えばそれだけ――
「……え? 何も無いよ?」
「はい、何もありません」
「ほ、本当に何も無いですね……」
……いや、ここって『迷宮』なんだよね?
迷う要素がまるで無いんだけど……?
「――光竜王様、何でここを訪れるように言ったんだろ……」
「まったくですね……。
でも思い返してみれば、光竜王様は『無事に試練を乗り越えることができたなら』……って言ってましたよね?」
「え? だって私たち、王国から指名手配をされて、散々な目に遭ってきたじゃないですか――
……って、もしかしてあれは試練じゃなかった!?」
「うぅ……。正直、そうは思いたくないですが……」
価値観が大きく変わるほどに、私たちは危険な逃亡生活を過ごしてきた。
だからこそ、てっきりあれが試練だと思い込んでいたんだけど――
……違うの?
そう考えただけで、頭がくらっとしてしまった。
もしかして、私たちはまたここから、散々な目に遭わなくてはいけないのだろうか……。
「そ、そうだ!
ここで何かが起きるには、何か条件があったり――とか!?」
「条件……?」
「例えば神託を受けるために、神器を捧げなければいけない、とか!!」
「おお! 可能性としてはありますね!!
それではルークさん、お願いします!!」
「え、えぇ!? ……捧げるというと、普通に上に掲げれば良いのでしょうか……?」
そう言いながら、ルークは神剣アゼルラディアを両手で持って、上に向かって掲げてみた。
――しかし何も起こらなかった!!
「……ダメ、ですね。
もしかして、いわゆる伝説っぽく、聖女の祈りとかが必要……なのでは?」
「それではアイナさん、お祈りをお願いします!」
「いやいや、私は魔女ですから。
聖女といえば、どこからどうみてもエミリアさんじゃないですか」
「えぇー? アイナさんは絶対神アドラルーンの使徒なんですから、完全に否定はできないと思うんですけど……。
ほら、魔女っていうのも割と自称じゃないですか」
「……そう言われると、ちょっと怪しいかもしれませんね。
それではエミリアさん、一緒にお祈りをしてみましょう」
私とエミリアさんはとりあえず、ルークの持つ神剣アゼルラディアに向かって両手を組んで、目を閉じて祈ってみた。
祈るとは言っても何をどうすれば良いのか分からなかったので、『何かが起きますように』と念じてみたのだけど――
「……何も起きませんね」
「んー……。
ここはエミリアさん、祈りに加えて聖女の舞いが必要なのではないでしょうか」
「……アイナさん。もう完全に適当に言ってますよね」
「分かりました?」
「分かりますよ!!」
私の適当っぷりに、エミリアさんは可愛く頬を膨らませて怒ってしまった。
でも、そうそう良い案は出てこないんだよなぁ……。
「……私はもう、ネタ切れです。
クレントスに行く前にこっちに来ていたら、絶対に絶望していたパターンですよね」
「それ、想像したくないです……。先にクレントスに行って良かったです……」
「他の案、他の案……。
……やっぱり神器が関係あるのかな。ルーク、ちょっとアゼルラディアを貸して?」
「はい、気を付けてくださいね」
そう言いながら、ルークは静かに剣を差し出した。
「私と私の仲間は、この剣を持てるようになっているから――
……っと、でもやっぱり重いか」
ルークの補助を受けながら、私は神剣アゼルラディアを手に取った。
例えば神器を作った私が、その神器を通すことで何かを感じられるのでは――そう思ったのだ。
……気持ちを落ち着かせて、精神を静めて、そして剣に意識を移す。
「……ん。んんー……。
んんー? 何だか遠くの方で、よく分からない程度の音がするというか……?」
――錯覚、という自信もある。
本当に、ただの気のせいかもしれない。
「アイナさんの仲間が持てるというなら、わたしも持てるんですよね?
やらせてくださいー!」
「気を付けてくださいね」
私はエミリアさんに剣を渡して、交代することにした。
「……わぁ♪ 実はわたし、アゼルラディアって初めて持ったんですよ♪
えっと、それじゃ――集中っ!!」
エミリアさんは楽しそうに言ってから、すぐに真面目な顔で集中を始めた。
しばらくすると――
「……確かに、ゴゴゴ……みたいな感じの音が聞こえてきますね。
でも、何でしょう? 耳鳴り?」
私とエミリアさんの結果を踏まえて、ルークも試してみる。
すると――
「……本当ですね、確かに何かが聞こえるようです。
私もずっとアゼルラディアを持っていますが、こんなことは初めてですよ」
……おお。三人ともこれなら、何かのヒントにはなりそうだ!!
――しかし、そのまま3時間ほどいろいろと試したものの、それ以上のことは何も分からなかった。
今日中に調べる必要はないので、ひとまずクレントスに戻ることにしたんだけど――
……それにしても、光竜王様は私たちに何をさせたかったんだろう?
もしかして、本当にこれから『試練』が待ち構えているのかなぁ……。
それ、絶対に嫌だなぁ……。