コメント
0件
――木が沢山ある方へ少し歩くと、それは奥へ奥へと続いているのが
わかった。
森……と言っていい程広大なのかはわからない。
あまり深入りすると、戻ってこれなさそうだ。
文明が発達しても、森で命を落とす人は多いって聞いた事がある。
どうしようか……。
「キュルルー!」
木の生えている傍まで来ると、キュルルが上の方を向いてクンクンしていた。
何か匂う? 俺には全然わからないや。
「どうしたの、キュルル。この木の上? ……あー! これ、竜のエサだけど
人も食べれる果物だ。確かドリュードだっけ。お、美味しいのかな……」
幸い背の高い木じゃないので、伸尖剣をコートアートマで伸ばし、形をサスマタ
状にして上手くもぎ取ってみた。
キュルルが食べたそうにしている。
もぎ取って、近くにそれを感じると、凄く甘い、いい匂いがした。
でも色が怖いよ。
だってピンク色だもの……この果物。
ドラゴンは鼻が利くのかな? でも、キュルルはまだ産まれたばかり
だし、これは早いんだよね。
「キュルル。これはもうちょっと大きくなってからじゃないと。ほんの少しだけ
食べてみる?」
「キュルルー、キュル、キュルルー」
どうやら食べてみたいようだ。少しだけ実を食べて味を確認する。
……これは柿みたいな味だ。柔らかいし、少しだけなら食べてもよさそう。
少しだけ手にとって、口に持っていき、食べさせてみた。
あ……吐き出した。やっぱりまだ早いのかな。
匂いは凄く好きなんだろうけど。
「ふふっ。キュルルにはまだ早いよね。でもよかった。これで水分も少し
補える。栄養もそこそこはあるんじゃないかな。いくつか取って戻ろう」
ひとまずの水分源と自分用の食事を確保出来た。
一度穴まで戻って、これからの事をじっくり考えようと決めた。
そもそもここは、何処なんだろう。
自分のいたオードレートからは、かなり離れた場所だとは思うんだけど。
方向感覚を把握する余裕なんて全く無かった。母竜は左右に暴れながら
移動してたし。
目的地があって飛んでいたようには思えなかった。
海を高速で渡り切り、砂浜に……海岸って、やっぱり危ないよね。
それに、もう一つ凄く気がかりな事がある。
ここでじっとしていたら、キュルルは……やっぱり覚悟を決めて、ここ
から離れよう。
まずは今持っている所持品を確認だ。
「えーっと。メモした紙とそれを入れて置ける筒を首から下げる奴と、ポー
ラル。それから伸尖剣と洋服。ただの靴と肌着。伸尖剣に着けてた紐。どう
しよう。お金も持ってないし。売れるとしたら、ポータルと伸尖剣位なの
かなぁ」
「キュルル?」
「ああ、ご免ね。心配しないで。キュルルのご飯はしばらく草だから、大丈夫。
問題は僕の方だよね……この果物だけじゃ、もっても三日位で体調悪くなる
だろうな。竜って連れ歩いて平気なのかな。そうだ。このベッドを明日改造
して洋服にしてみよう! 伸尖剣の形がどこまで変えられるか、試して
みよう……コートアートマ!」
ちょきちょきと切れるハサミのように……お願い。
……と、少しハサミのようにはいかなくても、切れそうな刃上の短剣には
出来た。
二枚刃には出来ないのかな。
「ふああ。キュルル、今日はもう寝よう」
「キュルルー」
キュルルを抱き抱えて、二人でゆっくり休む事にした。
――どのくらい寝てたのだろう。起きると日が沈んでいたので、慌てて
火を着けに向かう。
今のところ獣とかは出てない。
海辺だと獣はあんまり寄ってこないのかな。
食糧も全然見当たらないからね。
魚とかはいるかもしれないけど……釣り針とか無いし。
少しキュルルの寝床が小さくなってしまうけど、寝床にしている服の一部を
切り裂いて、キュルルに上手く巻ける布状にしてみた。
こういった裁縫っぽいものは、雪国では必須だったから上手く出来る。
動き辛くないように工夫もしてみた。
キュルルは嫌がってるどころか、嬉しそうに楽しそうにしてる。
俺の匂いがついてるからなのかな?
嫌がったら止めようかと思ったけど。よかった。
……よし。これなら竜だって直ぐにはわからない。
夜が明けたら、旅に出よう。
「あ。待ってて直ぐ詰め直すから!」
服を切ったので、砂がこぼれちゃっていた。
再び砂浜を詰めて、寝床にした。
案外こんな寝床でも眠れるものなんだね。
子供の体だからかな。
……考えてみたら、まだ七歳になったばかりだ。
俺、誕生日だったんだよね。
正確な日付はわからないけど、夜が全然来ない日の、三日後がそうなんだ。
だからキュルルも同じ日が誕生日だ。
次にその日が来たら、一緒に祝おう。
外に炊いた木がパチパチと奏でる音を聴きながら、再び眠りに着いた。
「キュルルー」
「ぷはっ。キュルル……おはよ」
――翌朝も同じようにキュルルに顔を舐められて起きる。
草もしっかり無くなってる。キュルルの目が少し開いている。
顔、洗ってあげないといけないし、水も飲ませてあげないと。
取って来た果実を少しあげるけど、やっぱり食べはしない。
水分だけ少し補給出来てるかな。急がないと。
「キュルル。この寝床を離れるよ。砂は全部出して……大分汚れちゃった
けど持っていかないとね。これに草を巻いて……よし」
寝床にしていた服にキュルルを乗せる。
その中にはキュルルの食事用の草を少し詰めてある。
見た感じでいうなら、キュルルの鼻と目がちょこんと洋服から
出て、尻尾が少し見えているだけだ。
改めて外に出て、周囲を確認する。東西南北全部確認しないと。
地球だったら太陽を基準に方角がわかった。
でも、ここは異世界だ。そんな方法、通用するわけない。
つまり、自分で方角を定める必要があるんだ。
今立っている場所を基準にして、森が見える方角を東。母竜を埋めた
場所が西。
北は岩壁で、俺の身長だと良く見えない。南は砂浜と海だ。
母竜を埋めた場所から北側……つまり北西に回りこんで北上出来るのかな。
見晴らしが悪くて迷いそうな森を選択したらきっとまずいよね。
確認しに行こう。
――キュルルを抱いたまま母竜が激突した壁を改めてみる。
よく調べないとここに竜が眠るなんてきっとわからない。
そう信じる事にした。
砂浜沿いに綺麗な道が続いてる。
海の色も凄く綺麗だ。
でも、これだけ澄んでいる海なら、プランクトンとかがいない証拠
なんだっけ。
だから生物が全然いないのか。
こういうのは勉強しておいてよかったなと思う。
色が澄んでいない海だったら危なかったかもしれない。
海にだって凶悪な生物がいるはず。ましてやここは異世界なんだ。
どんな生物がいてもおかしくはないし、どんな病気にかかっても
おかしくはない。
もっとこの世界について知らないと……ここが無人島とかだったら
どうしよう。
でも、小さい島ってわけじゃ無さそう。
気候もいいし、住んでる人がいるはず……。
ゆっくり歩きながら、途中でキュルルに餌をあげる。
――どのくらい歩いただろう? 雪道を歩いていたからか、足腰は相当
鍛えられていたようで、キュルルを持ちながらでも、直ぐには疲れなかった。
それでも長く歩くと、徐々に草臥れてきた。
「ふぅ……景色が変わってきた。草原ぽくなってきたよ、キュルル」
「キュルルー……」
「もう眠い? 僕は歩くけど、キュルルは寝ててもいいよ。安心して。落とし
たりしないから」
キュルルは疲れたのか、眠ってしまった。
それから、時間にして一時間程は歩いただろうか。
ゴーーという音が聞こえ出した。
そして……四足で歩く小型の動物がいた! 全然見た事ない生物だけど。
水辺があるのかもしれない。動物を刺激しないようにしつつも、急ぎ足で
音がする方へ向かう。
――そこには小さな滝から降り注ぐような池があった。
そして……近くにもっと驚くようなものがあった。
あれは……間違いない。