テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
とある軍事国家の会議室。
1人の男が声を荒げて周囲に問いかけた。
「一体どうなっている! まだ見つからんのか!」
「はい、エインデルブルグのどこを探しても、フラウリージェという店は見つからないようで」
議題はフラウリージェについて。
「あれ程の服を売っている店が無いとは。そもそもそんな店は実在するのか?」
「サンクエットに潜り込んだ諜報員が、間違いなくエインデル王国にあると言っています」
「しかし、どれだけ王都を探しても見つからんではないか……」
一同は想定も命令も間違っている事にまだ気づいていない。それは大きな店は必ず王家の膝元にあるという概念のせいで、王都ではない離れた町であるニーニルにのみ店があるとは全く考えもしていない事。そして攻め入る前提だからなのか、現地人と関わらないように調査するようにと指示したせいで、正しい情報が全く手に入らない事。
「これまでとは違う見た目、形、色。それに魅了された妻達が、まだかまだかと言っているのだ。そろそろ怖いのだぞ!」
「我が家もだ」
(知りませんよそんなこと!)
「かの店を奪いとれば、世界中の女どもが殺到する。莫大な富が約束されるのだ」
「服屋の1つや2つ、軍で命令すればすぐに支配出来るというのに、その情報が一切入ってこないとはどういう事なのか」
これまで政治的に人や店を操作してきたこの国では、どんなものでも武力で奪うという正義を持っている。その価値観のせいなのか、他国に嫌われる事もささいな事で、むしろ嫌っているのはこちらだと言わんばかりである。
そんな彼らが、未だに一切の情報が無い事に苛立っているのだ。
「王都に無いのであれば……もしや城の中で作られているのか?」
「……なるほど、それならば辻褄が合うし、情報を得る事は難しい」
「つまり国ごと手に入れるしかないと」
辻褄は合うのだが、正解とは程遠いその結論。憶測と自分達が正しいという前提で話を進めているので、それが間違っているという意見は出ない。
「フン。ならば、そのようにしてやろうではないか」
以降、この国はエインデル王国を落とす前提で、国政を進める事になる。
当然その動きは、様々な能力を持つシーカー達によってしっかり把握され、ピアーニャに知られるのだった。
「……うーん、あのクニはバカなんだな」
「どうしてもそういう力任せの国って出ますからね。自分達が最強だと信じているのか、転移の塔の設置も許されていないですし」
「マホウしじょうしゅぎか。グランヴェラドニアってクニとおなじだな」
「……今聞くと、その国名は痛々しいですね。無駄に自己主張と強さの誇張がある響きというか」
「まえにパフィもそんなコトいってたな」
行き過ぎた軍事国家は他リージョンとの交流も断っている場合が多い。多様な考え方を取り込むと、『自分達が正しい』という国民の意志が根本から揺らぐ可能性があるのを無意識に感じているのかもしれない。
「で、どうします?」
「かくシブにテガミをもたせる。なにかあったら、そのクニにホウコクさせるだけだな」
「了解しました。では準備を進めます」
リージョンシーカーとしては、動きがあったら全方位にチクる気満々のようだ。
ニオとの入浴中にアリエッタを突撃させるという計画が決まってから数日。ネフテリアは実行日をいつにするか考えながら、本日の仕事の準備を進めていた。
ネフテリアの前にはミューゼとパフィ、そして大きくなったアリエッタ、ニオ、メレイズ、ピアーニャの6人がいた。全員フラウリージェの服で着飾っている。
服を指定したのはアリエッタ。テーマは前世にあった冬のイベント。子供達3人とピアーニャは白いふわふわが各所につけられた赤いワンピースという、お揃いのファッション。
(まさか自分がミニスカサンタになるとは……にしてもピアーニャ似合いすぎでしょ)
パフィは茶色のスーツで、スタイルを際立たせるスッキリとしたジャケットとパンツを着用。フラウリージェには数少ない男性が着やすい服となっている。さらにパフィの頭には、木の枝のような角がついている。
「パフィ、カッコいいね」(胸の主張も凄いし)
(こんなにイケメンなトナカイになるとは思わなかったよ……)
そしてミューゼとネフテリアは、黄色や赤で彩られた暖かいトップスとショートパンツとタイツ。それだけでなく、各所にリボンを巻いたり結んだりしている。このミューゼの姿を見たアリエッタは、思わずお礼を言ってしまった。
(ミューゼがプレゼントとか、一体どれくらい徳を積んだらもらえるんだ)
半分冗談でプレゼントボックスをモチーフにした事で、まさか自分が致命傷を受ける事になるとは……と少しだけ後悔したが、
「アリエッタおいでー」
「あ、ありがとなのっ!」
ミューゼにゲットされたアリエッタは、とても嬉しそうだった。
「それでは、始めますわ」
準備が完了した事を確認したノエラが、フラウリージェのファッションショーの開始を宣言した。
まずは雪をイメージしたような白いドレスを着たノエラがステージに出ると、早速客がざわついた。
今回はサプライズがあるため、ノエラが司会を務める事になっている。
「美しい……」
「ノエラ様ぁ……」
沢山のため息が聞こえるが、まだ始まってすらいない。声が聞こえて内心ちょっと恍惚気味のノエラが挨拶し、ショーのスタートを宣言した。
そして最初に出てきたのは、ニオとネフテリア。
「……えっ、だ、だれ?」
「かわいい……かわいい……」
「王女様だ」
「うおおおお」
まだ青髪の14歳くらいの女の子の正体は外部に知られていない。そんなとんでもない謎の美少女がネフテリアと一緒に現れた事で、客から見て煌びやかさが増して見えている。
一体誰なんだという質問も飛ぶが、それに応えないまま次の人物達が入場する。
『わあああああ!』
「えっあれパフィなの!? かっこいい!」
「でもでけぇ!」
「あのミューゼちゃん、なんかすごく欲しくなる……」
「でもあの真ん中の子、誰だ? 新人かな?」
「あの青い子といい、美人すぎんか」
美人シーカーとして広まりつつあるミューゼとパフィ、その間には見知らぬ銀髪の美少女。その正体はまだ知られていないので、さらにざわめきが増す。
そしてトドメとばかりに最後のグループが入場。
「はっ、えっ、何あの美少女!」
「2人とも『雲塊』持ってるな」
「ハウドラント人にあんな子いたのか? いいなぁ」
「手繋いで、尊いな……はぁはぁ」
「ナニこの美少女の氾濫は」
「さすがフラウリージェ、レベルたけぇ」
「あの子最近見たような……?」
現れたのはピアーニャとメレイズである。ピアーニャは大きくなった姿でもあちこち出歩いているので、目撃者も少なくない。その正体は知られていないが。
「さて、今回紹介するのは冬の新作ですわ。もう冬も半ばですが、発表しちゃいますわよ!」
ノエラが新作となっている3種類の服を紹介する。それも気になるし嬉しいが、それよりもまだ紹介されていない美少女達の方が気になる人が多い様子。紹介に合わせてポーズをとると全員が湧き上がるが、明らかに困惑の声も混ざっている。誰なんだ、早く紹介してくれという声が思わず漏れているが、あえて無視して進行していった。
そんな中、ファッションショーに初参加となったピアーニャとメレイズが小声で話している。
「おししょーさま、ちょっと恥ずかしいかも……」
「今のアリエッタのシゴトだからな。コンゴも付き合う事はおおいぞ。なれておけ」
「はーい。アリエッタちゃんすごいなぁ……」
メレイズがアリエッタの凄さの一端を実感していた。
一通り服の紹介を終えると、最後の締めくくりとなる。
「それでは最後に、ネフテリア様」
「はいよー。ほらみんなおいでー」
ネフテリアの合図で、ニオ、アリエッタ、メレイズ、ピアーニャが前に出た。
「それじゃあ紹介するわね」
その言葉に、ニオの表情が少し硬くなった。これからされる事を知っているので、緊張しているのである。
ネフテリアはまずニオの背後に立ち、誰にも見えないようにポコッと叩いた。直後、ニオの姿が小さくなり、7歳の大きさに戻った。ミニスカートだったワンピースも膝くらいまでになっている。
「はい、成長していたニオでしたー♪」
「えっとあの、こ、こんにちは」
一瞬その場の空気が止まったかのように静かになった。そして一瞬後に、ニーニル中を震わせる絶叫が響いた。
『ええええええええええええええええええええええ!!』
これにはアリエッタやニオどころか、流石に全員驚いた。
叫び終わってざわざわとした困惑の声程度にまで落ち着いたところで、ネフテリアは追い打ちをかけるようにアリエッタの後ろに立った。
「はい次いきまーす!」
ぽこん
「あたし、アリエッタ!」
『はあああああああああああああ!?』
アリエッタが元に戻った事で、再び大絶叫。元々アリエッタとニオは店の客に人気があったので、大部分の人が知っていた。先程までの絶世の美少女が、まさか成長した2人だったとは…と驚愕し、そして困惑した。
「嘘だろ……あんな綺麗に成長するのか……」
「わかってたけど、実際に成長した姿を見るなんて」
「なんで俺は既に大人なんだっ」
「思い出しただけでドキドキする……」
「もしかしてあとの2人も?」
ここまでくると、残りの2人にも興味の視線が向く。やや中性的な茶髪の子と、金髪ツインテールのツンとした美少女である。
なんとなく2人の正体について考察が始まったところで、ネフテリアが2人の後ろに立った。
「それじゃあ自己紹介お願いね」
ぽこん
「はいっ。メレイズです! アリエッタちゃんの友達です! はじめまして!」
『はじめまして!?』
まさか初登場とは思っていなかったので、うっかり全員からツッコミの声が漏れた。
爆発した困惑を見て、ピアーニャが大きな姿のまま口を開いた。
「オマエたち、驚いてばかりだな。少しは落ち着いたらどうだぁ?」
いつも通り偉そうに言い放つ。見知らぬ美少女に見下され、ちょっとムッとする者と、キュンとする者に分かれた。ムッとする方が少し多いが、それでも半分以上が頬を少し染めている。
「それじゃあ最後にご紹介」
ぽこん
「リージョンシーカーそうちょうのピアーニャだ。どうだおどろい──」
『でええええええええええええええええええええええええ!?』
ネフテリアが叩いてピアーニャがセリフを言い終える前に、これまでで一番の絶叫がニーニルに響き渡った。
なんとなく放置した方が面白そうだったので、絶叫の中でファッションショーは強制終了。全員が店の中に戻っていった。
外では混乱が一向に収まらず、ステージを見ながら茫然とする者、周囲とどういう事だと喚き合う者、頭を抱える者、思い出して真っ赤になる者など、多種多様な動揺っぷりが見られた。それを執務室の窓から見て笑う出演者一同。
そして、ネフテリアが満足そうに締めくくった。
「うん、大成功っ!」