れんは、泣き疲れた10人の背にそっと手を添えた。
押すでもなく、ただ方向を示すくらいの力で――トン、と。
「ほら、帰る所へ帰りなさい。」
声はやわらかく、しかし揺らがない。
「大事な仲間が待っているよ。」
冴も、凛も、誰も反論しなかった。
その言葉が、まっすぐ胸に落ちてきたからだ。
れんは空を見上げるように、ほんの少し顎を上げて言う。
「出口は、真っ赤な夕日の方へ。真っすぐ歩いて行きなさい。
そしたら分かるだろう。」
その言葉を聞いた瞬間、視界がゆらりと揺れた。
気がつけば――
彼らは、お寺の境内に立っていた。
静かで、風も止まっている。
横には古びた狐の像が二体。
後ろには、木造の大きな本堂。
そして前方。
先ほどまでれんが立っていたはずの場所は、
ゆるやかに伸びる石畳の通路が、夕日に染まって続いているだけ。
れんの姿は、どこにもない。
ただ、通路を照らす夕日が、真っ赤に優しかった。
まるで――
れんの微笑みそのものみたいに。
誰かが小さく息を吸う音だけが響いた。
そして全員、無言のまま、夕日の方へ歩き出した。
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