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乱世の意志

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乱世の意志

10 - 玖(最終話)

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2024年06月24日

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時は移ろい、明治の代。

散髪脱刀令により刀を禁止され、北斗は成す術もなく道場内で一人素振りをしていた。勿論、竹刀である。

「未だ刀を振るとは、精が出るな」

突然の声に、振り返る。戸口に樹が立っていた。それは北斗にとっては驚くことではないが、何より驚いたのは樹の風体である。

「おまえ……如何した!」

彼はすっきりと丁髷を切って帽子を被り、袴の上からマントを羽織っていた。

「如何も何もしておらん。禁止令を出された故だ。く言うおまえも、さっさと髪を切ったほうが良いぞ。罰せられる」

わかっておるが、と北斗は床に胡坐をかいた。

「俺はこれが良いのだ。侍でいたい」

「それもわかるが」

すると、また戸が開いて誰かが訪れる。高地と慎太郎だった。彼らもまた、新選組が解散して路頭に迷っていた。

「よう。やはり此処におったか」

慎太郎はにこやかな笑みを見せる。二人もまた、丁髷を切った所謂いわゆる散切り頭になっていた。

「お主らもか…! 俺は、俺は…武士もののふでいたいのだ!」

皆は苦笑するのみ。

「おまえは戦国の侍か。今は明治であるぞ?」

慎太郎に窘められ、ようやく静かになる。

「それで…、やることがあらぬな」

樹は畳に寝転がった。すると、高地が声を上げる。

「街道に出よう。近頃は整備が進んで西洋風になっているそうだ。見に行こうではないか」

下駄を履き、北斗は名残惜しそうに置いてある短刀を振り返りながら外に出た。

しばらく歩いていくと、開発の進む都市まで来る。道は石畳に変わり、ガス灯もちらほらとある。そして、町行く人の服装も、西洋のジャケットなどが見受けられるようになった。

「何処に行く? 狂言などどうか」

北斗が言って、近くの芝居小屋へ行くことになった。

するとそのとき、どこからか馬の足音や車輪の転がる音が聞こえてきた。直後、誰かが叫ぶ。

「馬車が通るぞ! 皆退け!」

慎太郎は腕を伸ばし、咄嗟に三人を脇へやる。走ってきた馬車には何やら華族の一行が乗っているようだった。安全に通行するためか、少し速度を緩める。

そして四人の脇を通る刹那、樹があっと声を上げた。

「大我…」

先方は気づく様子はなく、そのまま通り過ぎていった。しかし服装は違えど、あの日あの時出会い刀を交わした大我に違いなかった。

「やはり、やんごとなき方であったのだな」

北斗はどこか寂しそうだった。

「俺もあんな馬車とやらに乗ってみたいものだ」

一方の高地は、呑気に笑っている。

皆はまた歩き出す。四条通を下っていくと、人も多く賑わっている。南座を目指しているとき、ふいに慎太郎の肩に誰かがぶつかった。

「あ、相済みませ——」

振り返ったその男性の顔を見て、目を見開く。

「ジェシーさんではないか」

「慎太郎さん…皆さんも!」

北斗と樹も気づき、久方ぶりの再会に喜ぶ。しかし高地は首をひねった。「何方どなた?」と慎太郎に尋ねる。

「一時期、俺たちの道場で匿っていたんだ。武器の商人であるらしい」

聞くところによると、武器を輸出するために新たに開港した神戸港へ再び渡航し、京に来たのだそう。

「折角会えたんだ。どうです、共に狂言を観に行きませんか」

樹が言って、「是非」とジェシーは笑った。

「大我も来てくれれば良いのに」

慎太郎がこぼす。それに樹と北斗は苦笑する。

「…あっ、そうだ。ジェシーさん、その被り物を貸してはいただけませんか。髷が見えていたら警吏に見つかりそうで」

どうぞ、とジェシーが被っていたハットをぽんと北斗の頭に載せる。

「ふっ、可笑しいな」

帽子と袴という不釣り合いな格好を見て、皆は噴き出してしまう。

そして、並んで他愛もない話をして歩く。

変わりゆく京の街並みを眺めながら。

時代の波に揉まれる志士たちの願いはただ一つ

——身分なぞ関係なく、出会った六人で集うこと——


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