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弓は引かれた。
2人で駅のホームに降りると、ちょうど電車が発車するところだった。慌てて電車の中に入った瞬間、ドアが閉まります、というアナウンスと共に、音を立てて背後のドアが閉まる。
夕方の電車は思いのほか空いていて、私達は手前から3番目の座席に、2人共腰を下ろした。
果てしなく、遠いところに行きたかった。
お母さんや、先生や、クラスメイトや、倉橋さんに、私を知っている全ての人に、もう2度と出会わないで済むような、ずっと遠いところに。
隣を見ると、日向優野が窓にもたれかかって、ぼんやりと外の景色を見ていた。
「どこまでついてきてくれる?」
不安になって、訊いてしまった。
ここまでの覚悟を決めたのに、日向がついてきてくれなかったらどうしようと、心配になったのだ。
日向はびっくりしたような顔でこっちを見た。
丸い目がもっと丸くなる。
「静が行くところまで、ずっとついてくよ」
その言葉に安心する。
日向は私と逃げることを選んでくれた。私のために、この街を、友達を、家族を捨てることを選んでくれた。それだけで、嬉しさが込み上げてくる。
再び窓の外を眺める日向を見つめながら、私は日向と初めて話した日から今日までを思い出していた。
きっとあの日から、私はずっと、発狂している。