テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
保てない理性
ベッドに沈み込む体。酔いのせいで意識は霞んでいるのに、妙に鮮明に感じるのは、俺の上に覆いかぶさる体温だった。
「……篠原」
低く震える声。
頬に触れる指先は、驚くほど優しかった。
「嫌なら、止めてくれ」
そう囁きながらも、視線は真剣で―切実だった。
(嫌…なはず、だろ…)
そう思うのに、声が出ない。
心臓が痛いくらいに跳ねて、息さえ苦しい。
ただ、袖を掴んだ手だけは、離すことができなかった。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、唇が再び重なる。
さっきよりも深く、熱を帯びた口づけ。
喉の奥までかき乱されるようで、逃げられなかった。
「ずっと、君が欲しかった」
耳元に落とされる告白。
酔いで無防備になった心に、真っ直ぐ突き刺さる。
ジャケットが滑り落ち、シャツのボタンが外されていく。
触れられるたび、熱が広がり、息が漏れる。
自分がこんな声を出すなんて思わなかった。
「大丈夫……怖がらなくていい」
まるで宝物に触れるみたいに、彼は俺を抱きしめる。
その優しさに、胸が締めつけられた。
(なんで嫌いなはずの相手に、こんなに…)
理性が追いつかないまま、俺はその夜、颯真に身を委ねてしまった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!