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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第十九話 あの日のこと
その日の夜。
いつもの時間にサイトを開くと、
相手はまだ来ていなかった。
彼女はしばらく待った。
最近は、来ないと少し気になる。
でも、
何度も確認するのも違う気がして、
スマートフォンを机に置いた。
しばらくして、通知が鳴った。
『遅くなった』
『おかえり』
『ただいま』
『今日も忙しかった?』
『ちょっと』
いつもなら、ここから今日あったことを話す。
けれど、その日は
相手がなかなか話題を出さなかった。
『どうした?』
『いや』
『なんかあった?』
少しして、
『昔のこと思い出してた』
と返ってきた。
彼女は画面を見つめた。
「昔」。
その言葉が、妙に引っかかった。
『どんなこと?』
『小さい頃のこと』
『覚えてるんだ』
『いや、逆』
『逆?』
『あんまり覚えてない』
彼女は少し黙った。
今まで、相手が
自分の過去について話すことはほとんどなかった。
だから、今日は少しだけ踏み込んでみることにした。
『忘れてるってこと?』
『うん』
『昔のこと、あんまり覚えてないの?』
『ところどころ』
『そうなんだ』
『でも、今日ちょっと思い出した』
『何を?』
しばらく返事がなかった。
そして、
『約束』
と届いた。
『約束?』
『昔、誰かとした』
彼女は画面を見つめた。
『どんな約束?』
『それが、思い出せない』
『え?』
『約束したことは覚えてる。でも、誰としたのかとか、何を約束したのかが曖昧』
彼女は何も送らず、しばらく考えた。
そんなことがあるんだ。
『じゃあ、どうして約束したって分かるの?』
『なんとなく覚えてる』
『変な感じだね』
『自分でもそう思う』
少しして、相手から続けて届いた。
『昔の写真とか見れば思い出せるかもしれないけど』
『見てみたら?』
『家にあるか分からない』
『探してみればいいじゃん』
『今度探してみる』
「今度」。
その言葉を見て、彼女は少し笑った。
いつもの言葉なのに、今日は少し違って感じた。
『思い出せるといいね』
『うん』
そこで話が終わるかと思った。
けれど、相手は突然、
『そっちは?』
と聞いてきた。
『何が?』
『昔の約束とかある?』
彼女は考えた。
小さい頃の記憶。
昔の友達。
昔の約束。
いくつか思い浮かぶ。
でも、特別なものはない。
『たぶんないかな』
『そっか』
『忘れてるだけかもしれないけど(笑)』
『それはある』
二人で笑った。
それから話題は変わった。
最近見たもの。
学校のこと。
会う日のこと。
いつもの会話に戻っていく。
けれど彼女は、
さっきの「約束」という言葉が頭から離れなかった。
誰かと交わした約束。
覚えているのに、相手も内容も思い出せない。
そんなことを考えていると、
相手からメッセージが届いた。
『ごめん』
『何が?』
『今日変な話した』
『別にいいよ』
『なんか、急に思い出したから』
『そういう日もあるよ』
『ありがとう』
『うん』
その夜は、いつもより少し早く会話が終わった。
彼女はベッドに入っても、なかなか眠れなかった。
「昔の約束か……」
まだ知らない相手の過去。
それを無理に知りたいとは思わない。
でも、いつか話してくれるなら聞いてみたい。
そう思った。
一方、その頃。
画面を閉じた相手は、机の引き出しを開けていた。
中には、古い写真が何枚か入っている。
一枚ずつ手に取っていく。
見覚えのある場所。
見覚えのある人。
けれど、どれを見ても何かが足りない。
そして最後に、一枚の写真で手が止まった。
写真の端に写っていたのは――
見覚えのない、小さな文字だった。
「また、ここで」
その文字を見た瞬間。
胸の奥に、何かが引っかかった。
けれど、それが何なのかまでは思い出せなかった。
コメント
4件
テンション上げていきましょうー! もちろん! じゃないとあんな意味深な言葉入れないですよー! その可能性もなくはないかもですねー!🤭 誰が書いたんでしょうねー? 楽しみにしててくださーい!
第19話、読了しました!夜の静かなやり取りの空気感がすごく良かったです。「昔の約束」って、覚えてるのに内容が曖昧なの、不思議だけどリアルだなって。最後の「また、ここで」の文字、めっちゃ気になる…!二人の間にどんな過去があるのか、もっと知りたくなりました。M.Sさんのこういう淡々とした会話の積み重ね、好きです。次の更新も楽しみにしてますね!