1話 変わった世界。
僕は、夜芽 癒月(よるめ ゆづき)。夜の静かな日に生まれ、優しい子に育ちますようにと付けられたそうだ。そんな高校生の僕には、ステージハウスを営む優しい両親と大切な弟、塁がいる。中学に上がったばかりの塁の背は低く、身体能力が高く、感性が豊かだ。
しかし、
「癒兄!癒兄!」
旅行から戻る車が逆走した車とぶつかり、、僕の意識は遠のいた。頭から流血する塁の姿を最後に。
「おっ、起きたか。」
目を覚ますと、白いスーツに白いベッド。白い柵に白いカーテン。そこで本を読む目つきの悪い金髪の男性。
…誰っ!?
そう思ったが、随分声をだしていなかったのだろうか、声が出なかった。知らない景色の中、ペンと紙を探し、入らない力を最大限に振り絞って書いてみた。
「誰っ。」
「おいおい、高校の同級生だろ?」
「高校?」
高校に金髪なんていたら気づくと思う。しかも、『同じクラス』とは言っていない。しかも、彼はスーツ姿だ。どう見ても高校生じゃない。
「まぁ、無理もないか。お前、3年も眠ってたもんな。朋凛 駿(ともり しゅん)だ。」
「3年!?」
確かに、朋凛 駿という人物はいた。明るく、容量がよく、クラスの陽キャグループの中心だった。1人で本を読んでいた僕にもよく話しかけてきてくれた。事故った時が高校3年だったから…今21歳!?
「なら、僕も成人してるの?」
夕日に照らされた駿が大人びて見えた。
「塁…塁は?お父さんは?お母さんは?」
僕の大切な家族。
「…全員死んだよ。生き残ったのはお前だけだ。」
「え…?」
次から次へと伝えられる知らない世界。そう、ここは、僕の知っている世界ではなくなっていたのだ。
もう、細くなってしまった身体など、出なくなってしまった声など、気にならないほど、頭に衝撃が走った。
「…。」
「悪い。こんなに早く告げるつもりはなかった。お前が毎日弟の話してたのは覚えていたからな。」
いかつい顔が子犬のようにしゅんとする。気を使ってくれていたんだ。
「そうだ、癒月。お前、明日俺に付き合え。」
「…?」
「行きたい場所があるんだ。」
悲しそうに、駿は目を細めて僕の頭をクシャッと撫でた。
事故がおきて3年後。家族の居ないこの世界で僕は…、何をすればいいのだろうか。
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