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寺家side
ここ最近、身を捧げて掴んだ仕事が少しずつ増えてきたように思う。嬉しい反面、なにか悪いことをしているような、曇った感情もあった。
それはきっと、いつも隣で笑っている何も知らないピュアな男のせいかもしれない。
そんなことを考えながら、劇場の仕事を終え帰る支度をする。
誰か後輩でも連れてメシでも行くかな、と周りを見渡すとまだ残っているのは関わりの少ない先輩数人程。
その中で、角は笑顔で談笑している。
「まぶしいな…」
ふと心の声が漏れた。
それと同時に、角の視線が俺の方へと向けられる。
居たたまれなくて俺が視線を外すと、視界の外から角がこちらへ近づいてくるのが分かる。
いつもなら俺を置いて、他の先輩芸人と飯食いに行くくせに。
「寺家くん。」
「なに?」
「今日、飯行きませんか?」
珍しい角からの誘いに、俺は一瞬頭の中が真っ白になった。
いつものヘラヘラした表情じゃない鋭い眼差しは、俺を射貫いて離さない。
「いや、今日は…」
本能で、逃げないといけないと分かる。
こんな姿は見たことがない、怒っているというよりは飢えた獣の目だ。
ギラギラと欲を孕んだ視線に、身体が怯んだ。
「寺家くん、怖がらんといて下さい。」
「角、俺は…」
「俺とアイツらを一緒にしないで下さい。」
一瞬何を言っているのか分からなかったが、“アイツら”というのはつまり…
だとしたらコイツは、俺が今までやってきた愚行に勘づいていたのだろうか。
いや、まさか、
「寺家くん、」
泣きたいのはこちらなのに、まるで幼子のようにグシャっとさせた表情に、俺にはもう断る術などなかった。