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Side 美緒
緑原総合病院に居た時は、1日も早く退院して、仕事に行きたいと思っていたけど、宮里医院に転院してからは安心して眠れている。
すでに転院してから1週間が経ち、のんびり穏やかな日々を過ごしていた。
「お見舞いで頂く、お菓子が美味しくて、太りそう……」
なんて、呑気な事を考えていた。
そんな私に、大学時代の友人からメッセージが届く。
『美緒、Facenoteに変な書き込みがあるんだけど、知ってる?』
Facenoteなんて、何年も見ていなかったから、変な書き込みを知る由もなかった。
「なんだろう?」と、友人のメッセージに張り付けられていたURLを開いて見た。
すると、衝撃的な内容が目に飛び込んでくる。
『元同級生の女が、夫へ嘘を吹き込んで、夫婦の間を引き裂こうとしている』
から始まり、『大学時代に付き合っていた人と結婚した女が、当時のことを妬んで嫌がらせをしてくる』『自作自演で被害者を装い、わたしを加害者扱いしてくる』『あの女のせいで、離婚されそう。本当に悔しい』等々の書き込みにザワリと背筋が寒くなる。
紛れもなく野々宮果歩の書き込みだ。
見る人が見れば、あの女イコール、私の事だと思ってしまうだろう。
けれど、名指しせずにぼかした書き方で、名誉棄損にはひっかからないグレーゾーンの微妙なライン。
やっと穏やかになっていた心が冷えていく。
「どうして、こんな目に遭わないといけないの!?」
階段から突き落とされ、大ケガをさせられただけでも、十分許し難い。
その上、野々宮果歩は被害者のように振舞い、まるで私が加害者であるかのようなFacenoteへの書き込み。
もしも、何も知らない人がこれを信じてしまったら……。
果歩からの理不尽な攻撃に、悔しさが募る。
「ひどい、ひどすぎる……」
今はベッドの上で身動きが取れない状態だ。反撃の準備をしているが、直ぐに事を起こせない。
ジワリと涙が浮かび、天井がぼやけてくる。
泣いている場合じゃないのに、感情が涙になって溢れだす。
「絶対に許さない」
改めて心に強く思った。
その時、コンコンとノック音が聞こえてくる。
慌てて、ケガの無い右手で涙を拭い、「どうぞ」と返事をすると、開いたドアから健治が顔をだした。
「美緒、具合はどう?」
心配そうな顔を向けられても、今の状態では素直な気持ちで迎える事など出来なかった。
咄嗟に枕をつかみ、健治に向って投げつけた。
いきなりの事に呆然としている健治に向って、私は叫んだ。
「もう、ヤダッ!健治のせいで……」
「美緒……」
「憧れのままで居れば良かった。結婚なんてしなければ、こんなことにならなかったのに……。結婚したら幸せになれると思っていたけど、私……ぜんぜん幸せじゃない!」
ボロボロと涙が頬を伝い始める。
まるで、癇癪を起した子供のようだと自分でも思った。
けれど、積もり積もった怒りを健治にぶつけたかった。
あの書き込みを見た瞬間から、私の中で何かが壊れる音が聞こえた。
今まで健治に嫌われないようにと、顔色を覗って何も言えずにいたけど、もうどうなってもいいと思った。
ずっと、我慢を重ねて来たけど、状況は悪くなるばかりだ。
そう、すでに限界を越している。
「私は何もしていないのに……なんで、こんな思いをしないといけないの?もう、イヤ」
「美緒……。ごめん」
そう言って、健治は私を落ち着かせようと、手を伸ばした。
私は反射的にその手を払い除ける。
「野々宮果歩を抱いた手で、私に触らないで!」
私は肩で息をしながら、毛を逆立てた猫のように健治を睨みつけた。
「野々村果歩が、私を攻撃するのって、健治が原因なんでしょう⁉ 私が彼女に何をされているのか知っているよね?それなのに、健治は何をしているの?」
「俺は……。」
健治は、言葉を詰まらせ俯いた。
堰が切れた私は、健治を責める言葉が止められなくなっていた。
「ほらね、言えないよね。私に言えない事しているんだよね。気付いて無いとでも思っていたの?黙っていればバレないと思っていたの?」
「違う、俺は……」
健治が何かを言いかけていたけれど、私はそれを聞きたくなくて、言葉を被せるように叫んだ。
「違くない!私が、こんな目にあっても何もしてくれて無いでしょう?私はどうすればいいの?このまま、野々宮果歩に殺されるまで、我慢をしなければいけないの?もうヤダッ、本当にヤダッ!」
「ごめん。美緒……」
「謝ってもらったからって、どうにもならない。健治が、野々宮果歩と切れないんだったら、私との縁を切って!」
その時、看護師さんがバタバタと部屋に入って来た。私の叫び声が、廊下にまで漏れていたのか、ふたりの間に看護師さんが割って入る。
そして、健治は病室から出され、泣き叫ぶ私には鎮静剤が投与された。
離婚に有利になる証拠を掴むまで、耐えるつもりだったのに、健治の顔を見た瞬間、今までため込んでいた感情をぶつけてしまった。
幸せになるために結婚をしたはずなのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
だんだんと、薬が効いてきたみたいで、頭がぼんやりとしてくる。
私って、健治にとってどんな存在なのだろう……。
そして、健治は私の事をどう思っているのだろうか。
いままで、幸せな家庭を築きたくて、健治を中心に生活をして来たような気がする。
でも、それは、健治に寄りかかっていて、自分の幸せを健治にゆだねていたのかも……。
私自身が幸せになるには、自分自身を大切にしないといけない。
誰かに依存するのではなく、私はもっと自分のために生きるべきだ。
この結婚が、私を不幸にしているなら、もう終わりにしよう。