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「いやぁ、アイナさんが遠い存在になった気がしました……」
魔法のお店を出ると、まずはそんな話から始まった。
……『安寧の魔石(小)』が金貨1万枚。
『迷踏』の効果も付いてるからそこはマイナスだけど、それにしても予想外に高価だった……。
「あ、あのー……。
今さらなんですけど、『安寧の魔石』は……どうしましょう?」
「それはもうアイナさんに差し上げたものですし、わたしはそのままで構いませんよ」
エミリアさん、貴女は女神か!
「私も大丈夫です。アイナ様が望むものでしたら、そのままどうぞ」
ルーク、君は聖人か!
「じゃ、じゃぁありがたく……」
……うーむ、何と素敵なパーティに恵まれたことか。
いつか何かあったら、今まで考えていた以上の恩返しをすることにしよう。
「――さて。今日はこのあと、何をします?
私は特に行きたいところはないですけど」
「ちなみにアイナ様、お世話になった方に挨拶まわりはするんですか?」
「うーん? ミラエルツは長くいた割に、挨拶をする人があんまりいないんだよね……。
鉱山のオズワルドさんとガッシュさん、武器屋のアドルフさんくらい?」
「アイナさん、コンラッドさんは?」
「そこはかなり微妙なラインなんですよね。
依頼は受けたけど、挨拶するほどお世話になったかなぁ……?」
「そ、そうですね。正直なところ、あまり近付きたくないかもしれませんね」
……何といっても、性格を変えてしまったからね。
コンラッドさんは不可抗力の流れで薬を飲んでしまったわけだけど、それでもどこか申し訳ない気持ちもあるわけで。
「……うん、やっぱりコンラッドさんへの挨拶は無し、で」
「はい、わかりました」
他には冒険者ギルドにもかなりお世話になったけど、特に誰とも仲良くなったわけでもないし……。
クレントスのケアリーさんとは違って、ミラエルツの受付嬢はとても事務的だったし。
ああ、そういえばケアリーさんは元気かな?
ヴィクトリアにはいじめられてないかな?
「……唐突に思ったんだけど、ヴィクトリアにこそ『性格変更ポーション』を飲ませたい」
「ははは、それは良いですね」
ルークが珍しく、私の物騒な話に同意する。
彼も彼なりに色々とされていたみたいだし、それは仕方ないよね?
「ヴィクトリアさんって、どなたですか?」
「あ、エミリアさんはご存知ないですよね。
クレントスを治める貴族の家のお嬢様なんですけど……いやもう、散々ちょっかいを出されたんですよ」
「はぁ、大変だったんですね」
大変だったし、殺され掛けたしね。
ああ、いますぐクレントスに戻ってやり返したい!
でも、戻るのは面倒だから忘れることにしよう。
……よし、それくらいの存在になってるぞ。よーしよし。
「えぇっと、話を戻すと……挨拶まわりはそれくらいだから、明日でも良いかなって」
「それでは、今日はのんびりぶらぶらとしますか?
まだ行ったことのないお店に行ってみたいです!」
「ルークもそれで良い?」
「はい、大丈夫です。明後日からはまた旅路になりますし、英気を養っておきましょう」
「りょーかい!
それじゃ今日はのんびりぶらぶらしましょー」
「それじゃアイナさん、こっちですよ! 良いステーキ屋さんを見つけたんです!」
「さっそくお肉ですか!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「胃がもたれます」
「わたしは大丈夫です!」
「知ってます」
時間は夜、場所はいつもの宿屋の食堂。
昼前からエミリアさんの主導で食べ歩きツアーが始まって、何だかんだで色々と食べてしまった。
私は小食だからあまり食べられなかったけど、ルークはなかなか良い食べっぷりを披露していた。
エミリアさんは、いわずもがなだ。
「あれだけ食べて、さらに夕飯を食べられるとは……」
そういう私の前には、野菜ジュースしか置かれていない。
エミリアさんとルークはいつも通りだ。
「おかげ様で、とても楽しかったです!
ルークさんも意外といけるクチだったので、それはちょっと驚きました」
「ははは、普段身体を使ってますからね。いざとなればこれくらいは」
……『いざ』、とは。
「――さてと。今日は食事が終わったら解散で良いですかね?
明日は挨拶まわりと最後の準備。明後日は出発……っと」
「はい」
「はぁい」
「それにしても、ジェラードさんはまだ戻ってきませんねぇ……」
「心配してくれてたんだ? ありがとう、アイナちゃん!」
「お?」
突然の声に振り返ってみれば、そこにはジェラードが立っていた。
「ああ、お帰りなさい! そりゃ心配もしますって!」
「お帰りなさーい」
「ご無事でしたか」
エミリアさんとルークも口々に挨拶をする。
「ああうん、ごめんね。あ、ここ座らせてもらうよ」
そう言いながら、ジェラードは空いている席に座った。
前回言った通り……ちゃんと気兼ねをしなくなったね。
「それで、ガルーナ村では何かあったんですか?」
「うん、あったというか、いたというか。
あ、先に注文させてもらうね」
ジェラードは夕食の注文をしてから、話を続けた。
「えーっとね、ガルーナ村に行ったは良いんだけどさ。
ちょっと、慌ただしくて」
「……慌ただしい?」
「うん、王都からかなりの数の兵士が派遣されていてね。
村人はその世話に必死だったよ」
「へ……?」
「王都から、兵士……ですか? 何でまた?」
「その辺りの情報を集めるために、少し滞在していたんだ。
アイナちゃんたちがミラエルツを発つのを逆算してさ」
「なるほど。明日は予備日として、今日戻って来たわけですか」
「うん。連絡手段が無かったから伝えられなかったけど、ぎりぎりまで残ろうかと思って」
「……それにしても、何で王都から兵士が?」
「そもそもの話として、ガルーナ村の疫病関係だったんだ。
大聖堂の聖職者から、王国の方に報告があったようでね」
「それは、わたしがガルーナ村まで一緒にいた人たちですね」
エミリアさんがメンバーとして参加していた聖職者の一行。
そういえばエミリアさんは残していってくれたけど、王都に戻って報告を上げる……って言ってたっけ。
「もしかして、疫病の調査でしたか?
もう何も残っていないと思うんですけど……」
「いや、疫病そのものでは無くて……。
聖職者の報告の中に、王様が反応したものがあったらしいんだ」
「へぇ? 疫病以外で王様が反応するもの……? 何だろう?」
「みんなは知っていると思うけど、村の子供とルーク君が大怪我をしたんだってね?
その原因となる、怪しい宝石があったって話なんだけど――
……でも結局、最終的には見つからなかったんだって? 王様はこの怪しい宝石を、とても気にしていたそうなんだ」
「……それって、アイナ様」
「ああ、うん……」
怪しい宝石……つまり、『疫病のダンジョン・コア』のことだ。
村の子供のジョージ君が怪我をした次の日、私とルークは村人と一緒にその場所を調べに行った。
そこで『疫病のダンジョン・コア』を見つけたものの、ルークは怪我を負って、私は疫病に侵された。
『疫病のダンジョン・コア』は私のアイテムボックスに叩き込んで、何とか事なきを得たんだけど――
……しかし他の人から見れば、その時点から所在不明になっているわけで。
そして私が死線を彷徨っている間に、ルークや村人を含む聖職者たちが再度調べて、そして結局見つけられなかった……という具合かな。
「アイナちゃんとルーク君の話も、しっかり出てきたよ!
ふふふ、大活躍だったね♪」
「活躍のあとは、迷惑を掛けてしまいましたけどね……」
「もちろんエミリアちゃんの、献身的な看病の話も伝わっていたよ♪」
「あ、あれは当然のことをしただけですから!
そんなのまで残さないで良いのにっ!」
「あはは。
……それでジェラードさん、何でその怪しい宝石を探しているかっていうのは分かりました?」
「うーん、そこまでの情報は伝えられていなかったみたい。
それと、気になるだろうから先に言っておくけど――
……アイナちゃんとルーク君にも話を聞きたいようだったけど、優先順位は高くないみたいだよ」
「そうなんですか?
多分、一番近くで見ていたんですけどね……?」
「目撃情報なら、村人からも出てきたからね。既に旅立った二人を探すのも骨が折れるだろうし……。
もちろん、僕がアイナちゃんの仲間だっていうのは伏せておいたから、安心してね」
「場所が知られると、面倒なことになりそうですからね。ありがとうございます」
「いえいえ。
でもガルーナ村には結構いたのに、情報がそれくらいしか取れなかったのは悔しいなぁ」
「そもそも情報が無いんじゃ、仕方ないですよ。
……あ、そういえばガルルンは?」
「それは10個くらい出来ていたよ。
そのうちのひとつがさぁ……あっ、いや、何でもない!」
「えっ、そこまで言っておいて!?」
「ははは、受け取るのを楽しみにしておくんだね♪
それと村長さんも困ってたよ。『誰の手も空かなくて、アイナ様に届けられない』……って」
「……ああ、ランドンさんの困った顔が思い浮かぶ……」
「そういえばアイナ様、ガルルン……の受け取りのために、ミラエルツに残らなくても大丈夫ですか?」
「うん。実は冒険者ギルドで所在照会の登録……この宿屋にいますよ、っていう登録をしてたんだけどね。
ミラエルツを発つときに、荷物を王都に送付してもらうように依頼をしておけば大丈夫」
「アイナさん、いつの間にそんな知識を……!」
「ふふふ、私もやるときはやる人ですよ。
というわけで、ガルルンの受け取りの件は大丈夫でーす」
「分かりました。それでは明日は、冒険者ギルドと挨拶まわりですね」
「おや? アイナちゃん、明日は挨拶まわりかい?」
「はい、オズワルドさんとガッシュさんのところにも行きますよ。
というか、それ以外だとあと1か所ですけど」
「へぇ、それは良いね。僕も付いて行って良いかな?」
「ジェラードさんは鉱山で働いてましたもんね。
分かりました、一緒に行きましょう!」
「ありがとう、ご一緒させてもらうよ」
……その後は歓談をして、少し遅くなった頃に解散。
ジェラードとはしばらく振りということもあって、話を色々と咲かせてしまった。
しかしそれにしても……この国の王様が、『怪しい宝石』に興味を持つだなんて。
もしかして、その正体を知っていたり……するのかな?
私が持っていることは、私とルークしか知らないことではあるんだけど……。