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「リョーカ!!」
モトキが駆け出す。
白い空間に足音は響かない。
それでも、
必死に手を伸ばした。
ようやく届く。
リョーカの腕を掴む。
温かかった。
ちゃんと、
生きている温度だった。
「……っ、お前」
モトキの声が震える。
「また勝手に消える気か」
リョーカは困ったように笑う。
「怒ってる?」
「当たり前だろ」
「えへへ……」
笑っている。
でもその姿は、
少し透けて見えた。
モトキは気付く。
時間がない。
「……どうなってる」
リョーカは少し黙った。
白い空間を見上げる。
「ボクね、今ヴェルトラウムの中にいるんだ」
「中?」
「うん。中心」
遠くで、
無数の声が聞こえる。
泣き声。
笑い声。
叫び。
何千、
何万もの感情が混ざっていた。
「ヴェルトラウムは、人の心を繋げすぎたんだよ」
リョーカが胸を押さえる。
「寂しくない代わりに、“自分”が消えちゃった」
モトキは黙って聞く。
「だから今、ボクが中から繋ぎ直してる」
「……そんなことできるのか」
「できるかも」
少し笑う。
「ボク、失敗作だから」
その言葉に、
モトキの顔が歪む。
リョーカはいつもそうだ。
自分を軽く扱う。
まるで、
自分が壊れて当然みたいに。
「失敗作とか言うな」
リョーカが目を丸くする。
モトキは俯いたまま言った。
「お前がいたから、俺達はここまで来れた」
静かな声。
でも、
震えていた。
「お前がいたから、青リンゴ商会だったんだよ」
沈黙。
リョーカの目が潤む。
「……それ、ずるいなぁ」
泣き笑いみたいな顔。
「そんなこと言われたら、帰りたくなるじゃん」
「帰ってこい」
即答だった。
モトキはリョーカを見る。
真っ直ぐ。
「今度こそ」
「ちゃんと帰ってこい」
リョーカの唇が震える。
その時。
遠くから、
黒いノイズが広がった。
空間が軋む。
ヴェルトラウムの声。
『RX-00』
『なぜ抵抗する』
『孤独は苦痛だ』
『個は脆弱だ』
白い世界の端から、
巨大な黒い影が現れる。
無数の顔。
無数の目。
ヴェルトラウムの本体。
リョーカが静かに振り返る。
「……まだ分かんない?」
『理解不能』
「そっか」
リョーカは笑う。
優しく。
「じゃあ最後まで付き合ってよ」
次の瞬間。
リョーカの身体が、
青白く発光した。
世界中の声が流れ込む。
苦しみ。
孤独。
絶望。
でも。
その中に、
小さな記憶が混ざっていた。
三人で食べた安い夜食。
くだらない会話。
依頼帰りの雨。
ヒロトのうるさい笑い声。
モトキの不器用な優しさ。
リョーカが、
一番好きだった時間。
「……これが」
リョーカは目を閉じる。
「“一人じゃない”ってことだよ」
その瞬間。
青白い光が、
ヴェルトラウム全体へ広がった。
黒い影が揺れる。
『……理解、できない』
「うん」
リョーカが微笑む。
「でも、分からないままでもいいんじゃない?」
ノイズが走る。
黒い空間が崩れ始める。
ヴェルトラウムが、
崩壊していく。
その時。
モトキは気付く。
リョーカの身体が、
消え始めていることに。
「……おい」
リョーカは答えない。
ただ笑っていた。
「待て」
腕を掴む。
力強く。
「待てよ、リョーカ」
「モトキくん」
「帰るんだろ!?」
声が掠れる。
「約束しただろ!!」
沈黙。
リョーカは、
少しだけ困った顔をした。
「……うん」
その声は、
今にも消えそうだった。
「約束、したね」
白い光。
世界が崩れていく。
モトキは必死に、
リョーカの腕を掴み続けた。
離さないように。
もう二度と、
失わないように。
そして。
リョーカが最後に、
小さく笑った。
「じゃあ、迎えに来てね」
次の瞬間。
モトキの意識は、
光の中へ落ちていった。