少年が必死の思いで作り出した血の銃。
だがそれは、無陀野の手であっさりと破壊された。
一瞬血を操れるのかと驚いた彼も、また暴走状態に入りかけている少年に冷たい視線を投げかける。
「(結局こんなもんか…やはり”使えない”。)鳴海、傘の中に入ってろ。」
「え、あ、うん…」
完全な暴走状態に入る前に、妻を自身の血の傘の中に入れる。そして無陀野は再び血を解放した。
無陀野の背後に隠れながら少年の様子を伺っていた鳴海は、あることに気づき目の前にある服を引っ張る。
何事かと振り返った無陀野に対し、彼は慌てたように声をかけるのだった。
「待って!まだ攻撃しないで…!」
「…っつ。」
「!?」
「飲まれて…ねぇぞ…のマ…の…ノノ…飲まれてねぇぞ…この野郎…!」
「(こいつ…無理やり暴走を抑えた!?)」
「嘘でしょ…すごい!すごいすごい!」
きゃっきゃっと騒ぐ鳴海と無陀野が驚きで絶句している間に、少年は完全に暴走状態を脱した。
反動で体が動かなくなったものの、口だけは元気でまた無陀野に突っかかってくる。
血を操ったり、暴走したり、果てはその暴走を抑え込んだり…どれも今までにはない事象で、無陀野も訝しげな表情を見せる。
「どうやった。」
「教えてほしけりゃ舎弟にしろ!」
「(まだ舎弟希望なんだ…)」
「…考えてやる。」
「嘘くさ!まぁいいや!ぶっちゃけ鬼の血とか知らねぇけど、お前血を操るとか言ったろ?どーやんだよ!って思ってる時に…そこにいる天使が声かけてくれて、俺見たんだよ。お前指切って、そっから血で傘作ったろ。そんときビビッときたね。同じ鬼なら、真似すりゃ俺にもできんじゃね?ってな。」
「真似…?」
「フッフッフッ…やり方とか知らねぇからよ…とりあえず脳みそフル回転で、武器出ろって念じまくったんだよ!そしたら出たぞ!はは!どうよ!?」
「なんだその馬鹿の発想は。」
「んだとテメェ!こっち来い!」
「まぁまぁ二人とも…。(ていうかちょっと待って…俺って天使なの?)」
少年の何気ない言葉が気にかかっている鳴海を他所に、無陀野は今の少年の状況を整理し始める。
普通の鬼は理性で上手く調整し、暴走を防ぎ血を操る。
だが少年の場合、理性なんかは一切関係なく、感覚・本能・感情の爆発…こういったもので無理やり血を操っていた。
「もっと色々教えてくれよ…強くなるために…あいつぶっ殺すために…色々教えてくれよ…全部吸収してやる…!そしたらあんたの言う”使える奴”になれんじゃねーの…?だから…舎弟にしてくれよ…!」
「…断る。お前がやったのは、命を雑に賭けた博打だ。自我が保てなかったらどーする?考えてないだろ。対策は複数用意するものだ。予想が外れるたびに0から考えるのか?非効率的だ。」
「ぐっ…!」
「お前を舎弟にする気は1ミリもない。残念だったな。」
「くっ…(どーする…?どーすりゃ…!)」
「お前には俺の生徒になってもらうからな。首の皮一枚だが、合格だ。」
「生徒…?合格…?ん…?」
「やったね少年!!凄いよ!!」
何が何だかサッパリ分かっていない少年を尻目に、鳴海は一発逆転の奇跡に大喜びだ。
今後彼が使える奴になれるかは分からない。だが今は、第一関門である無陀野の試験を突破したことだけで大手柄だった。
合格となれば、今いるこの場所や学園のことについて説明する必要がある。
無陀野の行動を先読みした鳴海は、先程までのやり取りですっかりボロボロになったホワイトボードを示しながら話しかけた。
「ボードが死んでる」
「…効率的に口で説明するぞ。」
「じゃあ入学手続きしてくるね〜」
「あぁ、頼む。」
「少年、名前だけ先に教えてくれる?」
「四季!一ノ瀬四季!」
「四季ちゃんね、了解〜」
明るい笑顔でそう言って、鳴海は小走りで部屋を後にした。
そうして彼を見送ると、無陀野は簡潔に話を進める。
ここが本土から離れた島であり、その中心に鬼のための学校があること。
この羅刹学園は普通の学校とは全く違い、桃太郎機関に対抗するための訓練をメインとした軍隊学校であること。
担任は自分であり、寮に入って訓練を積み、いずれは桃太郎と戦ってもらうこと。
「俺は強くなれるのか…!?親父殺したあいつをぶっ殺せるくらい強く…!」
「お前次第だが、そーなってもらわなきゃ退学だ。」
「強くなれんなら願ってもねぇ!学校でもなんでも入ってやる!」
力強くそう言った一ノ瀬の目は、やる気に満ち溢れていた。
生徒のそんな姿に、事務的な手続きを終えて戻って来た鳴海はまた楽しそうな笑顔を見せる。
「大丈夫だったか。」
「うん、バッチリ!制服もちょうどいいサイズのがある感じだから後で持ってくるね」
「助かる。」
「なぁなぁ!俺、天使と同じクラスがいいんだけど!」
「こいつは生徒じゃないぞ。副担だ」
「え?」
「ついでに言うと嫁だ」
「マジかよ…俺の天使…人妻…」
「ちょいまち。さっきから気になってたんだけど、俺のこと天使って呼んでくれてる?」
「おう!だってお前天使じゃん!」
「いや、天使じゃなくて鬼ね鬼。」
「…あの工事現場でお前が親父の血とか拭いてくれてたとき、俺にすげー優しい顔で笑いかけてくれただろ?そんときに、天使って本当にいるんだって思ったんだ。」
「!」
「だから誰が何と言おうと、俺にとっては天使なんだよ。」
「やっだぁ、もぉ〜!!無人くん聞いた〜?お 俺、天使だって!ちょー恥ずかしい!!でも四季ちゃんこれから天使って呼ぶのやめてね。恥ずかしいから」
「そっかぁ…本当のことなんだから別に恥ずかしがんなくていいのに。でも分かった!鳴海って呼ぶ!」
「う、うん!お願いね!」
いろいろな意味で初めてのタイプの鬼…一ノ瀬四季。
これで今年の新入生が全員揃ったことになる。
さぁ、学園生活の始まりだ。
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