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疲れた。
何もしたくない。
俺は、逃亡が失敗して気力を失いつつあった。
これは間違っている、これは犯罪だ、と何度も自分に言い聞かせないと、これを認めてしまいそうで怖かった。
悠斗は、俺がもう逃げないようにと足枷をつけた。
鎖は十分に部屋を歩き回れるほどの長さはあるが、扉のところまでは届かなかった。
更に、悠斗は仕事に行く頻度を大幅に減らして、食事中でさえも俺と一緒にいるようになった。
「湊、何考えてるの?」
「……特に、何も」
「今は俺と一緒にいるんだからさ、俺の事だけ考えてよ」
「…」
──── あ。まずい、やらかした。
「…湊?」
悠斗の低い声が、俺の脳内を支配する。
『悠斗の言ったこと全てに返事をする』、これは『約束』だ。
悠斗が一方的に作って決めた、勝手な約束。
この約束を破ったら、『躾』の時間が始まる。
俺が最も嫌う、暴力の時間。
「ごッ、!ごめんなさいッ!兄ちゃん!もうしないからッ!約束、ちゃんと守るからッ‼」
「お前それ、この間も言ってただろ?約束守れない弟は、躾けないとなぁ」
悠斗の拳が容赦なく落ちてくる。
髪を引っ張られ、殴られ、蹴られ。
意識が朦朧としてきた。
血が、頭から流れている。
痛い。苦しい。辛い。逃げたい。
(…兄さん、……)
頭に浮かぶのは、こんな最低な兄じゃなくて、俺の本当の兄さん。
明るくて、時々毒舌だけど、優しくて。
いつだって、俺の手を引っ張ってくれた。
置いていくことなんて絶対にしなくて、いつも一緒だった。
幸せだったのに。
俺が何をした?
俺はただ、白城叶の弟の白城湊でよかったのに。
俺が、こんな怪物に目をつけられたから…。
────全部、俺のせいなのか?────