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陸くんと『友達』になってから2週間経った日曜日。
今日は陸くんに誘われて映画を観に行く約束をしていた。
「うーん…これでいいかなぁ~」
クローゼットから何着か服を取り出し、鏡の前で1人ファッションショー状態。
着ていく服がなかなか決まらなかったけれどようやく決まり、ふと時計に目をやった。
「やだ!もうこんな時間!急がなきゃ」
気付けば約束の20分前。
出しっぱなしの服はそのままに、急いで洗面台へ駆けて行く。
(…何か、妙に気合い入っちゃってるなぁ…)
そんな事を思いつつ、あたしは手を休めること無くメイクやブローを済ませた。
あの日、陸くんに告白された事は純粋に嬉しかった。
今まで何度か恋愛してきたけど、陸くんが言ってくれた『俺なら、実桜さんにそんな顔させない』という言葉にときめいた。
あの時、この人ならあたしを愛してくれる、幸せにしてくれるって思えた。
…でも、あたしは22歳の社会人、陸くんは17歳の高校生。
(…社会人のあたしと高校生の陸くん…。これって軽く犯罪よね…)
最近、気付けばその事ばかり考えている。
「…はぁ」
そして出るのは溜息ばかり。
「駄目駄目!溜息ばかりじゃ!とにかく、今日は友達として陸くんと映画を観に行く!」
そう自分に言い聞かせながら準備を終えたあたしは陸くんが訪ねて来るのを待った。
ピンポーン
約束の時間ぴったりに陸くんはあたしのアパートへやって来た。
「おはよう、実桜さん」
いつにも増して嬉しそうな陸くんに、
「おはよう!」
つられてあたしも笑顔になる。
陸くんの笑顔を見ると、それだけで嬉しい気持ちになれる。
陸くんには今までに出会ったどの男の人とも違う魅力を感じていた。
「実桜さん、今日してるピアス可愛いね」
「ホント?ありがとう!この前見つけて、一目惚れして買ったの」
あの日から電話をしたり、トークアプリでメッセージのやり取りをしていたあたし達。
そのおかげで少しずつ、お互いの事を知れた気がする。
知っていく上で、陸くんは女の子慣れしてるという事に気づく。
これは別に悪い意味じゃなくて、いい意味で。
今みたいに小さな事に気付いてくれたり、女の子が望む事を言わなくてもしてくれるって言うのかな?
それって凄く素敵な事だと思う。
あたしはそんな陸くんにキュンとさせられてばかり。
「陸くんもその靴、新しいよね?似合ってるね」
真新しい靴を目にしたあたしがそう口にすると、
「ありがとう!俺も一目惚れしたんだ」
言って陸くんは笑みを浮かべた。
こんな他愛のない会話だけど、陸くんとだとすごく幸せに感じられる。
あたし達は会話を弾ませながら、街に向かって歩いて行った。
映画館に着いたあたし達はチケットを購入して席に座った。
今日観るのは陸くんの希望でサスペンスホラー。
あたし自身、ホラーは比較的平気な方だし、話題作という事もあって楽しみにしていた。
暫くして、明かりが消えて映画の予告が流れ始める。
「始まるね!わくわくする」
「そうだね」
小声で会話をしたあたし達はそれぞれスクリーンに目を向けて本編開始を心待ちにした。
ストーリーは学校を舞台に様々な怪奇現象が起こり、生徒が1人ずつ不可解な死を遂げていくというもの。
物語が終盤に差し掛かるとホラー映画らしく恐怖心を煽ってくる。
周りでも小さな悲鳴が聞こえてきた。
(流石に…少し怖いかも…)
大きい効果音や恐怖を煽る演出にビクついていると、
「大丈夫?こうしてたら怖くないでしょ?」
そう声を掛けてくれた陸くんは、あたしの手を取って繋いでくれた。
「!!」
いきなりの事に驚いたあたしの鼓動はどんどん速まっていく。
(手、繋いじゃってる……)
しかも、俗に言う『恋人繋ぎ』。
慌てふためくあたしとは対称的に落ち着いている陸くん。
ついさっきまで怖かった筈が、繋がれた手から伝わる温もりにいつしか恐怖心は薄れていた。
だけど、繋がれた手が気になって結局その後のストーリーをまともに観る事が出来なかった。
この一件以来、あたしは陸くんの事を更に意識していった。
日に日に増していく、陸くんへの想い。
けれど、
制服を着ている『高校生』の陸くんを見ると、どうしてか胸が苦しくなる。
朝たまたま家を出るタイミングが被り顔を合わせることもしばしば。
「おはよう、実桜さん」
「…おはよう、陸くん」
手を伸ばせばすぐに触れられる距離に居るのに、何故だか凄く遠くに感じてしまう。
そして、
「陸、おはよ~」
「おはよう!」
通りがかった友人達に挨拶を返した陸くん。
「じゃあ仕事頑張ってね、実桜さん」
「あ、うん。ありがとう」
あたしに一言声を掛けてくれた陸くんは友人達の元へ駆けていく。
同い歳の友人の輪の中に居る陸くんは、『高校生の男の子』そのものだった。
あたしと居る時は、どこか大人びてるというか、背伸びしている印象が強い。
(…あんなあどけない顔もするんだなぁ…)
こうして陸くんの新たな一面を知れて嬉しい筈なのに、寂しさを感じてしまう。
「あたしは、どうしたいんだろ…」
自分の気持ちがよく分からないあたしは、そう呟く事しか出来なかった。